「ねえ、今日はどんなものが売っているかな?」
「そうねえ。いつも市場には、びっくりするようなものあるから楽しみ
ね」
このあいだは自分の体より大きな泥なまずを見ました。なまずはぺっ
たりと黒い水たまりのように動かなかったので、どんなふうかとさわっ
てみたら、いきなりビチッと跳ねあがりシニファンをとても驚かせたの
です。
坂の下に市場が見えてきました。
バケツに入った生きたままの小魚、干した魚、毛づくろいのためのブ
ラシ、爪磨きのやすり。いろいろなものを並べて売る屋台の、さまざま
なテントが色紙をちらしたようです。
そんな中、シニファンは市場の入り口近くの屋台に、モコモコと動く
黄色いものが群れているのを見つけました。
「あひるの子だ!」
前に工場のそばの小川で見て、一度でいいからさわってみたいと思っ
ていたあひるの子が、箱の中にたくさん集められていました。
シニファンはおかあさんの手をふりほどいて、あひるの子の屋台めが
けてかけだします。行きかうネコたちの話し声もいきおいよく走る馬車
の音も、耳の中からふっと消えます。
「シニファン!」
突然うしろで、おかあさんのさけび声が聞こえました。
ふりかえったシニファンはそのままおかあさんに突き飛ばされて、
ひゅうっと宙を飛びます。