「なんだよ、その、大いに得になる話って」


 ルーニャは目をほそめ、うたがわしそうな顔をして、ドミニクをひじで

つっつきました。

「じつはな、おれ、今までだまってたけど」

「ほら、もったいつけるなよ」

「うるさいな、せかすなルーニャ。じつはおれな、この音楽会が終わったら

『ドールハウス』の踊り子、ラミューシャといっしょになるんだ」

「なんだって!」

 ルーニャが、大きな声でさけびました。

 シニファンも、目をまん丸に見ひらいています。

「あのな、ラミューシャちゃんは、まだ十六歳にならないだろう? 結婚

なんてできるはずないじゃないか!」

「いや、こんどの音楽会の日が、ちょうど十六歳の誕生日だ」


「だけどなあ」

 あっけにとられているルーニャの横で、シニファンがおだやかにいいまし

た。

「だいじょうぶだよ、ルーニャ。ラミューシャちゃんとはあまり話したことは

ないけど、でもあの子がたとえまだ十六歳だろうと、ドミニクよりずっと

おとななことは、まちがいないさ」

 ドミニクは、ふんっと鼻をならします。

「だろ? くやしいけれどそのとおりさ。でだ。ここでシニファン・エリクナ

ルドが異国の歌姫リミエラ嬢とかけおちする。そのあとおれが、ラミュー

シャと結婚したいと学院に持ちかければ、学院の年よりどもだって、ま

さかダメとはいえないだろう」

「あきれたな。けれどたしかに、そのとおりだ」

 ルーニャは肩をすくめて、ため息をつきました。

「何にせよ、ぼくのすることがだれかのためになるのなら、それにこした

ことはない」

 シニファンはしずかに小さくうなずきました。

「まあ、そういうわけでシニファン、おまえはおれに借りができたなんて、

まちがっても思わないでくれ」

「わかった」

 こうして秘密の話し合いが終わると、ルーニャはむすめのミトラにお茶

をいれてもらいました。

 そしてミトラも入れて四猫で楽しく話をしたあとで、用事があるといっ

てドミニクは先に帰っていったのです。