シニファンは大きく目を開けて、ほこりだらけになってしまったおか

あさんの肩の毛並みにそっとさわりました。

「あ、ああ」

 苦しそうにふるえながら、おかあさんは弱々しく頭をあげました。

「シニファン、よかった」

 おかあさんは笑いました。ぽっかりと浮かぶ真昼の白い月のような笑

顔です。でもそれはすぐにきえて、またがっくりと頭をおろしました。

「おかあさん?」

 シニファンがふれつづけている肩の毛並みは、どんどん冷たくなって

いきました。

「さあさあ、どいたどいた」

 うしろからネコたちをかきわけて担架を持ったおとながふたり、シ

ニファンのそばにやってきました。

 おとなたちはおかあさんと茶色の猫を担架に乗せると、どこかへ連れ

ていこうとします。

「まってよ、おかあさんを連れてかないでよ」

 担架を持ったネコが歩きながら振り返りました。

「きみのおかあさんかい?」

 シニファンはこっくりとうなづきます。

「じゃあついておいで。丘のてっぺんのお医者様のところにいくから」

 そういうと担架をかついだネコたちは静かに走りだしました。シニ

ファンもけんめいに走りましたが、おとなのかけ足にはかないま

せん。

 担架はみるみる小さくなってやがて坂のいちばん上のマッチ箱のよう

な家にすいこまれていきました。