演奏会の終わった帰り道、トラもようの子ネコのルーニャはいつも

のようにほっぺをまっ赤にしていいました

「おとうさん、シニファンってほんとうにすごいね。ぼくはシニファ

ンの曲を聞くと胸がどきどきして。お月さまがいつもの倍も明るくな

ったような気がするよ

「そうだね,ルーニャ。ヒゲ鳴るネコはみんな神様から選ばれたネコ

だけれど、シニファンはその中でもまた特別だね」

 バイオリン弾きには、練習をすれば誰でもなれるというわけではあ

りませんヒゲの鳴るネコはかぎられています

 しかし生まれつきというわけでもなくある日突然、ほんとうに神

様に選ばれたように、つめでヒゲをこすると鳴りだすのです

おかあさん、ぼくもそのうち、ヒゲが鳴りだしたりしないかなあ」

そうねえ。でも、バイオリン弾きになるのはたいへんよ。ヒゲをじ

ょうぶにするために干したおさかなしか食べられないし、つめが割れ

るとたいへんだから、ルーニャのすきなサッカーもできなくなってし

まうわ。それに、ルーニャはつめがひっこむようになったばかりで

しょたいていのネコはもうすこし大きくなってからヒゲが鳴るもの

なの

 おかあさんはだっこしている妹のミーシャの頭をなでながら、そう

いいました。

ぼく、シニファンみたいなすごいバイオリン弾きになれるんなら、な

んだってがまんするよ。あーあ、ぼくも今すぐヒゲが鳴るようになら

ないかなあ」

 ルーニャは立ち止まって、左の前足の黒い豆のようなところにヒゲ

をはさむと、右の前足から一本つめを出してしずかにそれをこすりは

じめました

 

 るーーるるるるるるっ

 

 道を歩くネコがみんなルーニャをふりかえりました

すごいぞ、あんな小さな子のヒゲが鳴っている

それに、なんてきれいな音なんでしょう

 おとうさんもおかあさんもびっくりしてルーニャの顔をのぞきこ

んでいます

うわあ、もしかしたらぼくも、シニファンみたいになれるかもしれ

ないんだ」

 思いがけない幸運に、ルーニャのほっぺはますます赤くなりました。