コンコン。


 ミトラひとりになった家に、ノックの音が小さく響きました。


「はーい、どなたですか」


 おるすばんにたいくつしていたミトラは、こっそり座っていたパパの

いすからかけだすと、ドアの前で耳をぴくぴくと動かします。


「ミトラちゃん、いるかしら」


「はいはーい、いますいます。どなたでしょう」


「うーんとね。ああでも、あなた、わたしのことおぼえているかしら」


 いきなりそういわれて、ミトラは頭の中が真っ白になってしまいました。

 しかし、お客様に失礼があってはいけません。

「えーと、えーっと……どなたでしょう」

「あのね、パパのコンサートで、あなたのことをだっこしようとしたけど、

あなたがあんまり大きくなったから、とうとうだっこできなかったおば

さんよ」


「あ、おぼえています」


「ちょっとお話があるんだけど、開けてもらえるかしら」


「はーい!」


 元気な声でこたえると、ミトラはそっと玄関のドアを開きました。


「おひさしぶりね」

「ええ。でも残念ながら、パパは今るすなんですけど」


「いいの。今日はあなたにお話があるの」


「まあ、それはステキ!」


 ミトラは目をキラキラ輝かせながらお客様を居間へとお通しして、

お茶をいれるために台所へパタパタとかけだしていきました。