「おまえだけ、どうしてもみつけられない」
かんけりのカンをけられて、灰色ネコはふふくそうに口をとがらせま
した。シニファンはニカッと笑って、わざと腰に手をあててみせます。
「しかたない。もういちどオニ」
灰色ネコはおもしろくなさそうな顔でしぶしぶカンをたてると、ま
た目を閉じて「いーち、にー、さーん」と数えはじめました。
あのあと乱暴した灰色ネコたちは、先生にこっぴどくおこられて、し
かたなくシニファンにあやまりました。が、そのあとも目立たないよう
に、シニファンをやっつけようしたのです。
ですが少ない人数でかかると、すばしこいシニファンにはどうしても
勝てませんでした。そうしてちょっかいを出しているうちに、いつのま
にかなんとなく、みんななかよしになっていたのです。
シニファンは足音をしのばせて走っていくと、院舎のわきにある池の
そばの木のうしろにすばやくかくれました。
今日もいい天気です。池の水にも太陽がきらきらとうつっています。
まだ声はもどっていませんが、シニファンにはもう誰の声もちゃんと
聞こえて、楽しくなったりおこったりすることができるようになってい
ました。
でもみんなの声にまじって、ときどき不思議な声も聞こえるのです。
他のネコには聞こえないので、それは声とはいえないのかもしれませ
ん。でもたしかに誰かが自分のことをけんめいに呼んでいるのが、シ
ニファンにはわかりました。
それは立っていると体が斜めにかたむいてしまうほど、強い強い力な
のです。
はやく、はやく、こっちへおいで。
(いったい、誰がぼくを呼ぶんだろう)