| |
|
|
|
|
|
| 戯曲 |
晴れ時々、鬼 |
|
|
|
|
| 登場人物 |
イヌヲ・語り部 |
|
|
|
少女 |
|
|
|
山の民1 |
|
|
山の民2 |
|
|
山の民3 |
|
|
|
爺 |
|
|
|
|
婆 |
|
|
|
ミコト |
|
|
|
家臣1(山の民と1人2役可) |
|
|
家臣2(山の民と1人2役可) |
|
|
家臣3(山の民と1人2役可) |
|
|
|
子どもたち数名 |
|
|
|
| プロローグ |
|
|
| 荒れ狂う波の音。 |
|
| 真っ暗な嵐の海を進む、小船のシルエット。 |
|
| 時折、激しい雷鳴。 |
|
| その小舟の上に、男と少女、 |
|
| はるか前方に向かって |
|
|
| 男・少女 |
おーーーーーーーーーーーー |
|
|
| その声もその姿も波にかき消されていく。 |
|
| 闇の中、徐々に消えゆく嵐の音 |
|
| その音と入れ替わるように、どこからかわらべうた |
|
|
| 黄昏どき。夕日に照らされる景色の中、 |
|
| かけ回るこども達。 |
|
|
| こども1 |
つぎ何? |
|
| こども2 |
じゃあ、おにごっこ! |
|
| こども3 |
おにごっこ! |
|
| こども1 |
○○ちゃん、おにー、な、な |
|
| こども3 |
えー、おにー? |
|
| こども1 |
そう。10数えるの |
|
| こども3 |
んー、(かがむ)こう? |
|
| こども2 |
うん |
|
| こども1 |
10数えたら、つかまえていいよ。わー(こども1,2駆け出す) |
|
| こども3 |
(大きくうなずき)1、2、3、4・・・ |
|
| こども1,2 |
わー(逃げていく) |
|
| こども3 |
(照明F.O.
こども3だけにスポット)5、6、7、8、9、10 |
|
|
| こども3立ち上がり、こちらを振り向く。 |
|
| 暗転。 |
|
|
| 1場 〜ミコトの間(1)〜 |
|
|
| はじまりの音楽 |
|
|
| 昔。 |
|
| どのくらい昔かといえば、日本が未だ日本とは呼ばれず、その中にいくつもの小さなクニが存在し、 |
|
| まだ国家としての形も境もあいまいであった頃の話。 |
|
|
| 舞台はそれらのクニの中のひとつ、ヤマトのクニの王であるミコトの間より始まる。 |
|
| 家臣たちが順に登場し、膝をついて、一列に居並ぶ。 |
|
| 家臣たちの前にミコトがゆっくりと現れる。 |
|
|
| ミコト |
わがヤマトの国より、は・る・か西の果てに、”キビ”とよばれる地がある。その山・・ |
|
| 家臣1 |
お、お、お、おそれながらーーーミコト様! |
|
| ミコト |
なんだ!申してみよ。 |
|
| 家臣1 |
お、お、お、御前(おんまえ)がお開きになっております |
|
| ミコト |
お前だと!? |
|
| 家臣1 |
ひー、いえいえ、お前ではなく御(おん)前でございます |
|
| ミコト |
おん・・・・前・・・ |
|
|
| ミコト、そういって自分の衣服を見る。ミコトの着物の股間の部分がパックリと開いている |
|
|
| ミコト |
ば、ばか者!そんな大きな声で。もっとこっそりおしえんか! |
|
|
| そういうと、後ろを向いて、着物の前を止めはじめる。 |
|
| しかし、着物の尻の部分も破れている。 |
|
| それを見た家臣たち、こそこそと話をはじめる |
|
| ミコト、あらためて前を向いて |
|
|
| ミコト |
あー、気を取り直して。 |
|
|
わがーヤマトの国より、は・る・か西の果てに、”キビ”とよばれる地があると聞く。その山・・ん? |
|
(家臣2の前にたち)申してみよ! |
|
| 家臣2 |
は、は、はあ、、、 |
|
| ミコト |
申せ!! |
|
| 家臣2 |
ははあー!!・・・・・・・おしりもお開きになっております |
|
| ミコト |
・・・(といって、自分の尻をみる) |
|
|
ばか者!こそこそとお前たちだけで! |
|
|
わしに伝えんでどうする! |
|
|
| そういって、尻の部分をとめようとするが、手が届かずひとりでクルクルまわってしまう。 |
|
|
| ミコト |
(あきらめて)ああ、もうよい、丁度よいわ!すずしくて! |
|
|
| 再び正面を向く |
|
|
| ミコト |
はー。(家臣をにらみつけ) |
|
|
わがーヤマトの国より、は・る・か西の果てに、”キビ”とよばれる地があると聞く。その山・・ |
|
| 家臣3 |
おそれながら・・・・ |
|
| ミコト |
もう、何だ、こんどは! |
|
|
| 家臣3、そっとミコトに近づき耳打ちをする |
|
|
| ミコト |
は?その、せりふは、もう3回目ですう? |
|
|
そんなこと、いちいち伝えなくてもよい! |
|
|
さがれーーーー! |
|
| 家臣3 |
ははあ |
|
| ミコト |
まったく、どいつもこいつも。いい加減、わしにしゃべらせろ! |
|
|
まだ、始まって1行しかしゃべってないんだぞ! |
|
|
| 家臣たち、台本をとりだし確認する |
|
|
| ミコト |
もう、よいから、おとなしく聞けーーー! |
|
|
よいか! |
|
|
わがヤマトの国より、は・る・か西の果てに、”キビ”とよばれる地があると聞く。 |
|
|
(じゃまが入らないのを確認して)その山奥に"ウラ"とよばれるおそろしい鬼が住み着き、 |
|
|
人々を恐れさせていると聞く。 |
|
|
お前たち、その話は無論、知っているであろうな? |
|
| 家臣1 |
は、その鬼のうなり声は天をとどろかせ、雷鳴を呼び起こす。 |
|
| 家臣2 |
ひとたび立ち上がれば、大地はグラッと音をたてて傾き |
|
| 家臣3 |
ひとたび駆け出せば、大地はドカドカドカと激しく揺れ動く |
|
|
| と、どこからかドカドカドカと地面を踏み鳴らす音が聞こえる |
|
|
| ミコト |
ちょうどこんな感じ・・・え!?(あたりをみまわす) |
|
|
わーーーー |
|
|
| ミコト、頭をかかえうずくまる。 |
|
| イヌヲ、中央へかけこんでる |
|
|
| イヌヲ |
はあ・・・はあ・・・・ |
|
| ミコト |
・・・・・ |
|
| イヌヲ |
間に合った。 |
|
| ミコト |
・・・間に・・・あった? |
|
|
(中央へもどる)イヌヲよ、間にあっただと!? |
|
| イヌヲ |
だって・・・・サルマルも、キジタも、まだ、来て・・・・な・・い・・し・・・。 |
|
|
今日は俺、ドンケツじゃないから・・・・。 |
|
| ミコト |
(あきれて)サルマルは、北の砦の守り番。キジタも昨日から東の地の偵察にいっておる。 |
|
| イヌヲ |
・・・・ってことは・・・・6人いて・・・おいら、(まわりを見て)4番目・・・・・ |
|
|
(考えて)やっぱ、俺がドンケツってこと・・・か? |
|
| ミコト |
(両手で丸のジェスチャー) |
|
| イヌヲ |
やった!おいら、賢いー! |
|
| ミコト |
ばか者!どうしてお前はいつも、そうなのだ。 |
|
|
いつも遅刻。いつもビリっけつ。 |
|
|
そのくせ、逃げ足だけは天下一品。この間だってそうだ! |
|
| イヌヲ |
お、おそれながらーーーーーーーー |
|
| ミコト |
なんだ。申せ! |
|
| イヌヲ |
おつむの、お髪が、お薄く、なっております。 |
|
| ミコト |
・・・・・。うるさい!髪が薄いのは悩みが耐えないからだ。 |
|
|
(イヌヲにつめより) |
|
|
いったい誰のせいでこんなに頭を悩ませてると・・・ |
|
|
(頭を抱え)ああ、もうーーーよい。そこへ直れー! |
|
| イヌヲ |
ははあー。 |
|
|
| 沈黙 |
|
|
| ミコト |
どこまで、話したか! |
|
| 家来1 |
あ、う、ウラという鬼が |
|
| 家来2 |
住み着いていると |
|
| ミコト |
そう。・・・・・・・そうだ!そこでこのミコト様が、その西の地へ出向いて、 |
|
|
鬼を成敗し、苦しんでいる人々をすくってやろうとーーーー!そう、思っている。 |
|
|
どう思う?ん?ん? |
|
| 家来2 |
大変・・・・よいことだと・・・・ |
|
| ミコト |
で、あろう。しかし、成敗するにも、まずは、相手のことを知らねばならん。 |
|
| 家来3 |
は、まことに、そのとおり |
|
| ミコト |
で、だ!今日集まってもらったのはほかでもない。 |
|
|
鬼征伐に先立ってキビの地へ出向き、鬼の住む城とやらに偵察にいく |
|
|
勇敢なものは、お・ら・ぬ・か? |
|
| 家来たち |
・・・・・・・ |
|
| ミコト |
われこそはと思うものは、前へ! |
|
|
| イヌヲを残し、皆そろって一歩後ろに下がる |
|
|
| イヌヲ |
(周りに気づいて)えー! |
|
|
| いそいでイヌヲも一歩下がるが、それにあわせて、ほかの3人がもう一歩さがる。 |
|
| イヌヲもう一歩さがるが、今度は3人前にでる。 |
|
|
| イヌヲ |
あ、あれ? |
|
|
| イヌヲ、急いで前方に飛び出す、とほかの3人はそのまま舞台後方にさがる |
|
|
| ミコト |
なに。お前がいく? |
|
| イヌヲ |
あ、あ、あ・・・・いや。 |
|
| ミコト |
見事、有益な情報をつかんできた者には、3階級あげてやろう。 |
|
| イヌヲ |
え!えーーーーーー!! |
|
| ミコト |
どうだ |
|
| イヌヲ |
3階級ってことは・・・サルマルがおれの一個上で・・・・キジタがもう一個上だから・・・ |
|
| ミコト |
お前が、大将だ! |
|
| イヌヲ |
た、大将!?じゃあもう、みんなの洗濯ほしたり、肩もんだり、 |
|
|
ローソンに肉まん買い出しにいったりしなくても、いいんだ・・・・ |
|
| ミコト |
どうする? |
|
| イヌヲ |
えーーーっっ・・・・ |
|
| ミコト |
別に戦いに行くわけじゃない。 |
|
|
鬼に襲われたら、逃げてくればいい。 |
|
|
だろ?えぇ? |
|
| イヌヲ |
行く!おいら行って大将になる! |
|
| ミコト |
ファイナルアンサー? |
|
| イヌヲ |
ファイナルアンサー! |
|
| ミコト |
よし、決まりー。早速、旅立ちの、準備をいたせ。 |
|
|
| 旅立ちの音楽 |
|
|
| 2場 〜森の中(1)〜 |
|
|
| イヌヲ、キビを目指して、進んでいく。 |
|
|
| イヌヲ |
ヤマトの国は世界一! |
|
|
おいらの足も世界一! |
|
|
飯を食うのも世界一! |
|
|
頭のよさも世界一! |
|
|
| あたりは、見慣れたヤマトのクニの田園風景から、徐々に深い森へと変わっていく |
|
| イヌヲの足取りも徐々に重くなる |
|
|
| イヌヲ |
だんだん暗くなってきたなあ。 |
|
|
(鳥の鳴き声) |
|
|
いやだなあ、また夜になるのかあ。 |
|
|
ヤマトの国をでて、ずいぶん歩いたはずなのに・・・・・・。 |
|
|
いったい何回、夜と朝がきたら、キビにつくんだ? |
|
|
(あたりを見回し)道も全然わかんねえ・・・・・。 |
|
|
ミコト様、西へ行けとしか言わねえから。 |
|
|
とりあえず西へ進んでいったら、木にぶつかった。 |
|
|
それから西へいったら、川におちた。 |
|
|
なんで道、教えてくれねえんだ。 |
|
|
ミコト様も道を知らねえーーーんだ。 |
|
|
馬鹿なんだーーーーー。 |
|
|
だから頭のいいオイラを偵察に向かわせたんだ。 |
|
|
とにかく西だ。 |
|
|
お日様が沈む方に向かって進めばいい。 |
|
|
そうやっていつまでもお日様を追っかけてりゃいい。 |
|
|
お日様追っかけてりゃ、夜にならなくて済む。 |
|
|
おいら・・・かしこい! |
|
|
| 進むイヌヲ。 |
|
| すっかり日は落ち、森には夜の闇がただよいはじめる。 |
|
|
| イヌヲ |
おかしいなあ・・・お日様、ずっと追っかけていったのに・・・・・。 |
|
|
おいらの足が世界一だと思ってたけど・・・・・・ |
|
|
お日様のほうが足が早いんだ。 |
|
|
お日様が金メダルか・・・。あ!だからお日様はあんなに輝いてるんだ。 |
|
|
また、ひとつ、賢くなって、しまったーーーーーーーー。 |
|
|
は、は、は・・・ |
|
| カラス |
(イヌヲの笑い声に重なるように)か、か、か・・・・ |
|
|
| カラス、鳴きながら、イヌヲの背後を駆け抜ける。 |
|
| イヌヲ、振り向く |
|
|
| イヌヲ |
ん? |
|
|
な、なんだ?今、何か、とおったよ・・な・・ |
|
|
| おそるおそる背後の茂みをうかがう |
|
| カラスが再びイヌヲの背後を駆け抜ける |
|
|
| カラス |
か、か、か、か、かーーーーらーーーーーすーーーーーーー |
|
| イヌヲ |
え、ええ!?やっぱ、なんか、とおったよ・・・・。 |
|
|
お、お、お、お、おばけー? |
|
|
こんな、遠い、森の中だもん・・・・ |
|
|
化け物がでたっておかしくねえ。 |
|
|
どう・・・・しよう・・・。おっかねえ、なあーーー。 |
|
|
| イヌヲ、振り返る。目の前にカラスでてくる |
|
|
| イヌヲ |
で、で、で、で、でたーーーー。 |
|
| カラス |
か、か、か、か、かーーーーらーーーーーすーーーーー |
|
| イヌヲ |
あ、あ、あ・・・・・あれ?カラス? |
|
|
| カラス、イヌヲの下げている荷物をつつく |
|
|
| イヌヲ |
や、やめろ、やめろって。 |
|
|
これは、おいらの大事な食いもんだぞ。 |
|
|
お前、腹へってんのか? |
|
| カラス |
かー |
|
| イヌヲ |
しょうがねえなあ、一個だけだぞ。 |
|
| カラス |
かー |
|
| イヌヲ |
つうと言えば |
|
| カラス |
かー |
|
| イヌヲ |
欧米 |
|
| カラス |
かー |
|
| イヌヲ |
1,2,3 |
|
| カラス |
だー |
|
|
| そう叫んで、イヌヲを突き飛ばし、握り飯をもって去っていく |
|
|
| イヌヲ |
いて、いて、いててー。 |
|
|
あーーーーーー、ただのカラスかーーーーーーー。 |
|
|
びっくりさせやがって。 |
|
|
| パンダ(パンダ柄の男)登場。 |
|
| イヌヲに近づく。 |
|
|
| イヌヲ |
(パンダに気がついて) |
|
|
わーーーーー!! |
|
|
わ、わ、わ、わ、な、な、な、なんだ! |
|
| パンダ |
パンダ! |
|
|
| パンダ、どんどんイヌヲに近づいてくる |
|
|
| イヌヲ |
ちょ、ちょちょちょ、な、な、な、なんだよ! |
|
| パンダ |
パンダよ! |
|
| イヌヲ |
な、な、な、何がほしいんだ? |
|
| パンダ |
パンダ! |
|
| イヌヲ |
え・・・パ、パ、パン?パンか? |
|
|
パンは持ってねえけど、握り飯なら・・・・・ |
|
| パンダ |
(握り飯をとりあげ)パンダ! |
|
| イヌヲ |
パンじゃなくて・・・ |
|
| パンダ |
パンダ・・・・パンダ・・・・(そう言いながらそのまま去っていく) |
|
| イヌヲ |
おい!ま、ま、まてよーーーーーー! |
|
|
| パンダ退場。イヌヲ途中まで追いかけて。 |
|
|
| イヌヲ |
なんだ、ありゃ? |
|
|
あんなのみたことねえ。 |
|
|
化け物?うん、ちがいねえ。 |
|
|
化けもんだーーーーーー!! |
|
|
| その間に、袖から地蔵がでてきて、舞台真ん中に座る。 |
|
|
| イヌヲ |
え、え、えー、お地蔵様!?ここに? |
|
|
ええと、握り飯しかねえけど、 |
|
|
(握り飯を地蔵の前にお供えして) |
|
|
おっかねえ・・・・化け物が・・・・でませんようにーーーーー。 |
|
|
| イヌヲ、手を合わせて祈る。 |
|
| その間に、地蔵握り飯を持って、全速力で去っていく。 |
|
|
| イヌヲ |
(顔をあげて) |
|
|
え、え、え、えーーーー!!!き、消えた。 |
|
|
ここの、お地蔵様が、き・え・た・・・・。 |
|
|
お地蔵様も化け物? |
|
|
ひ、ひ、ひえーーーーーーーーーーー!! |
|
|
| 突然、不気味な地響きとともに、あたりが赤く光る。 |
|
|
| イヌヲ |
な、なんだ、今度は? |
|
|
| 大きな地響き。 |
|
|
| イヌヲ |
ああ、(前方を指し)山が、赤く、光ってる。 |
|
|
そうか! |
|
|
これだ、これだ。これがミコト様の言ってた鬼のうめき声。 |
|
|
はやく逃げねえと、鬼に食われちまう・・・ |
|
|
| 来た道を戻ろうとする。目の前に少女、あらわれる。 |
|
|
| イヌヲ |
で、でたー!(腰を抜かす) |
|
|
お、お、お、お助け! |
|
|
(握り飯をだし)こ、こ、これやるから、ゆ、許してくれー! |
|
|
| 激しい地響きと赤い光。 |
|
| 暗転。 |
|
|
| 3場 〜爺婆の家〜 |
|
|
| 鳥の声。 |
|
| とある貧しい民家。 |
|
| 居間には、この家の主である爺とイヌヲが座り、婆が朝食の準備をしている。 |
|
|
| 爺 |
せえで、気がついたら夜が明けとったゆうんじゃの? |
|
| イヌヲ |
そうだ、おいら、草の露が顔に落ちて、それで目が覚めたんだ・・・ |
|
| 爺 |
そりゃ、あんた、夢でも見たんじゃがな。 |
|
| 婆 |
そうじゃ、そうじゃ。 |
|
|
夜さにあんなきょーてー山ん中に、女の子がひとりでおるわけねえな。 |
|
|
せえこそ、鬼に食われてしまうけえのお。 |
|
| イヌヲ |
お、お、お、鬼!? |
|
|
そうだ、鬼の、うめき声がして・・・逃げようとしたら、女の子がでてきて・・・・ |
|
|
おいら腰ぬかしちまって・・・で、ええーと・・・そこら辺までは覚えてんだけど・・・ |
|
| 爺 |
じゃけど、びっくりしたで。朝、薪を集めよう思うて森に入ってみたら、 |
|
|
あんた、大の字になって倒れとるから。もう、びっくりして。死んどるんか思ったが。 |
|
| イヌヲ |
目はさめたけど、腹が減って腹が減って・・・・。 |
|
| 爺 |
ほったらかしでもいかれんが。さあさっさと食べられ。 |
|
| イヌヲ |
え・・・これだけ? |
|
| 婆 |
何言うとんじゃ。他人のあんたに食べさせるだけでも・・・・・。 |
|
|
(婆、改めてイヌヲの格好を見て) |
|
|
じゃけど、その格好はなんでえ。 |
|
| イヌヲ |
あ、おいらはヤマトの国のミコトさまの・・・ |
|
| 爺 |
ミ、ミコト?ミコトかー?あんた、ヤマトの国のミコト様けえ! |
|
| 婆 |
じゃろうと思うた。ただの若え者にしちゃあ、品がええ顔しとるからのお。 |
|
| イヌヲ |
いや、おいらは。 |
|
| 爺 |
へえ、へえ、へえ、へえーーーー。 |
|
|
こりゃ、ずいぶん無礼なもてなしをしてしもうて。 |
|
|
おい。婆さん。もっと、上等な、飯用意せにゃあ。 |
|
|
そうじゃ、鯉がおったろう、大きな鯉が。 |
|
| イヌヲ |
いや、そんな |
|
| 爺 |
鯉は・・・お嫌いですかの? |
|
| イヌヲ |
大好き |
|
| 爺 |
なにをぼーっとしとるん。はよはよ、出しんさらんか。 |
|
|
じゃけど、なんでミコト様がこんな辺鄙(へんぴ)なとこへ |
|
| イヌヲ |
鬼が住むってウワサをきいて。 |
|
| 爺 |
おう、そうじゃ。向こうの山の上。ミコト様もお聞きになったんじゃろ、あの声。 |
|
|
きょーてえ、きょーてえ。 |
|
| イヌヲ |
そんなにこわい鬼なのか |
|
| 爺 |
つい先だって、あの山のふもとへ芝刈りにいったら、ねむとーなっての |
|
|
ついウトウトしとったら、せえが後ろからかぶさってきてのお。 |
|
| イヌヲ |
えー!大丈夫だったのか? |
|
| 爺 |
飛び起きたら、もう、姿は、見えなんだ。 |
|
|
(腰をおさえて)それから、もう、腰がいとーていとーて |
|
| イヌヲ |
そりゃ、災難だ。 |
|
| 爺 |
せえだけじゃねえで。空飛んだり、火ふいたり、 |
|
|
そりゃもうあんた、ひょんなウワサを聞くで。 |
|
|
いまじゃ、誰もあの山には近寄らんが。 |
|
|
ミコト様、あの鬼を退治してくださるんか? |
|
| イヌヲ |
え?ええ、まあ・・・・ |
|
| 爺 |
婆さん、きいたろうが。ミコト様が鬼、退治してくださるんじゃと。 |
|
|
ありがたてえ、ありがたてえ |
|
| 婆 |
さあさ。朝とれた鯉じゃ。これでタンと精つけてつかーさい。 |
|
|
| 巨大な丼に巨大な鯉が乗ってでてくる |
|
|
| イヌヲ |
うわ、すげえ(食べようとする) |
|
| 爺 |
(それを制するように)それで、これからどうなさるおつもりで? |
|
| イヌヲ |
え、食べるの(再び、食べようとする) |
|
| 爺 |
さすが、勇気あるお方じゃあ。 |
|
| 婆 |
なんていったんだい |
|
| 爺 |
今から早速あの山へのりこんで、鬼を食べてくださるそうじゃ。 |
|
|
| イヌヲ、持った丼をおいて、必死に首を横に振る |
|
|
| 爺 |
それで、鬼をたいじしたあかつきには、 |
|
|
爺さんが捕った鯉で勝ちました、とこう言うてくださるそうじゃ。 |
|
| 婆 |
いやいや、せえなら、婆さんが料理した鯉で勝ちました、と言うてくださいまし。 |
|
| 爺 |
馬鹿、料理なんてあんなもん、焼くだけじゃが。だれでもできら。 |
|
| 婆 |
何言うとんね、あんたこそ毎日全然とれんで、今朝はたまたま死にかけて |
|
|
ぷかぷか浮いとったやつがとれただけじゃろうが |
|
| イヌヲ |
(鯉をみて)え・・・ |
|
| 爺 |
なんだと |
|
| イヌヲ |
まあまあ、じゃあ、爺さんが捕って、婆さんが料理して、イヌヲが食った、 |
|
|
鯉で勝てました、と、 |
|
|
こう言ってくださるようにミコト様に言っておきます(今度こそ、食べようとする) |
|
| 爺 |
へ・・・・ |
|
|
あんたミコト様じゃねえんか |
|
| イヌヲ |
おいらは、ミコト様にたのまれて、鬼のすみかを偵察にきただけだ |
|
| 爺 |
なんじゃ!(イヌヲのもっている丼を取り上げる)・・・まぎらわしい |
|
| 婆 |
そう思ってみると、なんだか貧相な顔立ちをしとるねえ(爺から丼をうけとる) |
|
| イヌヲ |
(丼を目で追って)鯉は・・・・ |
|
| 婆 |
あんたに食わせるような、鯉はねえよ。 |
|
| 爺 |
そうだ、めったに捕れねえごちそうだぞ |
|
| 婆 |
さあ、とっとと山に偵察に行かれ。それで、はやくミコト様をつれてくるんだよ。 |
|
| イヌヲ |
え、じゃあせめて、お茶でものんで |
|
| 爺 |
あんたに出すお茶なんかねえよ。さあ、行った行った |
|
| イヌヲ |
そんなあ・・・ |
|
|
| イヌヲ、家を追い出される |
|
|
| 4場 〜森の中(2)〜 |
|
|
| 再び、鬼の住むといわれる山のふもとの森の中。 |
|
| 木々の間から、明るい陽光がさしこむ。 |
|
| 舞台上には、火にかけた鍋が置かれている。 |
|
|
| イヌヲ |
くるな、くるなって |
|
|
| イヌヲ、叫び声をあげながら駆け込んでくる |
|
| 立ち止まり、うしろを振り返る |
|
|
| イヌヲ |
ん、もう追ってこないか。 |
|
|
ふー、まったく蜂のやつ、甘いにおいがしたから |
|
|
ちょっと巣の中をのぞいただけなのに。 |
|
|
| イヌヲあたりを見回し |
|
|
| イヌヲ |
よーし、今日は暗くならねえうちに |
|
|
鬼の城までたどり着くぞー! |
|
|
・・・・って、思ってたんだけどなあ・・・ |
|
|
だめだ、腹がへってへって・・・ |
|
|
| イヌヲ、その場に座り込む |
|
|
| イヌヲ |
ん・・・なんか、いいにおいがする・・・・ |
|
|
| イヌヲにおいのするほうへ |
|
| そこに、火にかかった鍋を発見する。鍋からは湯気があがっている。 |
|
|
| イヌヲ |
や、なんだこれは |
|
|
| イヌヲあたりを見回し |
|
|
| イヌヲ |
(手を合わせ)ありがたや、ありたがや、がんばっているおいらに |
|
|
神様からのご褒美か |
|
|
| イヌヲ、そっと鍋に近づく |
|
|
| イヌヲ |
や、この音は(鍋に耳を近づける) |
|
|
大変だ、こりゃもう煮詰まってるじゃねえか |
|
|
| イヌヲ、いそいで鍋のフタを開ける。 |
|
| そこへ山の民1、2登場 |
|
|
| 山の民1 |
や、お前、何をやってる |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 山の民2 |
お前、俺たちの飯を盗み食いしてたな |
|
| イヌヲ |
いや、まだ、これからするところです |
|
| 山の民1 |
なに・・・(鍋をみて)汁が大分減ってる、やっぱりお前食っただろ |
|
| イヌヲ |
そ、そんな、それは煮立って、汁がこう、減っていったんだよ。 |
|
|
ほら、火が強すぎるんだ、もうちょっと、弱火でコトコトしねえと |
|
| 山の民2 |
なんだと。盗人くせに偉そうに |
|
| イヌヲ |
盗人じゃねえよ |
|
| 山の民1 |
じゃあ、なんだ、このあたりじゃ見かけない顔だが |
|
| イヌヲ |
おいらは、ヤマトの国のミコト様の使いできてるんだ |
|
| 山の民1 |
誰だそれ |
|
| イヌヲ |
えーーーーーーー!! |
|
|
ミ、ミコト様をしらねえのか |
|
| 山の民1 |
知らん、見たことも聞いたこともない、(山の民2に)知ってるか? |
|
| 山の民2 |
知らねえ、誰のことだ |
|
| イヌヲ |
だから・・・こう、短足で太ってて、頭がはげてて、いつも鼻くそほじってるおっさんだ |
|
| 山の民1 |
その、変なおっさんが盗人の大将か |
|
| イヌヲ |
だから盗人じゃねえって |
|
| 山の民2 |
ともかく、怪しいやつだ、捕まえておこう |
|
| イヌヲ |
お、ちょい、待てって、暴力反対 |
|
|
| 山の民3、少女登場 |
|
|
| 山の民3 |
騒々しいのお、何事じゃ |
|
|
| イヌヲと少女、顔を見合わせ |
|
|
| イヌヲ |
あ----、あの時の!! |
|
|
なんだ、おめえ、やっぱり夢でも幻でもなかったんだな |
|
|
| イヌヲ、いそいで少女に近寄る |
|
| 少女、うれしそうに、山の民3の顔をみる |
|
|
| 山の民3 |
ほう、それじゃあ、お前さんが、昨日お嬢に握り飯をくださったお方じゃな |
|
| 山の民1 |
え、本当ですか、お嬢 |
|
|
| 少女、うれしそうにうなずく |
|
|
| 山の民1 |
なんだ、 |
|
|
それならそうと言ってくれればよいのに。 |
|
| 山の民2 |
まったくだ。 |
|
| イヌヲ |
どういうことだよ、いったい。 |
|
| 山の民3 |
いやいや、昨日お嬢がお腹をすかせていたところを、親切なお方が握り飯をくださったと、 |
|
|
お嬢に朝からずっとその話ばかりきかされての。 |
|
| イヌヲ |
ああ、そうだ、それで結局おいら自分の食う分がなくなって、 |
|
|
もう朝からずっと腹が減って減って |
|
| 山の民3 |
そうか、そうか、それは大変じゃったの |
|
|
(鍋をさして)さあさあ、わしらの昼飯でよければ、食べてくだされ。 |
|
| イヌヲ |
え・・・いいの? |
|
| 山の民3 |
もちろんじゃ。たいしたものでもないがの。 |
|
| 山の民2 |
さっきしとめたばかりのイノシシの鍋だ。たくさんあるからしっかり食ってくれ |
|
| イヌヲ |
煮立ってますけど・・・ |
|
| 山の民3 |
いらぬか? |
|
| イヌヲ |
いただきます! |
|
|
| 鍋をいきおいよく食らう |
|
|
| イヌヲ |
うめー! |
|
| 山の民3 |
そりゃよかった。 |
|
|
こんな鍋しかなくて申し訳ないがのお。 |
|
|
そうじゃ、よければ今夜はわしらの村に泊まって行ってはくださらぬか。 |
|
|
そうすればもっともっとたくさんのごちそうをご用意しますぞ。 |
|
|
お嬢、よろしいですな? |
|
|
| 少女はうれしそうにうなずく |
|
|
| イヌヲ |
おめえらの村って? |
|
| 山の民3 |
(山の上を指し)あの山の上、キビのクニの都じゃよ |
|
|
| 5場 〜ウラの砦〜 |
|
|
| バザールでにぎわう広場。 |
|
| 行き交う人々の間をぬって、イヌヲと少女が行ったりきたりの追いかけっこ。 |
|
|
| イヌヲ |
おい。おい、待てよ、待てったら。おい、待てって。 |
|
|
そんなに早く歩いたら、おいら、迷子になっちまうじゃねえかよー。 |
|
|
| イヌヲ、あたりを見回して |
|
|
| イヌヲ |
けど、すげえなあ。 |
|
|
あんなの、見たことねえ。あんなおりもの。 |
|
|
あの壺はなんでできてるんだ? |
|
|
いっぱい並んで・・・あれ、なあ。 |
|
|
ヤマトのクニが一番だとおもってたけど、ここ、すげえんだなあ。 |
|
|
| 少女、イヌヲの手をひいて駆け出す |
|
|
| イヌヲ |
な、なんだよ。 |
|
|
どこ行くの? |
|
|
| ぐるりと舞台をまわって、一段高いところにのぼる。 |
|
|
| イヌヲ |
ま、まって、もうへとへとだって・・・。 |
|
|
(前方に目をやる)うわ!う、う、海だ! |
|
|
すっすげー。 |
|
|
| 波の音、聞こえる。 |
|
|
| イヌヲ |
いつの間に・・・・こんな、高い、ところまで・・・・のぼって、きて、たんだ・・・なあ。 |
|
|
ずーっと、続いてる・・・・・どこまでも・・・・。 |
|
|
ひろいなあ・・・・・・・ |
|
|
あ!(少女に)おいらにこの景色を見せたかったんだな。 |
|
|
| 少女は、じっと海の向こうを見つめている。 |
|
| イヌヲもその視線の先を見て。 |
|
|
| イヌヲ |
あ!あそこ、瓢箪の形をした島がある。 |
|
|
あれは・・・・船か・・・・? |
|
| 少女 |
ぉ☆ ------------------ (言葉というよりも、霧笛のような声で、長く、遠くへ) |
|
| イヌヲ |
あの船に?よーし、 |
|
|
おーーーーーーーーーい。 |
|
|
| 少女、首を横にふる。はるか前方を指さして。 |
|
|
| 少女 |
ぉ☆ ------------------------ |
|
| イヌヲ |
向こうか?よーし |
|
|
おーーーーーーーーーーーーーーい |
|
| 少女 |
ぉ☆------------------------- |
|
| イヌヲ |
おーーーーーーーーーーーーーーい |
|
|
| 何度も二人で遠くにむかって声をとばす。 |
|
| やがて、二人で顔を見合わせて笑い合う。 |
|
|
| イヌヲ |
この海の向こう・・・・何があるんだろう。 |
|
|
おいら達の声、届いたかな・・・。 |
|
|
届いたよな。きっと。 |
|
|
| 少女、うなずく。 |
|
| そして、自分のしている首飾りをはずし、イヌヲの首にかける。 |
|
|
| イヌヲ |
何?これ・・・・。はあ。こんなの見たことねえ。 |
|
|
これ、おいらに、くれるのか? |
|
|
| 少女、うなずく。 |
|
|
| イヌヲ |
どう・・・似合ってる? |
|
|
| そこへ、森の民3登場 |
|
|
| 山の民3 |
やっぱりここじゃ。おった、おった。 |
|
|
やっぱりここにおった。 |
|
| イヌヲ |
・・・・・。 |
|
| 山の民3 |
ここは、姫のお気に入りの場所でな・・・・。 |
|
|
さあさあ、皆が待ちかねとる。あっちで、歓迎の酒盛りじゃ。 |
|
|
| 音楽。 |
|
| にぎやかな宴がはじまる。 |
|
|
| 山の民3 |
いやー、いやいやいや・・・実に楽しいー! |
|
| イヌヲ |
おいらも。すごく楽しい。まるで・・・・まるで、夢みたいだー。 |
|
| 山の民1 |
こんな山の中に客人なんて旅のお人かい? |
|
| イヌヲ |
さっきも言ったとおり。おいらはヤマトの国から、ミコト様の命令で偵察にきたんだ。 |
|
| 山の民2 |
テイサツ? |
|
| イヌヲ |
この近くには、ウラって言う鬼が、住んでるって・・・・・。 |
|
|
鬼の征伐だって。その偵察だ。 |
|
| 山の民1 |
征伐!? |
|
| 山の民2 |
鬼・・・・鬼・・・・へへへ・・・鬼だってよ。 |
|
| 山の民3 |
鬼?鬼って・・・・誰じゃ? |
|
| 山の民2 |
誰って・・・へへへ・・・・・ |
|
| 山の民1 |
鬼たいじ? |
|
| イヌヲ |
おめえら、大丈夫か? |
|
|
おいら、おそろしいうなり声を聞いたぞ。真っ赤な火ふいて。 |
|
|
| 山の民たち押し黙る |
|
|
| 山の民3 |
・・・・・・鬼なんて住んでおらん。 |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 山の民3 |
噂じゃ。うわさ。 |
|
| イヌヲ |
だって |
|
| 山の民1 |
鬼なんて見たことも聞いたこともない。 |
|
| イヌヲ |
だけど、家をおそったり、人を食ったりするって・・・・・。 |
|
| 山の民3 |
そんなもの、嘘じゃ。わしらは幸せにくらしておる。 |
|
| イヌヲ |
・・・ |
|
| 山の民3 |
鬼たいじなんぞはじまったら、 |
|
|
わしら、いくさに巻き込まれてしまう。 |
|
|
そっとしておいてくれ。そっと。 |
|
| イヌヲ |
・・・・ |
|
| 山の民3 |
な。約束しろ。 |
|
| イヌヲ |
うん・・・・そう、伝えておく・・・・。 |
|
| 山の民2 |
さあさあ、のものものもー、はあーーーーのも。 |
|
|
| そういって山の民は手をたたいて拍子をとる。 |
|
| それにあわせて、音楽と踊りがはじまる。 |
|
| 最後は、イヌヲも山の民も皆で踊る。 |
|
| こうして楽しい宴の夜は過ぎていく。 |
|
|
| ------------ インターバル ---------------- |
|
|
| 6場 〜ミコトの部屋〜 |
|
|
| ミコトの前で、ひざまついているイヌヲ |
|
|
| ミコト |
何!鬼などいないと申すのか! |
|
| イヌヲ |
は、はい。単なる噂にて。鬼・・・なんて、いない・・・し、 |
|
|
みんな、平和に、くらしておりました。 |
|
| ミコト |
じゃが、うなり声や、あやしい炎が見えたとか。 |
|
| イヌヲ |
え・・・え・・・えーー。あ・・あれは・・・は、はい。 |
|
| ミコト |
鬼が住んでいないなら、いったい何なのだ、それは。 |
|
| イヌヲ |
えーーー。それは・・・・それは、幻、のような・・ |
|
| ミコト |
まぼろし? |
|
| イヌヲ |
ありもしねえもんが、見えたり、聞こえたりしたんだ。 |
|
|
鬼が住んでるって思ってたから・・・そうにちがいねえ。 |
|
| ミコト |
ふふふ・・・・ふふふ・・・・ふははは、幻か。ものは言いよう・・・・だのう。 |
|
| イヌヲ |
は。ですが・・・ |
|
| ミコト |
では。お前が出会うた少女や、村人が、幻でなかったとどうして言える? |
|
| イヌヲ |
は? |
|
| ミコト |
夢でもみたのか? |
|
| イヌヲ |
はあ。たしかに、夢のような・・・・ |
|
| ミコト |
・・・か。 |
|
| イヌヲ |
いや・・・。いや・・・。いや、いや、いーーーや。そんなはずはねえ! |
|
| ミコト |
なぜ! |
|
|
| イヌヲ、首飾りに気付き |
|
|
| イヌヲ |
これ、これだ!これが証だ。 |
|
|
あの少女が・・・くれた! |
|
|
幻じゃなかった。 |
|
| ミコト |
・・・。 |
|
|
| ミコト、首飾りを見つめる |
|
|
| ミコト |
なるほど・・・・ |
|
| イヌヲ |
じゃあ |
|
| ミコト |
これより、鬼の征伐に、出発する!準備をいたせ! |
|
| イヌヲ |
え?え・・・・ど、ど・・・・どうして! |
|
| ミコト |
イヌヲ!お前がその先頭にたて! |
|
| イヌヲ |
そ、そんな!鬼は・・・・鬼はいねえのに! |
|
| ミコト |
いや!いる。鬼は、いる! |
|
| イヌヲ |
だけど、平和に暮らしてる。 |
|
| ミコト |
脅されているだけだ。 |
|
| イヌヲ |
だ、だけど・・・約束した。 |
|
|
おいら、攻めないって・・・・・・。 |
|
| ミコト |
わしの命令に、逆らうのか・・・!? |
|
|
誰か。誰か! |
|
|
| 家臣1,2,3登場 |
|
|
| ミコト |
こいつを牢にぶち込んでおけ! |
|
| イヌヲ |
え、そんなーーー! |
|
| ミコト |
さあ! |
|
|
| 家臣1,2 イヌヲに近づく |
|
|
| イヌヲ |
ちょ、ちょっと、まて・・・まてよ。やめろーーーーーー! |
|
|
| イヌヲ、逃げ去る |
|
|
| ミコト |
追え!やつの行く先が、目指す鬼の住みかだ! |
|
|
追え、追いかけろーーー!! |
|
|
| 家臣、1,2 イヌヲを追って退場 |
|
|
| 家臣3 |
・・・よいの、ですか、これで? |
|
| ミコト |
見たんだ。 |
|
| 家臣3 |
え、何を? |
|
| ミコト |
イヌヲが下げていた・・・ |
|
| 家臣3 |
くびかざり・・・ですか? |
|
| ミコト |
鉄、だよ。 |
|
| 家臣3 |
鉄?ま、まさか・・・あれが!? |
|
| ミコト |
はるか西の地に鉄が大量にとれる場所があるとは聞いていたが・・・・ |
|
|
見つけた。見つけたぞ!イヌヲを偵察にやった甲斐があったというもんだ。 |
|
| 家臣3 |
じゃあ。鬼というのは・・・・ |
|
| ミコト |
鬼など、どうでもよい。 |
|
| 家臣3 |
え |
|
| ミコト |
鉄がほしい、鉄があれば、ヤマトの国はもっと、強くなる! |
|
| 家臣3 |
・・・・ |
|
| ミコト |
さあーーーーー。(手をたたく)遊びの、はじまりだ! |
|
| 家臣3 |
遊び? |
|
| ミコト |
鬼が追いかけるのではない。鬼を追いかける「さかさ」鬼ごっこだ。 |
|
|
| どこからかこどもの声で1、2、3・・・と数える声が聞こえる。 |
|
|
| ミコト |
わしが平和をもたらすのだ、鬼に苦しむものどもに! |
|
|
自由と、平和を、与えるのだ。わしが!! |
|
|
| 声が10までカウントすると、「星条旗よ永遠に」のテーマが流れる。 |
|
| 人々の喚起の声があがる。 |
|
|
| 7場 〜森の中〜 |
|
|
| 出陣の音。駆け回る人々の影。 |
|
| 逃げまどうイヌヲ。 |
|
|
| イヌヲ |
大変だ・・・・・大変だーーー。大変だ・・・・・。大変だーーーーー。 |
|
|
| イヌヲ舞台を走り去る |
|
| 下手より爺と婆が登場 |
|
| 二人で山のほうを見つめて |
|
|
| 爺 |
ミコト様がきてくれんさった! |
|
| 婆 |
せえじゃのお。けえで、安心して暮らせる。 |
|
| 爺 |
ほうじゃ、けえで襲われたり、山あらされたりすることもねえなる |
|
| 婆 |
へえ?そんなことあったけえのお? |
|
| 爺 |
さあ、あったような気がするけえどのお・・・ |
|
| 婆 |
せえでも、ありがてえことはありがてえことですがねえ |
|
| 爺 |
せえじゃ、ありがてえ、ありがてえ |
|
| 婆 |
ありがてえ、ありがてえ(そういいながら、2人、袖に下がっていく) |
|
| 爺 |
いてて、いて、いてーのー。 |
|
| 婆 |
どねえしたん? |
|
| 爺 |
ぎっくり腰が・・また・・・きようた・・ |
|
| 婆 |
もう、歳なんじゃから・・・ |
|
| 爺 |
ほうじゃ。 |
|
|
ああ、ありがてえ、ありがてえ |
|
| 婆 |
ありがてえ、ありがてえ |
|
|
| 2人退場 |
|
|
| 喧騒の中を、駆け回るイヌヲ |
|
| すでにあたりは、日がかげり、薄暗くなっている |
|
|
| イヌヲ |
はやく・・・・・はやく、あいつらに・・・・・伝えねえと |
|
|
| イヌヲ |
どっちだ。どっちなんだ! |
|
|
| イヌヲの前に突如、仮面をかぶった3人が現れる |
|
|
| イヌヲ |
ひ!な、なんだ、お、お、お、鬼か!? |
|
|
や、やめろーーーーー!! |
|
|
| 3人は無理やりイヌヲを捕まえて、連れ去る |
|
| 暗転 |
|
|
| 8場 〜ウラの砦〜 |
|
|
| 小さな部屋。 |
|
| 赤い閃光、部屋の中も赤く染める。 |
|
| 低い地響きの音。 |
|
| 部屋の奥に少女が座っている |
|
| イヌヲ、仮面の3人に無理やり連れ込まれる。 |
|
|
| イヌヲ |
い、いて、いてーって。は、はなせ、はなせったら、はなせよー! |
|
|
(少女に気づき)あ・・・・・・・。あーーーー! |
|
|
お、お、おめえも捕まったのか? |
|
|
| イヌヲ、少女に駆け寄り |
|
|
| イヌヲ |
大丈夫か。ひどいことされてねえか? |
|
|
| 少女、イヌヲを見つめている |
|
|
| イヌヲ |
こいつら、鬼の仲間か?やっぱ、鬼は、いたじゃねえか。 |
|
| 仮面1 |
姫。ご命令どおり、連れてまいりました。 |
|
| イヌヲ |
(男を見る)え?(少女を見る)え?・・・・・えーーー! |
|
|
| 男たち、仮面を捕りその場にかしこまる。それは山の民たち。 |
|
|
| イヌヲ |
お、お前ら・・・・。 |
|
|
(少女を見て)命令って・・・・。 |
|
|
| 少女、静かにうなずく |
|
|
| イヌヲ |
どういう、こと・・・・・・? |
|
|
なんで!! |
|
|
| 少女、ゆっくりと立ち上がり、山の民たちのほうへ歩いていく |
|
|
| イヌヲ |
おい、きいてるのか!何者だ、お前は! |
|
| 少女 |
(ゆっくりとイヌヲみて)・・・わ・・た・・し・・・ |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 少女 |
わからない・・・ |
|
| イヌヲ |
お前・・・。わからない? |
|
| 少女 |
みんなは・・・ウ、ラ、と呼ぶ。 |
|
| イヌヲ |
ウ・・ラ・・・・・・ウラだって!? |
|
|
お、鬼は・・・・お前のこと? |
|
|
(山の民たちに)本当か、今の話! |
|
|
| 山の民3、ゆっくりと立ち上がり |
|
|
| 山の民3 |
いつだったか、海の向こう、朝鮮の大陸から、一そうの船が、やってきた。 |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 山の民3 |
船から見下ろす男は、とてつもなく、大きく見えた。 |
|
|
小さなこどもと、付き人を引き連れて。 |
|
| 山の民2 |
ながーい旅のせいか髪やひげはぼうぼうにのび、頬は落ち、目がギラギラ光っていた。 |
|
| 山の民1 |
男は、百済の王子と名乗った。 |
|
| イヌヲ |
百済?あの、海の向こうの?じゃあ・・・・ |
|
|
じゃあ、お前は・・・ |
|
| 山の民3 |
似とるんじゃよ、その男に。 |
|
|
お前さんは、その王子に、よー似とるんじゃ。 |
|
| イヌヲ |
え・・・・。 |
|
|
| 少女はゆっくりと口を開く |
|
|
| 少女 |
・・・揺れる船・・・風の中に・・・父さんの声が・・・きこえた |
|
|
| 波の音フェイドイン |
|
|
| 少女 |
ぉ☆ --------------------------- |
|
|
| 少女は何度もさけぶ。 |
|
| やがて、波の音は消えて、少女の声だけが響き渡る。 |
|
|
| 山の民3,少女にちかづき、そっと肩に手を置く |
|
|
| 山の民3 |
話では、いくさにやぶれ、のがれてきたとのこと。わしらは彼らを受け入れた。 |
|
| 山の民1 |
その礼として、優れたタタラの技を伝えてくれた。 |
|
| 山の民2 |
おかげで、豊かな暮らしを手にいれた。 |
|
| イヌヲ |
た・た・ら? |
|
|
| 山の民3、前へでて |
|
|
| 山の民3 |
ここが、なにか分かるか? |
|
|
この赤い火、そしてこの音。 |
|
|
ここは、よそ者には決して見せない場所。 |
|
|
ここが、わしらの富の源。 |
|
|
このキビのクニの鉄を作り出すたたら場じゃ! |
|
|
| 赤い炎と音がいっそう激しくなる |
|
|
| イヌヲ |
そ、そ、そんなーーーーーーーー!! |
|
| 山の民1 |
王子はお亡くなりになったが、姫がしっかりと後をついでくれた。 |
|
| 山の民2 |
俺たちの守り神だ! |
|
| イヌヲ |
じゃあ・・・・・じゃあ、嘘・・・じゃ、ねえか・・・・ |
|
|
鬼が住むなんて・・・・嘘っぱちじゃ・・・ねえか・・・・ |
|
| 山の民3 |
言ったじゃろ、鬼など、おらんと。 |
|
| イヌヲ |
・・・・なら・・・・そんなら、伝えねえと・・・。 |
|
|
ミコト様に・・・伝えねえと。早く、伝えねえと。鬼なんていねえって。早く、早く伝えねえと。 |
|
| 山の民3 |
無駄じゃ、百も承知じゃろう。 |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 山の民1 |
鬼だろうと人だろうと代わりはしない。 |
|
| 山の民2 |
たたらの技をすべて、自分のものにするつもりだ。 |
|
| イヌヲ |
そ、そんな! |
|
|
鬼でもねえのに。 |
|
|
どうして殺しあわなきゃいけねえんだ。 |
|
| 山の民3 |
ヤマトは、そうやってクニをひろげてきた。 |
|
| イヌヲ |
・・・・・ |
|
|
逃げねえと。 |
|
|
もうすぐ、ここに、攻め込んでくる! |
|
|
はやく、はやく、逃げねえと! |
|
|
| 少女ゆっくりと前へでる |
|
|
| 少女 |
イヌヲ・・・逃げろ。 |
|
| 山の民1 |
どうして!? |
|
|
捕まえて、利用するのではなかったのですか? |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 少女 |
(首を横に振り)ダメだ・・・・こやつには関係ない・・・ |
|
| 山の民2 |
そんな、元はといえばこいつが来たせいで・・・ |
|
| 少女 |
イヌヲには! ・・・生きてほしい・・・ |
|
| 山の民3 |
姫・・・・。 |
|
|
それで・・・よいのですか? |
|
|
| 少女、静かにうなずく |
|
|
| 山の民3 |
(イヌヲに)迷惑をかけた。 |
|
|
さあ、ここから退散してくだされ。 |
|
| イヌヲ |
何いってんだ。早く逃げねえと。 |
|
| 少女 |
たたかう!わたし・・・ |
|
| イヌヲ |
そ、そんな |
|
| 山の民3 |
わしらも戦う。 |
|
|
この地を、守る! |
|
| イヌヲ |
勝てるわけ・・・・・ねえ! |
|
|
| イヌヲ、少女に近づき |
|
|
| イヌヲ |
なあ、逃げよう、一緒に!まだ間に合う。 |
|
|
| 少女、首を横に振る |
|
|
| イヌヲ |
どうして!! |
|
| 少女 |
・・・・みんな、置いて・・・行けない。 |
|
| イヌヲ |
まだ、こどもじゃねえか!! |
|
| 少女 |
助けてくれた・・・・父さんと、わたしを、・・・だから |
|
| イヌヲ |
もういいよ! |
|
| 少女 |
逃げるのは、・・・・イヤ! |
|
|
| イヌヲ、しばし少女をみつめる |
|
|
| イヌヲ |
じゃ、じゃあ、おいらも一緒にたたかう! |
|
| 少女 |
(静かに首を横にふる) |
|
| イヌヲ |
どうして!! |
|
|
| 突然、激しい轟音が響き渡る。 |
|
| 山の民たち、あわてて外の様子を見るために部屋をでていく。 |
|
| 部屋に残された少女とイヌヲ。 |
|
| 少女は山の民のたちの出ていった方向を見つめている。 |
|
|
| 少女 |
いいひと、とーっても。ここのひとたち。 |
|
| イヌヲ |
え |
|
| 少女 |
とても、親切にしてくれた。父さんが、死んだ・・・・あとも。 |
|
| イヌヲ |
だから。 |
|
| 少女 |
(振り返り、イヌヲをみつめて) |
|
|
お前が死んだら、誰が覚えている? |
|
|
あの人たちや私のこと・・・・。 |
|
|
お前が死んだら、 |
|
|
私は鬼で、ここは鬼のクニになってまう。 |
|
| イヌヲ |
おめえ |
|
| 少女 |
イヌヲ |
|
|
| イヌヲの顔を見つめる |
|
|
| 少女 |
・・・・わすれないで・・・・私たちの、こと・・・・・ |
|
|
おねがい・・・生きて・・・ずっーと、ずっーと、生きて、私たちのこと・・・消さないで |
|
|
| そこへ山の民1が駆け込んでくる |
|
|
| 山の民1 |
申し上げまーす!ミコトの軍勢は数千。第1の砦がやぶられました!! |
|
|
| 山の民2が駆け込んでくる |
|
|
| 山の民2 |
申し上げまーす!第2のやぶられました。 |
|
|
もうそこまで迫っています。 |
|
|
| 山の民3がはいってくる |
|
|
| 山の民3 |
姫、参りましょう!お話は、終わりましたかな? |
|
|
| 少女、うなずく |
|
|
| 少女 |
(イヌヲに)行って! |
|
| 山の民1 |
ミコトは西の門からくるはず。 |
|
|
(上手を指して)北の門からでれば、山をくだれる。 |
|
| 山の民2 |
大丈夫!簡単には中へ入れねえよ。 |
|
| イヌヲ |
だけど・・・。 |
|
| 少女 |
(山の民たちに)行こう。 |
|
|
| 少女を先頭に、山の民たち下手に去ろうとする |
|
|
| イヌヲ |
ま、まって! |
|
|
| 少女、たちどまり、ふりかえる |
|
|
| イヌヲ |
会える・・・よな・・・?また・・・・ |
|
|
| 少女、笑顔になる。 |
|
| そのまま、山の民たちを引き連れ下手に退場 |
|
| イヌヲ、その後姿を見つめている。 |
|
|
| イヌヲ |
うわー |
|
|
| イヌヲ、上手に駆け去る |
|
| 戦乱の音、はげしく鳴り響く |
|
|
| 9場 〜未来、山のふもと〜 |
|
|
| 戦いの音と入れ替わるように、子どもたちの歌声「ももたろう」 |
|
|
| こどもたち |
ももたろうさん、ももたろうさん、おこしにつけたきびだんご、ひとつわたしにくださいな |
|
|
| 語り部の老人(イヌヲ)とそれを取り囲む子どもたち、舞台中央に座っている。 |
|
|
| 語り部 |
こねんして、鬼退治はおわったんじゃ。 |
|
| こども1 |
えーっ、おしまい? |
|
| こども2 |
じいちゃん。これ・・・ほんまに桃太郎の話? |
|
| こども3 |
ちがうよー。 |
|
| 語り部 |
ほうかの?じゃが、これがほんまの、桃太郎のお話じゃ |
|
| こども1 |
ふーん。へんなのーーー |
|
| こども2 |
つづきは?ねえー |
|
| 語り部 |
つづき?つづきのぉー |
|
| こども3 |
ねえー、聞かせて、つづき。 |
|
| こども1 |
つづき。 |
|
| こども2 |
つづき。 |
|
|
| 語り部、頭上を見上げる |
|
| 激しい戦いの光と音 |
|
|
| こどもたち |
わー |
|
|
| こどもたち、おどろいてそのまま袖に退場 |
|
| イヌヲ、ゆっくりと立ち上がり、 |
|
| ふらふらしながら舞台下手まで駆け込む |
|
|
| イヌヲ |
(独白) |
|
|
どこをどう走ったのか、覚えちゃいない。 |
|
|
ただ、走って、走って、走って、気が付いたら山のふもとまでかけていた。 |
|
|
山の上じゃ、いくさの音が、いつまでも、続いて・・・・ |
|
|
| イヌヲ、うずくまる |
|
|
| 突然、今まで鳴り響いていた音が止まる |
|
| イヌヲ、顔をあげる |
|
|
| イヌヲ |
止んだ・・・・音が・・・・ |
|
|
| 立ち上がり、山を見上げる |
|
|
| イヌヲ |
いくさが・・・お・わ・っ・た。 |
|
|
うう・・・(泣き崩れる) |
|
|
ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー、ちくしょー、・・・・・・・・ |
|
|
| 地面をたたいて、悔しがる |
|
|
| イヌヲ |
おいら、なーーーんにもできなかった! |
|
|
どうして?・・・どうしてだ!!! |
|
|
みんなが、みーんなが幸せにくらすことはできねえのか・・・ |
|
|
| イヌヲ、立ち上がり山頂に向かってさけぶ |
|
|
| イヌヲ |
ちくしょーーーーー! |
|
|
| 何も聞こえない。聞こえるのは自分の声だけ。 |
|
| 振り返り、客席にむかって |
|
|
| イヌヲ |
(絞り出すような小さな声で)こんちくしょーーーーーーー |
|
|
| 静寂 |
|
|
| イヌヲ |
静かだ・・・・。 |
|
|
なにも、なかったみてえに・・・・。 |
|
|
ここに住んでた鬼のことも、なーんにも、なかったことに、なっちまうのか・・・・ |
|
|
| イヌヲ、自分のつけている首飾りを気づき |
|
|
| イヌヲ |
そんなことはさせねえ。 |
|
|
おいら・・・約束したんだ・・・・・ |
|
|
| 夜があけ、朝日がイヌヲを照らす |
|
|
| イヌヲ |
終わっちゃいないよーっ!!鬼が逃げるおかしなおにごっこ。 |
|
|
じーーっと隠れてな、鬼がきえちまわないように。 |
|
|
ずーっとずーっと、お前らのこと、伝えていくから。 |
|
|
いつか、もう鬼が逃げなくてもよくなったときには、 |
|
|
本当のおにごっこをしよう、みーんなで! |
|
|
そのときまで、おいら・・・おいら待ってるからなーーーーーーーーー。 |
|
|
| 彼方を見つめるイヌヲ。 |
|
| どこからか童歌が聞こえてくる。 |
|
| こどもたちが、かけだしてきて、イヌヲのまわりで鬼ごっこをはじめる。 |
|
| その中にはあの少女もまじっている。 |
|
| イヌヲはいつまでもずっと彼方を見つめて。 |
|
|
| 照明溶暗 |
|
|
| 終劇 |
|
|
|
|
|
|
|