ふたりがたどりついた下町の通りは、ネコであふれていました。


 午後の日射しが、通りの石畳からまいあがるほこりをオレンジ色に

そめる中を、たくさんの干魚をつんだ荷車がギシギシと音をたてて通

りすぎます。


 ずきんをかぶった花売り、揚げた魚を食べながら歩く子猫たち、道

をふさぎながらしきりに商売の話をしている太った三匹の猫、そして

買い物途中のたくさんのおかあさん猫たち。


 ルーニャとドミニクはそんなネコたちをすいすいとよけて、めざす

建物へとやってきました。


 そりかえったきてれつな赤い屋根の下には、黒いかんばんにおど

るような金の文字で『ドールハウス』とかかれています。


「さ、入ろうぜ。おれといっしょなら、誰も文句はいわないさ」


 ドミニクはかた目をつぶると、古くて重そうなドアをきしませながら

開けました。


 薄暗い店の中は、がらんとして何もありません。


 ですが正面の舞台だけが、ランプでほの明るくてらされていまし

た。

 ルーニャは、前足でごしごしと目をこすりました。

「あれは、本当にネコなのか。妖精じゃないのか?」


 そこでは、白いベールを身にまとったうす茶色の、まだ子猫と

いってもいいネコが踊っていました。


 明かりにすかした毛並みは、金色にかがやいています。


 何度も跳ねながら、前足を後ろ足をすばやく動かすさまは、まる

で炎のようです。


 そのかろやかな動きから、うす茶色のネコには重さというものが

まったくないかのように思われました。


「おーい、ちょっといいかい」


 きさくな調子でドミニクが声をかけると、うす茶のネコの動きが

ぴたりととまりました。


「何しに来たのよ、まだ早いじゃない。またたびだったら、あんた

には一滴たりともださないからね」


 大きく真っ黒な瞳が、ふたりをきっとにらみました。


「ち、ちがうよ。こんどの音楽会の打ち合わせに、ちょっと場所を

借りようと思って。もう一度紹介するよ。作曲家のルーニャだ」

「こんにちは……」