ネコのバイオリン弾きU「月の呼び声」(後編)
ミルドラ校長先生に手を引かれたシニファンは、建物の前まで来ると
ちょっと立ち止まって、そびえるように高い音楽学校を見上げました。
赤い屋根の時計台が、そんな子ネコをしずかに見下ろしています。
「いいですか?」
ミルドラ校長先生にたずねられて、シニファンはしずかに、大きく首
をたてにふりました。
長いろうかをあるくときも、シニファンはよそ見をしたりしません。
でもその小さな耳は、教室からもれてくるバイオリンの音をたどって、
右に左にいそがしく動いていました。
(すごいな。バイオリンの音って、ネコによってぜんぜんちがうんだ)
ひざしのように、やわらかな音。
せせらぎのように、すずしげな音。
中にはのこぎりで木を引くような、ちょっとらんぼうな音もします。
「どう、なかなかおもしろいところでしょう。きっと毎日楽しいわよ」
シニファンはミルドラ校長先生ににっこりと笑いかけました。
そうして校長先生に手をひかれ、音楽学校の長いろうかを耳を左右
にぴくぴくさせながら歩いていきました。