「ほほお、しらなかったのかい。それじゃあ、さぞかしさみしい思い
をしただろう」
次の日のあさ、食堂でパルフォじいさんからシニファンのひみつを
聞いたとき、ルーニャは心底おどろいてしまいました。
「そうなんだよ。シニファンはしゃべれないんだ。いやしゃべれなく
なってしまった、といった方がいいだろう」
「そういうわけだったんだ。てっきりぼくがきらいなせいかと思って
いたんだけれど」
「それはちがう。シニファンは心のやさしい子だから。ただおまえさ
んのように小さいころ、いろいろつらいことがあったのだろう。その
せいでしゃべれなくなってしまったらしい。かわいそうになあ」
ルーニャは、シニファンの黒くつやのある毛並みを思い出して、
胸がきゅんとしめつけられました。
「ルーニャ、おまえさんもそうならんように、心をのびのびとさせて
おくことがだいじ……ウッ、ウホッ、ウホッ」
「パルフォだいじょうぶ? さいきんずいぶん咳がでるみたいだけれ
ど」
「なあに年をとれば体のどっかしらが悪い方がふつうなんだよ。わっ
はっは。さあ、スープのおかわりにいこうか。ルーニャはどうする?」
「ううん、ぼくはもういいや」
ルーニャにとってはあまり口にあわない学校の食事でしたが、パル
フォじいさんには好物ばかりのようです。
(パルフォ、演奏会までになおるといいね)
ルーニャはおたまでスープをすくうパルフォじいさんを見ながら、
心の中でそっとつぶやきました。