バイオリン弾きのシニファン・エリクナルドが北方の国ソルティムガラン
の歌姫リミエラとはじめて出会ったのは、三年前のある音楽会のことでし
た。
ルーニャやシニファンやドミニクの住む国アルゼミントでは、ネコが声を
あげて歌うなど、これまで誰も思いつきもしなかったのです。
はじめて聞くリミエラの美しい歌声を、どの猫もたたえました。
中でもバイオリンを弾きながら、リミエラと音楽会の舞台でひとつの曲を
わかちあったシニファンは、すぐに恋に落ちたのです。
しかし音楽会の管理をしているバイオリンの学院は、シニファンと異国
の歌姫との結婚を、けっしてみとめようとはしませんでした。
そして時を同じくしてソルティムガランには大きな戦争がおこり、歌姫
リミエラは国に帰ることができなくなったのです。
帰れなくなったリミエラは、たとえ結婚できなくとも、一生をシニファン
といっしょにアルゼミントでおくろうと考えていました。
けれどもつい三ヶ月前、おとうさんとおかあさんがが無実の罪で牢にいれ
られたことを聞きつけたリミエラは、命をかけてソルティムガランへ帰るこ
とにしたのです。
シニファンは、リミエラとわかれてくらすことはできないと感じました。
そこでなやみになやんだあげくアルゼミントをすてて、リミエラととも
にソルティムガランへ発つことにしたのです。
大音楽堂での音楽会はシニファンにとって、この国で最後の音楽会とな
るのでした。