「このはしごの上が、出入り口だ。ふたがあるからずらして開けろ。気

をつけろよ。中からなら開くけれど、外からは絶対開かないよう仕掛け

がしてあるから」


 はしごの下から、ドミニクのおとうさんが声をひそめていいました。


 天井には金(かね)でできた出入り口があり、とめ金はバネ仕掛け

になっています。


 ドミニクは重い金のふたを、全身の力をこめ、ぶるさがるようにして

ずらしました。


「うぇっ、まぶしい!」


 出てきたところは音楽堂の塀の外でした。ちょうど真裏にあたりま

す。

 目の前は、いちめんの草地です。

「どうでぇ。これなら誰にも見つからずに、シニファンさんも逃げ出せ

るって寸法だ」


「ええ。文句なしに、すばらしいです」


 ルーニャはドミニクのおとうさんにかけよって、握手をしました。


 ドミニクはさみしげな笑いをうかべて、音楽堂をふりかえります。


「ああ。まさにこの音楽堂は天才バイオリン弾き、シニファンのため

にあるんだな」


 そのことばに、ドミニクのおとうさんは目をつりあげてどなりました。


「ふざけんじゃねぇ、これはおれの音楽堂だ!」


 ドミニクはあっけにとられた顔をしています。


「おやじの……音楽堂?」


「あたりめぇじゃねぇか。おれが考えておれが建てておれの名前を

永久に刻むための音楽堂だ。見ろ、ちゃんとここにも書いておいた」


 ドミニクのおとうさんは、いま三人が出たばかりの金のふたをツメ

でさします。


 見れば足下の金属のふたには、ドミニクのおとうさんとカカラドと

サムラの名前が、大きくうきぼりにされていました。


 ドミニクは、大声で笑い出しました。


「そうか、これは誰のためでもない『おやじのための音楽堂』なんだ。

そうか、そいつはいいや!」


「ふん、いまさらあたりめぇのことをいいやがって。いいか、たとえ

バイオリン弾きがあらゆるネコからもてはやされて、若い美猫のかみ

さんをもらえたとしてもだ。音楽は弾き終えたら消えてなくなる。だが

おれの建てた音楽堂は、これから先におれが死んだあともずっとずっ

と残って、おれをたたえるんだ。ざまあみろってんだ」


 そういうとドミニクのおとうさんは、ルーニャにだけ前足を上げてあい

さつをすると、まだずっと笑い転げているドミニクには目もくれず、ゆっ

くりと去っていきました。