ドアがしまりドミニクが帰ると、シニファンはルーニャにあらためてむ

きなおりました。


 ミトラは新しいお茶を、三つのカップにコポコポとそそぎます。


「こんどの音楽会はほんとうに楽しみだ。今までおもてにでなかった、

ドミニクの新しい面がこれで聞ける。もちろん、ぼくのかくされていた

一面もあばかれてしまうんだけど」

「うん。それがねらいだから」

「ふふふ。きみも悪趣味だね」

「ひどいなあ。今回できるだけ多くの人に、ふたりのいろいろな面を

知ってほしかったんだ。特にドミニクは一部の頭のかたいネコたちに、

ただ演奏が派手なだけだと誤解されているから。あのくらい繊細な奏

者もめずらしいくらいなのに」


「耳でなく、頭で聞いてしまうネコもいるからね」


「そうなんだ」

「ところで、ぼくのことはどう思う?」

「シニファンはもう天然だから。かなりずぶとい」

「ひどいな……でもそれはあたってる」

 そういうとルーニャとシニファンは、大きな声でわらいました。そし

てシニファンは、ミトラのあたまをそっとなでると笑顔で帰っていった

のです。

 急にしずかになった部屋でむすめとふたりきりになったルーニャ

は、まじめな顔でいいました。


「ミトラ。今日のドミニクおじさんの話も、シニファンの話も、ほかの

ネコにはけっしていってはいけないよ」


 ルーニャはおとな用のいすにすわって、おすましをしています。

「わかってるわ。ぜったいにないしょ。ふふふ」

 ミトラは「ないしょ」のところだけ一段と大きな声でこたえると、

いすからぴょんととびおりて、食器をおぼんにうつしはじめました。


「でもさあ、パパ。ドミニクおじさん、だいじょうぶなのかしら。いっつも

おかしなことばっかりいってるけど、おじさんはいろんなことを気にす

るネコだから」

「さあね。でもまたすぐに、パパのところへまたやってくるだろうさ」

「どうしてわかるの」

「だってほら」

 ルーニャはいすの上をつめでしめします。

 そこにはドミニクの鳥打ち帽が背もたれのところにちょこんとひっ

かかっていました。