シニファンは必死に飛んでいって、ふたりを止めようとします。
でも腕をつかもうとしても体を押しとどめようとしても、さしだす手
がすりぬけてしまってどうすることができません。
やがてうしろからガラガラと大きな音をたてて、ものすごいいきおい
で馬車がやってきました。御者は目を歯をむき出したおそろしい顔で、
たずなを引きしぼっています。
おかあさんははっとした顔でさけぶと矢のように走り出し、もうひと
りのシニファンを力のかぎりに突き飛ばしました。
そして。
シニファンは何もかもを見ました。
バラバラにこわれた馬車の前で立ちつくす、もうひとりの自分のうし
ろで、やっとすべてがわかったのです。
目がさめたシニファンはいつの間にはこばれたのか、二段ベッドがた
くさんならんでいる寝室の自分のベッドの上にいました。
(そうか。おかあさんにはもう会えないんだ)
窓の外にはあざやかな花ににたオレンジ色の夕焼けが、しずかに照り
映えていました。