「失礼いたします」
ノックのあと折り目正しいおじぎをすると、がっちりとした体格のネ
コが部屋に入ってきました。
そのネコは全身まっ黒でしたが、手足の先だけは手袋と靴下をはめた
ように白くなっています。
「いいから、はやく来てくださいな。そしてこれをお読みなさい」
まっ白でふわふわした毛並みのネコは、メガネをとるとにこにこしな
がら入ってきたネコに手まねきをしました。
「それでは」
そのネコは手ぶくろをはめたような白い手で、便せんを受け取ると読
みはじめます。
そして読み終えると、ほおっと大きなためいきをつきました。
「ミルドラ校長、こんなことがあるのでしょうか?」
「ルラン先生。わたしも長い間この学校の校長をしていますが、こんな
話ははじめてです。もうバイオリンを持っている子ネコがいるなんて。
それも涙のたまりから生まれたバイオリンなんて」
ルラン先生はもう一度ためいきをつき、ミルドラ校長先生に手紙をか
えしました。
「学校はいままで、あまりにも小さな子は入学させなかったのですが
……しかしこの子はどうしてもここへ迎えたいものです。いそいで使い
を出して、いいえいいえ、わたしがその子を迎えにいきますわ。そう、
すぐにしたくをしなければ。ルラン先生、るすをお願いしてもよろしい
かしら」
「校長先生には、あまり学校からはなれてほしくないのですが。まあ、
お止めしてもむだでしょう。なるべくはやくお戻りください」
ルラン先生は、くすくすと笑いながら答えます。
「すみませんね。ルラン先生には、いつもごめいわくばかりかけて」
ミルドラ校長先生はパチッとウィンクをすると、もう机の引き出しか
らメモ帳やら、おりたたみのかさやらを取り出しにかかりました。
「まったく。学校のどんな生徒より、校長先生がいちばん手がかかる」
ルラン先生のくすくす笑いは、まだ続いています。