いよいよ演奏会の最後の曲になりました。シニファンの演奏がはじ

まります。

「おまえさ、いっしょの部屋でシニファンからいじわるされたりして

ないか?」

 ルーニャの耳元で、ドミニクが小さな声でたずねました。

「とんでもない。とてもやさしくよくしてくれるよ」

「ふうん、そうなんだ。黒ネコって、なんかちょっといじわるそうに

みえるから……」

 シニファンの曲が流れ出すと、やんちゃなドミニクもさすがに口を

つぐみます。

 どんな夜風よりもさわやかに、どんな月明かりよりもやさしく、

どんな思い出よりもなつかしいシニファンの曲に、聞く人すべてが酔

いしれています。

(ああシニファン、ほんとうにすばらしいよ)

 ルーニャもうっとりとして耳を傾けました。

 こうして満月の夜、演奏会は大いにもりあがって幕をおろしたので

ありました。