レシピ・オブ・オズ
 〜おいしいオズの作り方〜
キャスト
ドロシー
かかし
キコリ
ライオン
少年
おばあさん
プロローグ
客入れの音楽が鳴っている。
緞帳はあがって、舞台は見せ見せ。
セットは狭く雑多な劇団の稽古場を模している。
部屋の中央奥にドアがあり、そこから出入りできるようになっている。
徐々に照明が落ち、客入れの音楽のボリュームがあがる。
照明が完全におち、音楽MAXになったところで、カットオフ。
静寂、暗転の中で、2行の字幕とそれを読み上げるドロシーの声で、この舞台は始まる。
字幕+ドロシーの声 ドアを開けて舞台へ出た私は、
まぶしい光に包まれた
字幕が消え、暗闇の中、ドロシーが舞台中央のドアを開けると、その奥から強い照明が差し込む。
開いたドアの前に彼女のシルエットが浮かび上がる
やがて照明はフェードアウト。闇の中にタイトルが映し出される。
字幕 レシピ
オブ
オズ
1場
とある劇団の稽古場。
部屋の中では、キコリ役の役者が衣装を着けたまま椅子にすわり
たばこ片手に台本とながめている。
キコリが少しいらつきぎみに、頭をかき、たばこをふかす。
ドアが開き、ライオン役の役者がライオンではなくドロシーの衣装を着て入ってくる。
小さな衣装を無理矢理来ているため、衣装は今にもはち切れそうになっている。
ライオン おはよう。
キコリ おー。(顔は台本を見たまま、なんとなく気配を感じて適当に手をあげて返事をする)
ライオン、適当にストレッチをはじめる
キコリ、振り返って初めてライオンの姿をみて、動きをとめる
ライオン (キコリの視線に気づき)何?
キコリ 何?
ライオン そんなに見つめないで
キコリ 何のつもり?
ライオン あたし・・・ドロシーーーー!
キコリ、もっていた台本をなげつける
ライオン きゃ、やめて、女の子になにするの!
キコリ 帰れ!
ライオン 何で!
キコリ いい、じゃ、俺が帰る!
ライオン、部屋をでようとするキコリをひきとめる
ライオン (素にもどって)ちょちょっと、まてって
キコリ ふざけるにも程がある、こんな時期に
ライオン まて、俺本気だって!
しばし真剣な顔を見合わせかたまる二人
ライオン (可愛く)ニャ
キコリ やっぱり帰る!
ライオン わ、まってまって、俺が悪かった
キコリ 一体何なんだよ?
ライオン いや、だから、ドロシー役が居ないなら、
俺が・・・・するしか・・・ないかな・・・って
キコリ はあ?
ライオン どお?似合ってる?
キコリ あのねえ。お前がドロシーしたら、ライオンはどうするわけ?
今いるメンバーで入れ替えてもしょうがないだろ、
足りないもんは足りないんだから
ライオン そうだけど・・・・ライオンはさっ、何か適当に出しときゃいいだろ
そこらをうろついてる野良犬とか
でも、ドロシーは主役だよ、主役がいないと
キコリ こんな気持ち悪い主役なら、いなくていいよ
ライオン (わざとらしく泣き崩れる)ひ、ひどい!!
キコリ その演技、ひどいわ
ライオン だって、今日でもう7月も終わりだよ。
本番まであと一週間しかないじゃない。
キコリ まだ一週間あるんだ、なんとか代役をさがすしかないだろ。
勢いよくドアがあき、かかし役の役者が衣装をつけて登場
かかし その必要はあーりませーん!
ライオン 遅刻!
キコリ また10円追加ね
かかし ふ、ふ、ふ
ライオン 何だよ。
かかし 今日の遅刻には10円以上の価値がある。
かかしの後ろから、ドロシーの衣装をつけた少女が登場
ライオン あれ、何その子?
かかし じゃーん、見つけて来ちゃいました、新しい子!
ライオン
キコリ へえ
ドロシー (はずかしそうに)あ、の、よろしくお願いし・・・
(キコリの顔を見て)あーー!あのときのキコリさん!
キコリにかけよって、体をたたく。
キコリ わ、何だ?
ドロシー (今度はライオンの顔をみて)ライオンさんもー!
すっごーい。
ライオンにとびつく。
ライオン ちょ、なんだよ突然
ドロシー 信じられない!かかしさんも、キコリさんも、ライオンさんも、みんな
あのときのまんま!
ライオン あの時?
かかし 前に僕らがオズをやったのを見たんだって
キコリ ああ、そういうこと。よく覚えてるね、7年も前なのに
ライオン 7年前っていったら
ドロシー 私、まだ5歳だったんですよ。
でも、ほんとに面白くって、それからオズの魔法使いのお話が大好きになって
みなさんのこともずーっと覚えてました。あ、ライオンさん少し太りました?
ライオン いやん!
かかし で、今回の話をしたら、もうすごくやる気になってくれて。
それで連れてきたって言うわけ。
ドロシー えーと、でも(ライオンの格好をみて)
ライオンさんが今回はドロシーするんですね、
じゃあ、私がライオン役?
少し無言の間
キコリ、ライオンに台本をなげつける
ライオン (来ていた衣装をやぶりさいて)がおー、俺様ライオン。ライオンよ。
大体、君、もう衣装きてるし・・・
かかし さーて、役者もそろったことだし、
早速練習練習。
ライオン よし、俺、衣装に着替えてくる
準備を始めるかかしとライオン
キコリは椅子にすわったまま動かない
かかし (キコリ)ねえ早くやろうよ。
もう時間ないんだから
キコリ あ・・・・ああ
ライオン 何?ドロシーは代わりが見付かったんだから、もうばっちり問題解決じゃん。
キコリ いや、それが・・・
かかし なにー?
キコリ 実は・・・・この台本、
やっちゃダメって
一瞬みな動きをとめる
ライオン は?
キコリ このままじゃ許可だせないって。
かかし え、どういうこと?
キコリ その、やっぱりアメリカの話だから、ダメみたいなんだ。
かかし ああ、やっぱそこかー
キコリ それでももう時間がないからって食い下がったら、その・・・設定を日本にしたら
使っていいって・・・
ライオン なーんだ、じゃ、変えよ、全部日本にしてしまえばいいじゃん
キコリ そう簡単に言うなって
それで朝からずっと頭をなやませてるんだ、結構大変なんだぞ
いい?例えば・・・ここ、一番最初のとこ
キコリ、たちあがって皆に台本を広げてみせる。
キコリ えーと、
「ドロシーはカンサスの広い広い草原の真ん中に住んでいました」
ほら、いきなりきた、
カンサス!もろアメリカの地名
かかし しらないよーカンサスなんて
キコリ お前がしらないだけ。だけど、日本ではないだろーあきらかに
ライオン だから、日本の名前に変えりゃいいじゃん
キコリ どこに
かかし うーん、カンサス?
ライオン カンサス・・・
キコリ カンサス・・・
ライオン 関西!
キコリ は?
ライオン 関西にしよ、ほら何となく響きも似てるし
かかし 範囲ひろ!
キコリ どうなの、それ?
ライオン (ドロシーに)君、出身どこー?
ドロシー あ、はい、生まれも育ちも広島です。
ライオン ほら、ばっちりセーフ。関西じゃん。
キコリ 広島って関西か?
ライオン 関西って西日本は全部関西だろ?
かかし はいはいはい、そんなことでケンカしない。
とりあえず関西でいいじゃん。やってみよー。
えーと、
「ドロシーは関西の広い広い草原の真ん中に住んでいました」
「ある日、大きな竜巻がドロシーの家をおそい、」
あれ、ドロシーっていうのは、いいの?
キコリ ああーもう、いいんじゃない。あだ名ってことで、
あだ名ドロシー、本名花子
かかし よし、おっけー
「ある日、大きな竜巻がドロシーの家をおそい、
 ドロシーは家ごとふきとばされてしまいました」
うん、問題ない、問題ない。
じゃあ、さっそく最初の場面から練習はじめよー。
あ、あれ?
突然、照明が点滅
かかし 何、これー!わーなんだか体がゆらゆらするー
点滅する照明の中、全員体を揺らす。
照明フェードアウト
2場
小鳥のさえずり。
広い洋間の寝室、上手にベッドがおかれている。
ベッドには少年がはいっており、上半身をおこして座っている。
下手からおばあさんが入ってくる。
おばあさん あら、起きてたんですか坊ちゃん
少年 ・・・・
おばあさん どうしたんです、難しい顔して
少年 変な夢をみたの・・・
おばあさん 夢?
少年 おばあちゃん、オズの魔法使いって知ってる?
おばあさん え?
少年 お話
おばあさん あの、女の子と・・・かかしと・・・
少年 ライオンとキコリのでてくる
おばあさん ええ、ええ、よく存じておりますよ。
オズの魔法使いの夢を見たんですか?
少年 いや、そうじゃなくって・・・・
その劇を練習してる人たち・・・・
よくわかんないんだけど・・・
おばあさん まあ、なんだか、楽しそうな夢ですこと・・・・
さあ、目が覚めたのなら、朝ご飯にしましょう。
準備してきますね。
少年 ねえ・・・おばあちゃん・・・
おばあさん はい?
少年 あした・・・だね
おばあさん そうですね
少年 やっぱり、うけなきゃダメ?
おばあさん そりゃそうですよ。約束したでしょ。
がんばって手術をうけて、元気な体にもどるって。
少年 うん・・・・
おばあさん こわいの?
少年 うん・・・・
おばあさん よし、わかりました。私にまかせてください。
少年
おばあさん 準備してきますから、ちょっと待っててくださいね。
部屋をでていくおばあさん
少年 ねえ、ちょっと・・・・
少年、おばあさんの出ていったほうを見つめているが、
やがて頭から布団をかぶる。
照明フェードアウト
3場
稽古場。
舞台上手奥にかかしが立っている。
下手からドロシー登場。手には熊のぬいぐるみをもっている。
かかし ねえ
ドロシー、気が付かない。
熊のぬいぐるみで遊んでいる。
かかし ねえってば!(足で地面を踏みならす)
ドロシー わ、だ、だれ
かかし ぼく、ぼく
ドロシー あなた・・・・・かかしさん?
かかし お願いがあるんだけど・・・
ドロシー お願いなんてないわよ。
かかし あ、そうか
再びドロシーは熊のぬいぐるみで遊びはじめる
かかし いや、そうじゃなくって!!
ドロシー ええ?
かかし ぼくがお願いがあるの!
ドロシー もう、なあに?偉そうなかかしさんね
かかし あのね、ぼくの背中にささっている、この竿をぬいてほしいんだ
ドロシー どうして?
かかし こいつがささっているからぼくは歩くことができない。
ぼく、もっと自由に歩きまわりたいんだよー
ドロシー ダメよ、かかしさんが歩き回ったら。
かかしさんのお仕事は、日がな一日ずーっとそこに立って
カラスの番をすることでしょ。
かかし あ、そうか
再びドロシーは熊のぬいぐるみで遊びはじめる
かかし いや、だから、そうじゃなくって!
ドロシー もう、なあに!?
かかし 君はそうやって自由に歩き回れて、
ぼくだけが、じっとしてなきゃいけないって、おかしいと思わない?
ドロシー うーん、(考えて)それもそうね。
わかったわ。
ドロシー、かかしの背中にまわり竿を抜く。
飛び出して、走り回るかかし。
かかし やったー。これで自由だ!
ところで、君、誰?何をしてるの、こんなところで。
ドロシー 私、ドロシー。あ、ドロシーはあだ名で本名は花子なんだけど・・・
かかし 花子?
ドロシー うん、まあいいの。それで、今からオズの魔法使いに会いにいくところよ。
かかし オズの魔法使い?
ドロシー なーんでも、願いをかなえてくれるんだって
かかし えー本当!どこにいるの?そのオズって
ドロシー うーん、この先のずーっと向こう。伊豆(いず)を超えた辺り。
かかし 伊豆?
ドロシー そう、伊豆には踊り子がいて、その先にオズの魔法使いがいるんだって。
かかし へえ。あのさ、もし僕がそのオズの魔法使いにあえたら、脳みそをもらえるかな?
ドロシー 脳みそ??
かかし 僕、脳みそがないの。
ほら、見て、ぼくの頭の中。
藁(わら)がいっぱいつまってるだろ。
ドロシー ほんとう
かかし で、その藁の中をみて。
ほら、納豆がいっぱいつまってるだろ。
ドロシー え(素でおどろく)
かかし もう、あたまの中が納豆だらけで、ネバネバしてかなわないんだよ。
だからさ、こんな納豆なんか出しちゃって、かわりにちゃんとした脳みそがほしいの。
ドロシー わかったわ。じゃあ、私と一緒にオズの魔法使いに会いに行きましょう。
かかし ほんとう!?
ドロシー ちょうど、一人で退屈になっていたところだし。
かかし やったー、そうと決まれば早速しゅっぱーつ!
かかし、下手に走り去る
ドロシー ちょ、ちょっとかかしさん、そっちじゃないわよー!
かかしを追ってドロシーも退場
場面が変わり、再び下手からドロシーとかかし登場
かかし ねえ、休憩にしよ。もう僕歩けない。
ドロシー もう、かかしさんは休んでばっかり!
かかし だってー
ドロシー そうねえ、どこかに休めるところはないかしら・・・・。
ドロシー、上手にいき、上手袖をうかがう。
ドロシー きゃ、きゃー。
かかし (あわてて)ど、どうしたの!
ドロシー (上手を指さし)ラ、ライオン!
後ずさりするドロシー。
上手よりゆっくりと、獅子舞をかぶったライオンがでてくる。きちんと獅子舞の振りをしつつ。
キコリ はい、ちょっとやめー
下手よりキコリがでてくる
演技をやめるドロシーとかかし
キコリ (獅子舞に)おい、
獅子舞を脱ぐライオン
キコリ なんだよこれ
ライオン 獅子舞
キコリ いや、わかるけど、
なんでこんなものがあるんだよ
ライオン いや、だって、設定が日本だっていうから
ライオンもこっちのほうがいいだろ。
それで、昨日練習が終わった後、わざわざ
町内会の倉庫にいってとってきたんだよ。
キコリ いくら日本だからって、いきなり獅子舞がでてきたら
おかしいだろ!
ライオン えーそうかなあ、せっかく持ってきたのにー
(獅子舞をもって)ほら、よく見ると結構愛嬌のいい顔してるよ
キコリ いや、そういう問題じゃなくて
かかし もう、いいじゃんいいじゃん、獅子舞でも。
全面的に設定は日本ですーってことで
ライオン そうそう、伊豆だし納豆だし
キコリ そうだ、納豆なんて話もきいてないぞ!
かかし えへ。アドリブアドリブ
ドロシー みなさん・・・・すごいですよねー
キコリ
ドロシー そうやって、自分たちでどんどん考えて、工夫して・・・。
(ため息)はあ・・・私、うまくできるかしら・・・・。
かかし あれ、2日目でもう自信喪失ー?
ドロシー だって、セリフ覚えるだけでも精一杯・・・
ライオン 大丈夫、大丈夫
ライオン、ドロシーを舞台中央につれていって、客席を指さす
ライオン ほら、客席をみてごらん
ドロシー (客席をながめ)・・・がらがら
ライオン そりゃ、今は練習だからね。
でも、これが本番になると、一杯のお客さんでうまるの
ドロシー 本当?
ライオン (客席をながめ)・・・多分・・・
いや、そういう気持ちで練習するんだよ!
私の演技で客席をいっぱいにうめてみせる。
そして私の演技でお客さんを笑わせて、泣かせて、感動させる。
それくらい自信をもってやらないと。
僕なんて、お客さんの前にフンドシ一丁ででたことだってあるんだよ。
ドロシー (笑って)え、ほんとう?
ライオン そうそう、自信をもってやったら何だってできるんだよ。
必要なのは、ちょっぴりの勇気
ドロシー 勇気・・・
かかし 勇気って、ライオンさんがほしがってたものだよねー
ライオン ああ、そうか!僕勇気ないんだった。
みんなで笑いあう
かかし さあさあ、ドロシーも元気になったところで、気をとりなおして、練習再開、さいか
あ、あれー、
照明点滅、役者たち体を大きく揺らす
かかし ま、またー
照明フェードアウト
4場
寝室。
少年は布団をかぶったまま。
下手からおばあさんがトレイに食器を載せてはいってくる。
おばあさん さあ、朝ご飯ができましたよー。あら?
ゆっくりと布団から顔を出す少年
おばあさん また寝てらしたんですか?
少年 続きをみてた
おばあさん
少年 さっきの夢の
おばあさん まあ、夢の続きが見れるなんて、なんて素敵なことでしょ。
枕もとに持ってきた食器をおき
おばあさん さあ、私の特製スープですよ。飲んでみてください。
少年、ゆっくりとカップを受け取り、口をつける
少年 おいしい・・・
おばあさん そうでしょ。
坊ちゃんが明日頑張って手術が受けれるように、
私が気持ちをこめて作ったんですよ。
料理に大事なのは心ですから。
少年 心?
おばあさん そう、料理をおいしく作るにはしっかり心を込めてつくること。
あとはちょっとした工夫とちょっぴりの勇気。
少年 勇気?
おばあさん どうです?私の入れた勇気、伝わりましたか?
少年 ・・・・うん・・・・
少年、カップをおいて
少年 もう少し寝るね
おばあさん また、夢のつづきですか。
そうですね、今日はそうやってしっかり休んで、楽しい夢でも
みてたほうが良いですね。
少年、しずかにうなずき横になる
照明フェードアウト
5場
稽古場。
勇ましい冒険の音楽がはじまる。
下手より、ドロシー登場。
音楽にのって楽しくあるいている。
ドロシーに引き続きかかし登場。
そのうしろにキコリが続く。
キコリはヒモに結ばれた獅子舞のかぶり物を引きずりながらでてくる。
ドロシー、引きずられる獅子舞を見て、あわてて素に戻り
ドロシー ちょ、ちょっとまって
キコリ 何だ?
ドロシー 何これ?
キコリ ほら、やっぱりドロシーも獅子舞なんておかしいと思うだろ
ドロシー いや、そうじゃなくて・・・ライオンさんは?
今日はお休み?
かかし いなくなっちゃった
ドロシー え?
ドロシー、キコリの顔をみる。キコリうなずく。
ドロシー どういうこと?
キコリ いなくなったんだ
ドロシー なんで?
かかし しーらない、大人の事情ーー
ドロシー そんな・・・・。
どうするの、もうすぐ本番なのに。
キコリ 一応、代役をさがしてはみるけど・・・
ドロシー もし見つからなかったら?
かかし わー大変だー
ドロシー なんで、そんなわざとらしくあわててるのよ。
かかし うー。
キコリ うーん。
よし、ここは役者の腕の見せ所だな。
ドロシー え?
キコリ、稽古場においてある椅子の背もたれの上に獅子舞を取り付ける
その様子を不思議そうに見つめるドロシーとかかし
キコリ (獅子舞に向かって)やっときたか、また遅刻だぞ
かかし は?
キコリ (さらに獅子舞に)さあ、もう時間が無いんだ、練習はじめるぞ
ドロシー ちょっと
かかし どうしたの、大丈夫??
キコリ 能って知ってるか?
かかし (頭をさして)脳?
キコリ ちがう、その脳じゃなくって、
能っていって日本に昔から伝わる、お面をつけて演じる舞台があるんだ
ドロシー はい、きいたことあります。
かかし それがどうしたの。
キコリ 能のお面には表情はない。
だけど、それを見る人には、そのお面があらゆる表情をもってみえるんだ。
それから、人形浄瑠璃ってのもある。
これも日本に昔から伝わる芸能で、人形をそれこそ、まるで本物の
人間が動いているかのように動かしてみせるんだ。
かかし 博学ー!
キコリ だから(獅子舞をさして)これも同じことだよ
ドロシー どういうことですか
キコリ こんな何の表情も動きもないただの獅子舞でも
まわりで俺らが、しっかり動いて、しっかり気持ちをこめてあげれば
ちゃんと本物に見えるはずだ。
かかし えーほんとかなあ
ドロシー 私そんなに上手じゃないですよー
キコリ 何弱きなこと言ってるんだ。どんな状況でも幕があいたら演らなきゃいけないんだ。
さあ、やってみよう。このシーンからね。
キコリ、台本をとりだし、ドロシーとかかしに見せる。
3人、役にもどって、舞台前方にでてくる。
かかし (舞台前方を見下ろし)わー、深い谷。落ちたら絶対死んじゃうよー
ドロシー どうしましょう。これ以上先へ進めない。
もうオズの魔法使いに会いにいくことはできないのね。
キコリ 仕方がない、引き返して、別の方法を考えよう
かかし そんなあ、せっかくここまで来たのにー
しばしの間。
3人
急にライオンの声に反応したかのように、3人そろってライオンのほうを振り返る
かかし ライオンさん、何て言ったの
ドロシー、ライオンにかけよって、顔に耳をちかずける
ドロシー えー、ライオンさんが私たちを背負って、この谷を飛び越えるですって
かかし そんなー、無理だよ。そんな危険なこと。
キコリ そうだ、無理するな、顔がこわばってるぞ。
かかし そうだよー。
(ライオンにかけよって)
ほら、がくがく震えてるじゃないかー。
ライオン君だって、ホントは怖いんでしょ。
ドロシー え、僕も勇気があるところ見せる・・・・僕の背中に乗れって・・・
本当に、本当に大丈夫なの?
3人、ライオンの顔を見つめる
つづいて、3人が顔をみつめる。そして大きくうなずく。
3人ライオン(獅子舞が載せてある椅子)の背につかまる。
かかし さあ、ライオンさん、準備OKだよ
3人 せーのー
3人で椅子を持ち上げて、そのまま谷をとびこえるように、舞台上をかけまわる。
やがて、中央に椅子をおいて、座り込む。
キコリ と、まあ、こんな感じ・・・・
ドロシー すごーい、まだまだ練習はいるけど、
なんだかできそうな気がしてきました。
かかし 結構体力つかうけどね!
キコリ そう、大切なのは心だよ
ドロシー 心?
キコリ お客さんに伝えようーっていう強い心があれば、
見ている人にその演技は必ず伝わるんだ。
それが演劇のいいところだよ。
ドロシー 心・・・・ですね。
ドロシー、ゆっくりと自分の胸に手を当て、うなずく。
かかし よーし、ライオンさんはいなくなっちゃったけど、
この調子で、練習がんば・・・
かかし、急に言葉をとめ、あたりをうかがう
ドロシー どうしたの?
かかし いや、いつも、このパターンで、中断させられちゃうから・・・
まるで、誰かが夢から覚めるように
ドロシー 夢?
かかし さ、さ、ちょっと静かに、そっと練習つづけましょ・・・
刺激しないように・・・
さ、キコリさんも・・
キコリ バカ!演技は溢れる心だ、そんな静かにできるか!
照明点滅
かかし わ、ほら、大きい声だすからー!
3人 わー!!!
役者たち体を大きく揺らす
照明フェードアウト
6場
寝室。室内は薄暗い。
外ではかすかに雨の音が聞こえる。
少年が起きあがり、ゆっくりとベッドからおりる。
不自由そうに歩きながら、窓の前に立ち、そっとカーテンをあける。
外は雨。雨音がいっそうはげしく。
じっと外を見つめる少年。
照明フェードアウト
7場
稽古場。
上手よりドロシー登場。
ドロシー さあ、今日こそオズの魔法つかいのところへ
たどり着くわよー。
(上手に向かって)さあ、みんな、行きましょう。
冒険の音楽。
元気良く歩くドロシー。
上手よりかかし登場。
さらにかかしがヒモでひっぱって獅子舞が登場。
さらに獅子舞にヒモで結ばれたキコリの衣装がひっぱられて出てくる。
ドロシー もう、ちょっとー!
かかし へ?
ドロシー キコリさんもいないなんて、一体どういうこと!
かかし だから、大人のじ・じょ・う
ドロシー あのねー。大人の事情だかなんだか知らないけどね、
一体どうするの、2人になっちゃったじゃない。
かかし うーん、そうみたいだね。
ドロシー 何、のんきなこと言ってんのよ。
ライオンさんだけなら、なんとかなりそうな気がしたわ。
だけど、2人もいなくなったら、もう無理よ。
どうするの!?
動きもセリフも、2人分私たちだけでカバーできるわけないじゃない。
かかし まあまあ、そう興奮せず
ドロシー もう、やめましょ。
かかし え?
ドロシー 役者がいないのに公演なんてできるわけないわ。
ほんとに、とんでもない劇団。
かかし ・・・・・・・
ドロシー さあ、かかしさんも帰りましょ。
かかし ・・・・・・・僕は・・・・するよ
ドロシー
かかし いいよ。君は帰っても。
僕はひとりでも練習する。
ドロシー そんな、どうして。
かかし お客さんがまってるんだもん。
楽しみにしているお客さんが。
ドロシー だけど、そんなの一人でできるわけないじゃない。
かかし できるよ。
舞台と、役者と、お客さんがいれば、それだけで演劇はできる。
役者が足りなけりゃ一人で何役だって演じることはできる。
道具がなけりゃパントマイムっていう方法だってある。
工夫次第でなんだってできるんだよ。
ドロシー かかしさん・・・
かかし 僕はずっとこの劇団でやってきた。
僕は自分の想像力を信じてる。
そして、お客さんの想像力を信じてる。
ドロシー ・・・うん、わかった。
私もやる。
かかし 本当!
ドロシー せっかくここまで練習したんだもん。
かかし よかったー、ほんとは一人でどうしようかと思ったんだ。
もう、やめるなんて言わないでよ。
ドロシー うん、約束する。
だけど、実際どうするの。
今回の場合。
ライオンもキコリもセリフが一杯よ。
かかし そうだなあ・・・・・。
字幕!
ドロシー 字幕?
かかし そう、(スクリーンをさして)ここらへんに、字幕でセリフを出すの。
そうしたらさあ
(獅子舞と、キコリの衣装を舞台中央にならべて)
こうやっておいておくだけでもさあ、
何をしゃべってるのかわかるじゃない。
ドロシー そっか・・・
かかし ね、工夫次第だよ。
表現の種類はいくらでもある。
ドロシー うまくいくかしら・・・・
かかし 大丈夫だよ。
さあ、そうと決まれば・・・
照明点滅。
かかし あ、あれ・・・・今日、なんだか早すぎないー!
体を揺らすかかしとドロシー
2人 わーーー!!
照明フェードアウト
8場
寝室。
ベッドのそばに座って、編み物をしているおばあさん。
ベッドで眠っていた少年が飛び起きる
おばあさん 大丈夫ですか?
少年 (我に返り)え
おばあさん なんだか、うなされてらっしゃったから・・・
少年 ・・・・・二人だけに・・・・なっちゃったんだ・・・
おばあさん え・・・
ああ、さっきの夢の続きですか?
少年 うん。
もうすぐ本番なのに、
最初にライオンさんがいなくなって・・・・
次にキコリさんもいなくなって・・・・
おばあさん 最後はかかしさんもいなくなって
少年 え?
おばあさん 結局ドロシーは一人になってしまうのです。
寝室のシーンはそのままに、稽古場のシーンも同時展開する。
獅子舞、キコリの衣装、かかしの帽子が置かれた稽古場に一人たたずむドロシー
ドロシー 半分予想はしていたけど・・・
結局かかしさんもいなくなっちゃった・・・・
もう、今日が本番だっていうのに!!
その光景をじっと見つめる少年。
少年 (おばあさんに)どうして!
(ドロシーを指さし)これは僕の夢なのに。
おばあさん 夢じゃないんですよ。
少年
おばあさん、ぼろぼろになったドロシーの衣装を取り出す。
少年 それは、夢の中でドロシーが着ていた・・・。
なんで!
おばあさん これは、単なる坊ちゃんの夢の中の話じゃないんですよ。
ゆっくりと立ち上がるおばあさん。
おばあさん 今から60年前、昭和20年の7月最後の日。
少年
おばあさん 私は、かかしさんに連れられて、広島にある、あの劇団の稽古場を
おとずれました。
ドロシー (はずかしそうに)あ、の、よろしくお願いし・・・
(キコリの衣装に)あーー!あのときのキコリさん!
(今度は獅子舞に)ライオンさんもー!
おばあさん あと一週間で本番だということで、
早速、稽古が始まりました。
そうして、稽古をしている間に、
ライオンさんがいなくなって
キコリさんもいなくなって
最後にはかかしさんもいなくなった・・・・
ドロシー みんなは大人の事情ってごまかしてたけど、
私なんとなく分かっていました。
戦争中だもん、昨日まで居た人が突然いなくなるなんて
めずらしいことじゃない。
おばあさん そうして私はひとりになって
あの8月6日、本番の日の朝を迎えました。
ドロシー どうしよう。一人でできるかなー。
ううん。でも私がんばる。約束したもん、やめないって。
バックに時報を伝えるアナウンスの声。「午前8時14分40秒・・・」
おばあさん 誰に見せるともわからない、その本番の舞台に立つために
私は、稽古場のドアを開きました。
ドアの前にたち、ゆっくりとドアノブに手をかけるドロシー
時報の声「午前8時15分、丁度をお知らせします。ぴ、ぴ、ぴ、ぴーーーー」
暗転。アナウンスもカットオフ。
無音。暗闇の中に、字幕とそれを読み上げるドロシーとおばあさんの声
字幕+ドロシー
  +おばあさんの声 ドアを開けて舞台へ出た私は、
まぶしい光に包まれた
字幕が消え、暗闇の中、ドロシーが舞台中央のドアを開けると、その奥から強い照明が差し込む。
開いたドアの前に彼女のシルエットが浮かび上がる。
しばしの静寂の後、堰を切ったかのように、はげしい轟音が響き渡る。
照明が全体を照らす。
稽古場を形作っていた、壁がゆっくりと倒れる。
四方八方へ崩れ落ちる壁、その後ろに、焼け野原の背景が広がる。
少女はドアの会った位置に後ろを向いたまま(つまり後ろに広がる背景を見つめて)立ちすくんでいる。
やがて、照明は時間をかけてフェードアウト。
照明に会わせて、轟音もフェードアウト。
その音にクロスして、静かで壮大なクラシック(頭に浮かんだのはG線上のアリア)がフェードイン。
その音楽が消えゆくその背景を包むかのように、ボリュームをあげる。
悲惨でむごたらしいその日の光景を逆に強調するかのように、
美しい旋律がしばし暗闇の中に響きわたる。
9場
音楽カットオフ。
暗闇の中、倒れているドロシーにスポット。
ドロシー (起きあがって)あれ?ここは?
続いて、ライオン、キコリ、かかしの3人にスポット
3人ともほほえんでいる。
ドロシー あれ、みんな?どうして?
もどってきてくれたの?
ライオン ようやくたどり着いたんだよ。
ドロシー
キコリ オズの国
ドロシー オズ?これは、劇の本番なの?
かかし ドロシーがつれてきてくれたんだ。
キコリ おかげで、願っていたものを手に入れることができた。
ドロシー 願っていたもの。
ライオン 僕は勇気。
キコリ 俺は心。
かかし 僕は脳みそ。
ドロシーがここまで連れてきてくれたおかげだよ。
ドロシー そうか・・・・みんな、よかったわ。
ライオン だから、ドロシー、君も願いをかなえたらいい。
ドロシー え・・・私?
キコリ ドロシーの願いは、住んでいたところへ戻ることだろ。
ライオン 君が履いている靴を3回鳴らしてごらん。
そうすれば、君はここから帰れる。
ドロシー だけど・・・
キコリ ここは・・・・オズの国は・・・・君の居る場所じゃない。
君は帰らなくっちゃいけないんだ。
ドロシー だけど・・・・みんなとお別れになっちゃう。
ライオン 僕たちはずーっとここで待っているよ。
だから、ドロシーは、君が住んでいたところへ戻って、そこで
ずーっと、ずーっと生きて、それからでも全然遅くはないんだよ。
ドロシー そんな・・・(かかしのほうを見て)ねえ、かかしさん
かかし もう、僕に聞かないでよ。
ドロシー
かかし 僕だって、本当はお別れしたくないんだよ。
短い間だったけど、僕はドロシーと一緒にお芝居ができて、本当に楽しかった。
だけど・・・だけど・・・
やっぱりみんなの言うとおりだと思う。
ここは君の住む国じゃない。君は君の生まれたところで生きていかなきゃ
いけないんだ。
さよならなんて言わないよ。きっとまた会えるから、
その時まで楽しみにしているよ。
ドロシー かかしさん・・・
キコリ さあ、行きなさい。
ドロシー キコリさん・・・
ライオン シーユーアゲイン。
ドロシー ライオンさん・・・・
ドロシー、3人の顔を順に見つめ、ゆっくりとうなずく。
ドロシー みんな元気でね。
ゆっくりと靴を3回踏みならす。
まずドロシーを照らしていたスポットが消える。
そのあと、順番に3人を照らしていたスポットも消える。
照明が徐々に全体を照らす。
広がる廃墟の真ん中に倒れているドロシー。
下手にはおばあさんがたって、ドロシーを見つめている。
おばあさん 気が付くと私は、焼け野原の真ん中に倒れていました。
目の前は、それこそ、台風で何もかも吹き飛ばされたような、
何もなくなってしまった景色がどこまでも広がっていました。
ドロシー、ゆっくりと立ち上がる。
おばあさん そうして、私は歩きはじめました。
ドロシー、ゆっくりと背景にむかって歩き出す。
おばあさん 辺りには、焼けただれた家と、焼けただれた人と、焼けただれた空気しかありません。
本当は怖かった、本当は泣きたかった。
だけど、私は涙をこらえて、ただ、一歩一歩その中を歩きました。
ライオンさんが教えてくれた勇気と
キコリさんが教えてくれた心と
かかしさんが教えてくれた智恵を抱きしめながら、噛みしめながら、一歩一歩・・・・。
おばあさん、舞台中央に進む
おばあさん (客席に向かって)これは実際にあった話です。
一つの町とそこに住む人達が一瞬のうちに跡かたもなく吹き飛ぶなんて、
それこそ、夢のような、オズの国の作り話のような話。
だけどこれは現実におこったこと。
あの時、かかしさんは言いました。自分の想像力を信じてる。
そしてお客さんの想像力を信じてる、と。
だから今日私は、坊ちゃんに、そしてみなさんにこの話をしたんです。
想像してください。60年前におこった、その、嘘のような本当の話を。
今はもう、ひとりひとりの想像でしか、そこにたどり着くことはできないのですから・・・。
私が、ただ、歩き続けたあの日のあの町へは。
おばあさん、上手のベッドに近づく。
おばあさん (少年に)それから、60年間歩き続けて、わたしはここにいるんです。
ずーっと、ずーっと生きて、それからでも遅くはないって、
その言葉を忘れずに私はここまで来ました。
そして、坊ちゃん、あなたにもそれは引き継がれましたよ。
少年
おばあさん 飲んだでしょ、私の特製スープ。
少年
おばあさん そう、料理をおいしく作るには
少年 ・・・しっかり心を込めること。
おばあさん あとはちょっとした工夫とちょっぴりの勇気。
ほら、あの人達からもらった3つの宝物をしっかりと受け取ったんですよ、坊ちゃんも。
だから・・・・まだまだ生きなくちゃダメですよ。
手術を受けて、元気に歩けるようになって、それでまず伊豆を目指しましょう。
オズの国はそのもっと、ずーっと先なんですから。
少年 うん・・・・わかった・・・・
僕、がんばる。
だから・・・・、ねえ
おばあさん ・・・なんですか?
少年 お話しして、オズの魔法使いのお話。ねえ。今夜よく眠れるように。
おばあさん ええ、いいですよ。
少年 それから・・・さあ
おばあさん
少年 また、作ってくれる?手術が終わったら。あの特製スープ。
おばあさん そんなのお安いご用です。作りますよ、何度でも何度でも。
少年の枕元にちかずくおばあさん。
冒険の音楽。
ライオン、キコリ、かかしが行進して舞台に登場。
後ろを向いていたドロシーも足踏みをして前にでてくる。
キコリ 心をこめて作った料理に
かかし 智恵をしぼって振りかけて
ライオン 最後に勇気をちょっぴり添えれば
ドロシー ほら、おいしいオズのできあがり!
冒険の音、徐々に大きく。
照明はフェードアウト。
終劇