ハーシェル随想


日本ハーシェル協会  創立大会あいさつ

会長 須川 力

  日本ハーシェル協会の創立大会にあたり、ひとことごあいさつ申し上げます。私は、岩手県の水沢で緯度の国際的な観測を80年ほど続けている観測所に勤めておりました。星を観測して地球の緯度の変化をずっと追ってきたわけです。近くにある花巻の出身で、皆さんもご存知の方が多いと思いますが、最近非常に良く作品が読まれている宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」という童話があります。 銀河の世界 ― 鉄道で旅をするような形をとった天文童話というような話であります。その童話の中で、小学校の先生が銀河系のごくわかり易いお話をされています。宮沢賢治がこれを書いた年代は1923〜4年と思われます。そしてそのころは、オランダのカプタインが、さかんに銀河の構造を研究して、カプタイン宇宙という論文を書きましたが、それは非常に専門的で、恐らく賢治はそこまでは知らなかったと思います。賢治がやはりよく理解し得たのは、かのウィリアム・ハーシェルが最初に開拓した宇宙のイメージで、それをわかり易く書いたのだと思います。・・・・・・ 私は賢治を通してハーシェルに対し、はるかに仰ぐ大きな巨大な星のような感じを持っています。

 3〜4年まえに日本で斉田博さんと木村さんが直接、ハーシェルが活動されたバースなどに行かれて多くの体験をされて来られました。私の正直な気持ちでは、一人の外国の天文学者の会ができるということに、軽い抵抗をおぼえていました。つまり日本でも伊能忠敬とか多くの優れた天文学者がいる、それなのにという気もあったのです。・・・・・・ ハーシェルという方は、人間の一生の中で音楽家としてスタートし、後半生すごい馬力で望遠鏡を自分でどんどん作って、宇宙の果てまでも観測しようと意気込み、天王星を発見してそれまでの常識であった土星までの限界の太陽系を一挙に拡げてしまいました。宇宙の壁を打ち破ったといえましょう。実はそういう意味のラテン語が、彼の墓にきざみこまれているそうです。

 きょう私の近くに、岡山の天体物理観測所に長い間勤めた石田五郎さんがおられますが、その石田さんが出された天文随筆集の中に、音楽家が惑星を発見したというような見出しでハーシェルのことを書いています。これを読んで、荒けずりなハーシェルという方が、非常に大きい魅力になりました。音楽家と天文家がただ両立しているのではなく、本質的にハーシェルの場合、きれいに人生を2つに分けています。もちろんオーバーラップはありますが ― そういう気がしています。

 これからこの会が何をするかとということは、あまりきちんと決めないで、なるべく季節毎にでも、皆で分担し合いながらハーシェルのことを調べていくのも結構かと思います。視点もいろいろあっていいと思います。天文と音楽だけとかハーシェル一家に限ることなく、フレキシブルであってもよろしいかと思います。

 これをもってごあいさつといたします。

(文責 事務局)
日本ハーシェル協会ニューズレター第6号より転載


デジタルアーカイブのトップにもどる

日本ハーシェル協会ホームページ