部屋に通され手もちぶさたのドミニクは、居間をぐるりと見まわします。
「いつきても、気持ちのいい部屋だよな」
家具は古いもののよくみがかれ、ソファには清けつなかけ布がか
かり、窓はよく透き通って、庭には季節の花がほころびかけていました。
「パニエさん、いそしいのによくやるよ」
ドミニクがソファにもかけず、腕を組んだままふんふんとうなずいてい
ると、ふいにドアが開いて、小ぶとりのトラ模様のネコがかけこんできま
す。
「いやあ、待たせてわるい」
小ぶとりのトラ模様のネコは、りょうの前足にいっぱいに大きな紙を
数枚をかかえて、つんのめりそうに走ってきます。
「ふふん、ルーニャ。おれはこの件だけは急かさないよ。おまえはか
けた時間だけの仕事を必ずする優秀な作曲家だからな」
「いやいや、そういってもらえると、こちらもやりがいがあるよ。なんと
いってもこんどの演奏会は、この国はじまっていらい、はじめて建築
される音楽堂のこけら落としだ。ましてや天下に名をはせた二匹の
天才バイオリン弾き『ツイン・ジーニアス』が二匹同時に演奏しようっ
ていうんだ。腕をふるわないわけにはいかないよ」
満面に笑みを浮かべたルーニャは、ソファの前のひくいテーブルに
楽譜を広げました。タツノオトシゴがダンスをしているような美しい記
号が、紙の上におどっています。
「よせよ。すくなくとも、おれは天才なんかじゃない。それよりこれ、お
みやげ。あ、おまえにじゃあないからな。無事に双子を産み終えたパ
ニエさんにだ。でもおまえにも、いちおう『おめでとう』はいっておくか」
ドミニクは赤い皮ぶくろの中から、ちゃいろの紙ぶくろを出してルー
ニャにわたしました。