次の日は朝から、孤児院の子ネコみながそわそわと落ち着きがありま

せんでした。

 先生方はみな、院庭に木箱をかさねてステージをつくったり、いすを

運んだりいそがしく働いています。大きい子ネコも先生方の手伝いをし

ました。

「バイオリン弾きがくるんだ」

 いすを運びながら、灰色ネコはぼそっといいました。

 シニファンは意味がわからず、いすを両手にかかえながら首をかしげ

ました。

「おまえ、知らないのか」

 シニファンはうなづきました。

「バイオリンはとてもいいぞ」

 灰色ネコは小さくうなづきながら、院庭にいすをおくとまた物おきに

もどっていきました。シニファンももういちど首をかしげると、院庭に

いすをおきます。

 じつはシニファンが孤児院に入って来たとき、先生方は音楽学校に生

徒をひとりよこしてもらうよう連絡していたのです。

 それはシニファンだけでなく、新しい子どもが入ったときかならず行

う院のならわしでした。

 やがて会場の準備がととのい、太陽が西の方へほんのりとかたむくこ

ろ、院の前に小さな馬車が着きました。

 子どもたちはもうきちんと席について、バイオリン弾きを待っていま

す。

 門をくぐったバイオリン弾きは、おとなになるすこしまえの若いネコ

でしたが、クリームがかった白い毛なみの背中をしゃんと伸ばして、じ

つに堂々としていました。

 口をきゅっと引きむすび、みかんのふさの形をした黒いケースをかか

えています。

 バイオリン弾きはすこしだけ先生方とお話をしてから、いすにかける

こともせずに木箱でこしらえたそまつな舞台に立ちました。

 手には三日月の形をした銀のバイオリンを持っています。