ハーシェル紀行
ハーシェル・ツアー2001雑記(1)


木村達郎

 3月13日からのハーシェル・ツアーにご一緒させていただきました。私にとっては初めてのイギリスでした。いろいろ見聞きしたなかから、私の興味を通じて気づいたことを書いてみました。

ブライアンストン・コート・ホテルの絵


 ハーシェル・ツアーのロンドンでの常宿とのことですが、すっきりしたプチホテルで、あちこちに絵が飾られていました。ロビーにはオランダの画家フェルメールの模写が2枚、「音楽のレッスン」と「絵画芸術」がかけてありました。


ウェッジウッド

 イギリスの磁器と言えばまずウェッジウッドが有名ですが、創始者ジョサイア・ウェッジウッドは1730年生まれで、ウィリアム・ハーシェルの8歳年上になります。ウィリアムの天王星発見当時のイギリス国王ジョージ3世の王妃シャーロットは、ウェッジウッドの磁器を好み「クイーンズウェア」の呼び名を許しました。ウィリアムも宮廷に出向いたときにはウェッジウッドの茶器で紅茶を飲んだりしたのかもしれません。

 ジョン・ハーシェル=ショーランドさんのアーカイブには、ウェッジウッド社製のウィリアムのポートレートがありました。

 ジョサイアは1783年に王立協会会員になっています。またジョサイアの娘はダーウィン家に嫁ぎ、彼女に生まれた息子がチャールズ・ダーウィンだそうです。

キュー・ガーデンズ

 ロンドン郊外の広大な植物園キュー・ガーデンズには、19世紀末に世界中を旅して油彩で植物画を描いた女性マリアンヌ・ノースのギャラリーがあります。彼女は南アフリカにも滞在して多くの油絵を描いています。彼女の世界旅行は1871年、ちょうどジョン・ハーシェル死去の年に始まっており、2人が南アフリカで出会った可能性はありません。しかしノースは1830年ヘイスティングスの裕福な下院議員の家庭の生まれ(ジョンの長女カロライン・エミリア・メアリーと同年)でしたから、イギリスでハーシェル家と何らかの交際があったということはありうると思います。

 ウェッジウッドといいマリアンヌ・ノースといい、当時のイギリスの社交界の人脈をたどると、おもしろいところでつながっているような気がします。


ウェストミンスター寺院

 会衆席前方左側の、聖歌隊席との障壁にニュートンの記念碑があり、その少し左側の床にハーシェル父子の記念プレートと墓があります。ウィリアムはスラウのアプトン聖ローレンス教会に埋葬されていますから、ここにはプレートがあるだけです。同じデザイン・文面のプレートがバースのハーシェル博物館の中庭にもありました。文面はラテン語で

COELORUM PERRUPIT CLAUSTRA
ALIBI SEPULTUS
彼は天の壁を打ち破った
他の地に埋葬されている

の2行で、その間にはさまれてウィリアムの名と生没年が書かれています。

 ジョンは死去の際、国葬級の葬儀をもってウェストミンスターに埋葬されたそうです。墓碑も大きなものでした。その銘文はラテン語で

JOHANNES HERSCHEL GULIELMI HERSCHEL NATU OPERE FAMA FILIUS UNICUS "COELIS EXPLORATIS" HIC PROPE NEWTONUM REQUIESCIT.
GENERATIO ET GENERATIO MIRABILIA DEI NARRABUNT. (PSALM. CXLV. 4. 5.)
VIXIT LXXIX ANNOS OBIIT UNDECIMO DIE MAII A.D. MDCCCLXXI.
ジョン・ハーシェル、労苦によって名声を成したウィリアム・ハーシェルのただ一人の息子は「天空を探索し」、ここニュートンのすぐそばに休らう。
人々が、代々に御業をほめたたえ、力強い御業を告げ知らせますように。〈旧約聖書詩篇145篇4節〉
79年生き、主の年1871年5月11日死す。

というものです。日本語訳はあまり自信がありませんが、「天空を探索する」はハーシェル家の紋章にも書かれている銘(モットー)です。

 ジョンの墓碑の隣には、ジョンとも親交のあったチャールズ・ダーウィンの墓(記念板?)がありました。  また、ウェストミンスター寺院に隣接する修道院の回廊南側には、1986年のハレー彗星回帰時のヨーロッパ宇宙機関の探査機ジョットによる観測を記念したブリティッシュ・エアロスペース社寄贈の記念板がありました。

 ウェストミンスター寺院のすぐ北側にあるセント・マーガレット教会の塔には、美しい水色の日時計が取り付けられています。曇りがちなロンドンですが、私が行ったときにちょうど日が射してきて、午前11時を指す日時計の影を見ることができました。


ハーシェル・ツアー2001雑記(2)

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