「おいルーニャ、いいかげんにしてくれよ。ちっとも練習がすすまな

いじゃないか」

 ドミニクがこわい顔をしてルーニャをにらんでいます。演奏会まで

あと一週間なのに、ルーニャは課題曲がうまく弾けません。

「ドミニク、ほかのもののことはいいから、自分の演奏に集中しなさ

い」

 先生はタクトで机をたたいてドミニクを注意しました。でもドミニ

クがいうとおり、練習がすすまないのはルーニャがなかなかうまくな

らないせいでした。

(バイオリンを弾くのが、こんなにむずかしかったなんて)

 ルーニャは歯をくいしばってがんばりましたが、まだ小さいせいも

あって課題曲をおぼえきることができないのです。

「はい、ストップ。しかたないな、ドミニクとパルフォは部屋にもど

っていい。ルーニャはもうすこしここにのこって、しばらく練習する

ように」

 ルーニャは悲しいようなほっとしたような、複雑な気分でした。

「おいルーニャ、今日中にちょっとはマシにしておけよ」

 ばたんと大きな音をたてて、ドミニクが部屋を出ていきました。

そのあとでパルフォじいさんがルーニャにそっと耳打ちをします。

「できればバイオリンはもっと楽しんで弾いた方がいいぞ。神様から

のだいじなさずかりものなんだからな」

 パルフォじいさんはルーニャの方をぽんとたたいて、部屋を出てい

きました。

「じゃあ、もう一度はじめから」

 先生のタクトにあわせて、ルーニャはまた課題曲を弾きはじめます。

(そうさ。ぼくだっていつかシニファンのように上手になるんだ)

 窓の外には、日の暮れきった空にルーニャの夜のひとみのような、

すこしふっくらとしたお月さまが小さくのぞいていました。