「ドミニクの方こそ、きみのおかげで毎週末の『ドールハウス』は大入り
満員。とうとう週末にはイスもテーブルもおかず、お客をつめこめるだけ
入れることにしたって聞たが」
「いいや、そいつはちがうね。イスとテーブルがなくなったのは、のぼせ
あがった大バカな客が、イスもテーブルも投げてあばれたからさ」
「ふふふ、どちらにしろ、きみのバイオリンが原因なのはまちがいない」
「さあ、どうだか」
ドミニクとシニファンの間に、みょうな空気がながれはじめて、ルーニャ
はあわてて譜面をシニファンに押しつけました。
「ほらほら、見てよ」
「ああ、すまん」
シニファンはさっと譜面をうけとると、じきにさまざまに表情をかえて、
食い入るように楽譜をよみはじめました。
「これは……まあまあ、なんていったらいいのか、見すかされたようでは
ずかしいね。こんなものを作ってもらったら、ぼくはこの国を出ていくのを
ためらってしまうよ」
シニファンはてれて笑いながら、うれしそうに目をほそめています。
「そうさ。そう思ってもらえるように、作ったんだから」
あいまいな笑顔で、ルーニャはこたえます。
「だけどもう、決心はかわらにんだろ?」
ドミニクは目をふせながら、しきりにびんぼうゆすりしています。
「ああ。それはもう変えることはできないよ」