「明かりを貸してくれ。おれのあとについて、中に入るんだ」
ドミニクのおとうさんは明かりをかかげると、ゆっくりと通路の中へ入っ
ていきました。
窓も何もない暗くせまい道では、足音やかすかなはずの物音がひどく
大きくひびきます。
そして通路は、表のホールや控え室や廊下をよけてつくられたので、
右へ左へとくねくねまがって続いていました。
どこから入るのか、つめたい風が細く鳴ってヒゲをゆらしていきます。
「そうそう。ドミニクもルーニャさんも、足の下になにか落ちてたらひろっ
てくれ。音楽会の日はこの暗い中を、たぶん走っていくのだろうから」
ドミニクのおとうさんの声が、余韻をひいて通路にこだましていきます。
ルーニャはだまって、強く歯をかみしめました。
(そうだ。シニファンはここを通って、去っていくんだ)
きっとシニファンは案内役のドミニクとともに、これ以上はないほど早く
駆け抜けていくのでしょう。
そう考えるとうしろからせまる闇が、ルーニャの心の中にまでしみて、
そめあげていきます。
しかし今日のこの今は、足の具合の悪いドミニクのおとうさんにあわせ
て、三猫はゆっくりと通路をいくのでした。
「だけどよく、こんなもん作れたなあ」
ドミニクは歩きながらせわしく頭を動かして、天井や壁や床をしげしげ
と見回します。
「あったりめぇだ。このおれにできないことなんかあるもんか」
「ああ、はいはい」
三猫がだまってしまうと、よけい暗さが増してきます。
うつろな道をシタシタとカツカツとサラサラと、ルーニャたちの歩む音
が通路を満たしていきました。
「さあ、ここが出口だ」
通路のつきあたりはすこしだけ広くなっていて、まるでこの世ではない
場所へとつづくように、はしごが上へと伸びていました。