「おーい、早くしなさい。馬車がついたぞー」
一階からおとうさんが呼ぶ声が聞こえました。
ルーニャは大きなボストンバッグをひきずるように持って、二階か
らおりていきます。
あれからおとうさんとおかあさんは、何度も話し合いました。
そして、ルーニャを音楽学校に寄宿させることにしたのです。
おりてきたルーニャの大きなボストンバッグを片うでにミーシャ
を抱いたおかあさんが持ってあげようとしました。
しかしおとうさんはおかあさんの手をとめて、ルーニャにこういっ
たのです。
「ルーニャ。神様はおまえを特別に選んで、ヒゲを鳴るようにしてく
ださった。だからこれからどんなに苦しいことがあっても、神様にた
めされていると思って、がんばるんだよ」
ルーニャは大きく目を開けて、こっくりとうなづきました。
家の前で待っていたのは、馬車といってもほし草を運ぶ車にわらを
しいただけのそまつなものでした。
ルーニャはボストンバッグをひきずりながら、やっとの思いで馬車
のります。
涙が目にじわじわとわいてきましたが、おかあさんのうでの中にい
るミーシャが、手をにぎにぎしながら笑っているのをみると、泣くわ
けにもいきません。
「おとうさんおかあさん、いってきます」
ぴしっとむちの音が聞こえて、馬車が動きだしました。
ルーニャは手をふりました。おとうさんとおかあさんも手をふって
います。
そして馬車が青い屋根の家のかどをまがったところで、おとうさん
とおかあさんのすがたは見えなくなり、ルーニャの目からは涙がぽろ
ぽろとこぼれおちたのです。