「すごい。これが音楽堂かい。なんて不思議なかっこうなんだ。まるで

大きなプディングみたいだ」


 ルーニャは円形の大きな音楽堂を見上げて、目を丸くしています。


「だろ。作ってるやつらの間でも『ビッグ・プディング』ってあだ名がつい

ている。屋上のふちが焼きたてのプディングみたいにもり上がってる

し、てっぺんの真ん中には赤銅色のさくらんぼうみたいなのまでのっか

ってるしな。あれがミソなんだ」


 ドミニクはまるで自分が建てたように胸をはって、ルーニャに説明しま

した。


 だからうしろから、誰かがそっとゆっくり近づいてくるのに、まるで気が

つかなかったのです。


「よっ」


「うわあっ!!」


 ルーニャとドミニクが体中の毛を逆立ててふりむくと、そこには真っ白

でがっちりとしたひとりのネコが立っていました。


 ドミニクのおとうさんです。


「このバカむすこめ。親が声をかけたのに、うわあはねぇだろう」


「はんっ、このくそじじい。親だろうが子だろうが、いきなり驚かされたら

誰だってびっくりすらあ」


 ドミニクはとんでもない口をききながらも、まだヒゲをふるふるとふる

わせていました。


「あいかわらず親不孝でだらしのない息子だ。それより仕掛けの説明

をするから、こっちへ来い」


「いてっ!」


 ドミニクのおとうさんはドミニクの耳を一回ぎゅうと引っ張ると、足を

引きずり体をゆらして歩き出しました。


「親方、お世話になります」


 ルーニャはドミニクのおとうさんの横を歩きながらも、ていねいに挨拶

しました。


「ああ、こっちこそいつも息子が世話かけてすまないな。まあ何にもか

まえねぇが、どこでも見てってくれ。とりあえず今は仕掛けだ」


 三猫はネコの高さの三倍もある入り口の大きなとびらをくぐると、ホワ

イエに出ました。ここは席に着く前や休み時間に、ネコたちが待ち合わ

せをしたり、話をしたり、お茶を飲んだりするところです。


 ホワイエは、左右に長い三日月の形をしています。


 正面の真珠色のきれいな壁には、ホールに入る扉が五つもついてい

ました。


 ドミニクのおとうさんとドミニクそしてルーニャは、真ん中の扉を開けて

中に入っていきます。