ネコのバイオリン弾きW 「流星」
よく陽の当たる丘の道を、一匹のぶちネコがあるいていました。
鳥打ち帽をはすっかいにかぶり、はやりの青い皮ぶくろを肩にかけて歩く
ようすは、なかなかの伊達者(だてもの)ぶりです。
「しかし、たしかにこのあたりはいいところだけどよ」
ぶちネコはおでこに汗をにじませながら、大きく息をつきます。
「なんといっても、おれみたいな都会ぐらしのにあうネコには、ちょっと街
から遠すぎるよな。おまけに坂がきつすぎる。これさえなければ、もっ
とちょくちょく遊びにきてやるのに」
道の横には秋のはじめの野の草の、黄やうす青の花が見わたすかぎり
につづいています。
そんな野はらをうねうねと上っていく道のとちゅうには、かんたんな
かきねをつけた赤や青の屋根の家が、ぽつんぽつんとたっていました。
ぶちネコは息をはあはあさせて、一けんのうちのドアの前にたちます。
赤いやねで白いペンキが美しくぬられた、こざっぱりした家です。
呼び鈴をならすと、トラ模様のかわいらしい子ネコがでてきました。
「よっ、ルーニャはいるかい?」
「こんにちは、ドミニクおじさま。パパはまだ仕事部屋にこもったままで
す。どうぞお入りください」
「おお、ミトラちゃんももう六歳、りっぱなレディになったよなあ。そうだ、
おとうとといもうとがいっぺんにふえたんだものなあ。レディにもなるよ
なあ」
「いやだあ、ドミニクのおじさまったら。」
ミトラとよばれたトラ模様の子ネコはちょっとだけはにかむと、庭の前
にある日当たりのよい部屋にドミニクを通しました。
「では、しばらくお待ちください」
ミトラはぺこりとおじぎをすると、ドアを閉めてタッタッタッと走ってい
きました。