ハーシェル関連史料
カロラィン時代の彗星発見と観測


長谷川一郎

ハレー彗星の発見
 カロラインが生まれた1750年より約63年前ニュートンが万有引力の法則を発見し、さらに運動方程式を考えて、天体の運動の原理を明らかにした。そして、彗星の放物線軌道を求める計算法を考案していた(1687年の「プリンキピア」の出版」)。これを知ったハレー(1656−1742)は1337年から1689年の間にヨーロッパで記録されていた彗星の位置観測の史料を基にして、24個の彗星の軌道要素を計算した。そして、その内の1531年、1607年と1682年に出現した彗星が同じ軌道を描いていることに気がついた。しかもこの3個の彗星が約76年毎に現れていたのであった。だから次には1758年か1759年に再び現れるだろうと、ハレーは予想した。

 このハレーの予想を確かめようとフランスのクレイロー(1713−1765)は木星と土星の引力の影響を計算にいれて、この彗星は1759年の4月にその近日点を通るだろうと予想した(実際には3月13日)。近日点通過の日を正確に予想することは難しかったので、トマス・べイカーは20通りの近日点通過時刻を仮定して、この彗星の位置推算表を計算した。

 このように、ハレーが予想した彗星が再び現れるときが近づいた1757年頃から、フランスのメシエ(1730−1817)と言う熱心な天体観測者が、望遠鏡を用いて彗星の捜索を開始した。彼は、1758年の8月に一つの彗星(C/1758K1)を発見したが、これはハレーが予想した彗星ではなく、しかも既にドラヌが発見していたものであった。しかしメシエは彗星と紛らわしい天体である星雲や星団を観測してカタログをつくった。「M番号」の天体でよく知られている通りである。

彗星の捜索と観測
 ハレーが予想した彗星は、結局、ドイツのパリッチが1758年12月25日に発見し、それとは知らずに、翌年の1月21日にメシエも約一月遅れで、独立発見に成功したのであった。この様なことからメシエは、たいへん熱心に彗星探しに力を注ぐようになって、1760年から1801年頃まで、毎年のように彗星を発見するようになった。

 1750年ころから、一般の経済状況が善くなって、望遠鏡も入手し易くなったのか、趣味として星を楽しむ天文アマチュアの活動も拡がったと言われている(角田玉青:Evening Amusement,ニューズレター第132号、2004年10月号)。そして、この頃から、メシエの他にも彗星捜索を始める人が現れてきた。ウィリアム・ハーシェルも、1783年と1784年に、彼の観測中の副産物として彗星を発見している。ただし、この彗星は二つとも、その後の追跡観測がなく、軌道が分からず、確認されずに終わった。

 カロラインは、1786年8月1日のウィリアムが留守の間に初めて封彗星を発見した。その後、特別に彗星捜索用の望遠鏡を用いて1797年までに8個の彗星を発見するという大活躍をした。この12年間に彼女以外の人が発見したものは、彼女の発見とほぼ同数の9個であった(ニューズレター第100号−104号)。なお、カロラインの彗彗星捜素望遠鏡については木村陽一氏の論考がニューズレターの100−103号にある。昔は、彗星は突然に出現するものと考えられていたが望遠鏡で探せば見つかると考えられるようになったのである。

 1801年7月に、ポンス(1761−1831)の最初の彗星発見があって、その後、彼は1827年までの27年間に37個の彗星を見つけだした。これらの人の他にも彗星を捜索する人が沢山現れるが、1801年1月1日、19世紀の最初の夜に、小惑星がピアジによって発見された。この事がガウスの一般軌道決定法の考案を促し、太陽系の彗星や小惑星など小天体の研究がはじまり、天体力学の研究が盛んになったのである。太陽の周りを運動している天体の軌道は、一般に3個の位置観測があれぱ、それを決定することが出来る。この様にして、沢山の彗星や小惑星の軌道が求められるようになった。

周期彗星の発見
 ハレー彗星の他にも、エンケ彗星やピエラ彗星、またレクセル彗星と呼ばれる様になった短周期彗星の存在が知られるようになった。カロラインは、後に、ハーシェル・リゴレ彗星やエンケ彗星であることが分かった彗星を発見していた。この様にして、遠方から近づいてくる長周期彗星と呼ぱれる彗星や、木星の引力の影響を強く受けている短周期彗星が存在することがわかって未た。しかし、彗星の起源の問題は、まだよくは分かっていない。なおまだ今後に残された課題である。

太陽系の天体のさらなる研究への期待
 カロラインの兄のウィリアムは、天王星を発見して、その後の海王星発見のさっかけをつくった。そして、カロラインは彗星の発見に大きな活力を往入したのであった。しかし、彼女は兄の観測と研究の意義や自分の彗星発見が他に与えた影響をどの様に思っていたのか、この様なカロラインの思考についてはさらに考察が進められることを期待したい。

 海王星が発見されて、半ば偶然に(と思われる)冥王星が発見され、観測技術の発展とともに、最近では、太陽から遠方にある超海王星天体や、特異な軌道を持った小惑星や彗星と考えられる小天体などが、沢山見つかっている。また、彗星に関係している流星にも関心が集まって来た。これからも、まだ太陽系の中の天体については、いろいろな問題がたくさんあることは確実である。今後の観測と研究が期待されるのである。
 

日本ハーシェル協会ニューズレター第135号より転載


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