|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| お暑いのがお好き 〜 Too Hot To Hug 〜 |
|
|
|
|
| たたみ1畳ほどの狭い部屋、天井も低く、窓も無い。 |
|
| 太った2人の男女がならんで座っている。 |
|
| 部屋の中には、いくつもの観葉植物が置かれている。それ以外には何もない。 |
|
| 二人とも無言。時折女が何か言いたそうに男の表情をうかがう。 |
|
|
| 女 |
・・・暑くない? |
|
|
| 男は反応がない。 |
|
| 再び無言の二人。 |
|
| 女、また男の顔を見て |
|
|
| 女 |
ねえ、暑くない? |
|
| 男 |
・・・・・そう? |
|
| 女 |
暑くないの!? |
|
| 男 |
別に。 |
|
| 女 |
・・・・あなた、変わったわね。 |
|
| 男 |
え、やっぱり、わかる、痩せたの。 |
|
| 女 |
いや、外見じゃなくて |
|
| 男 |
内面でしょ。だから、痩せるくらい、色々とつらい思いをしたのよ |
|
| 女 |
そう・・・どんな? |
|
| 男 |
君と別れたこととか |
|
| 女 |
うそ |
|
| 男 |
(うれしそうに)え、うそだったの、僕と別れたのは |
|
| 女 |
そうじゃなくて、別れたのがつらいっていうのが |
|
| 男 |
どうして |
|
| 女 |
むしろ清々したんじゃないの、こんなわがままな女と別れられて |
|
| 男 |
まさか。 |
|
|
・・・・でも、よかった。 |
|
| 女 |
え |
|
| 男 |
戻ってきてくれて |
|
| 女 |
それは、ちがうのよ、仕方ないじゃない、こんな状況だし |
|
| 男 |
でも |
|
| 女 |
それにもとはと言えば私がもらったものでしょ |
|
| 男 |
だけど、いらないって |
|
| 女 |
まさかこんなことになるなんて思わないでしょ |
|
| 男 |
まあ、何でもいいよ、君が戻ってきてくれたんだ |
|
| 女 |
だから、そういうのじゃないのよ |
|
| 男 |
どういうの |
|
| 女 |
んーつまり・・・・私は、自分がかわいいだけ |
|
| 男 |
うん。かわいいよ |
|
| 女 |
そうじゃなくって! |
|
| 男 |
・・・・ |
|
| 女 |
私は自分の命が惜しいから戻ってきただけなの。 |
|
|
別に今横にいるのがあなたじゃなくても、豚でもヘチマでも何でもいいの |
|
| 男 |
・・・・きついこというね、あいかわらず |
|
| 女 |
だから、言ったでしょ。こんな女とは別れて正解。本当はあなたもそう思ってるんでしょ? |
|
| 男 |
・・・そんなことない |
|
|
つらかった。ほんとにつらかったよ。 |
|
|
別れた直後なんて、ほんと何も考えられなかった。君のことばかり気になって。 |
|
|
(立ち上がって)こうやって一人でパスタをゆでている時も、君は他の男と一緒にいると思うと |
|
| 女 |
え?(立ち上がって男の手元を見る) |
|
| 男 |
当時の話だよ |
|
| 女 |
ああ |
|
| 男 |
ホントにつらくて、つらくて、食事も喉を通らない、通らないから仕方なく通りのよさそうな |
|
|
パスタ何ぞをゆでてみる。そんなシチュエーション。 |
|
| 女 |
それで、そんなに痩せたの |
|
| 男 |
うん、そうだとよかったんだけど |
|
| 女 |
え |
|
| 男 |
逆にパスタにはまっちゃって |
|
| 女 |
ああ |
|
| 男 |
パスタだけを食べ続けて、逆に太ったくらい |
|
| 女 |
どんだけ食べたの |
|
| 男 |
それが、どんなにつらくてもね、不思議と食事は喉を通ったんだ。そりゃもうおどろくほどすんなりと。 |
|
うなぎの骨だって刺さらないほどにね。 |
|
| 女 |
あなた、私と別れた直後にうなぎ食べたの |
|
| 男 |
うなぎパスタ |
|
| 女 |
精・・・ついた? |
|
| 男 |
・・・・ごめん、別に、そういうあれじゃ・・・・・ |
|
|
ともかく、そんなこんなをひっくるめてそんな自分が嫌になったんだよ。 |
|
|
別れたつらさとそれを認めてくれない自分の体に対するつらさっていうの |
|
|
そんな自分に嫌気がさして、おちこんで、そこからは一気に体重が減ったね。逆リバウンドっていうの |
| 女 |
そういう自虐的なところ、変わってないね |
|
| 男 |
まあ、そんなわけで、結果として君と別れて、こんなに痩せたってわけ |
|
| 女 |
ふーん |
|
|
| 再び無言 |
|
|
| 女 |
私もよ |
|
| 男 |
え |
|
| 女 |
痩せたの |
|
| 男 |
やっぱり。どうりで顔がほっそりしたと思った |
|
| 女 |
わかる? |
|
| 男 |
僕と別れたのがつらくて? |
|
| 女 |
ううん、ビリーで。 |
|
| 男 |
え |
|
|
| しばし見つめあう |
|
|
| 男 |
誰それ |
|
| 女 |
え、知らないの? |
|
| 男 |
新しい彼氏? |
|
| 女 |
黒人でスキンヘッドの |
|
| 男 |
黒人!負けた・・・ |
|
| 女 |
信じられない、あんなにテレビに出てたのに |
|
| 男 |
黒人でその上、芸能人か!はあ、お幸せに |
|
| 女 |
もう、何言ってんの!これよ |
|
|
| そう言って、女は立ち上がり運動を始める |
|
|
| 男 |
ちょっと、何?突然 |
|
| 女 |
こんなのとか(別の体操) |
|
| 男 |
わ、あぶないって |
|
| 女 |
これもよ(別の体操) |
|
| 男 |
だから、何が |
|
| 女 |
はあ、はあ、これが、はあ、はあ、ビリーよ。筋肉の意識改革よ。 |
|
| 男 |
改革って・・・筋肉に意識があるの |
|
| 女 |
え・・・あるんじゃない、だってほらこんなにがんばって燃焼してるのよ、がんばれー大腿2頭筋!! |
| 男 |
やばいな・・・ |
|
| 女 |
え、もう冗談よー |
|
| 男 |
いや、そうじゃなくて |
|
| 女 |
え |
|
| 男 |
筋肉が燃焼してるってことは酸素が二酸化炭素に変わってるってことだよ |
|
| 女 |
あ、そうなの |
|
| 男 |
こんなに狭い部屋で・・・酸素が薄くなっちゃうよ |
|
| 女 |
え、まさか |
|
| 男 |
ほんとだって、窓無いでしょここ。 |
|
| 女 |
そうなの(部屋の中を見回す)・・・そんなの、早くいってよ。どうするのよ |
|
| 男 |
どうするって言っても、君があばれるから |
|
| 女 |
ああ、そう言われたら心なしか呼吸が苦しくなった気がする。どこかにないの、酸素 |
|
| 男 |
そう思って、ほら、こうやってたくさんの植物を置いたんだよ。 |
|
| 女 |
え(部屋を見回す) |
|
| 男 |
光合成 |
|
| 女 |
ああ |
|
| 男 |
緑はいいよー。光合成でどんどん二酸化炭素を酸素に変えてくれる。こんな素敵なことはない |
| 女 |
でも光はどうするの。こんな地下深くじゃ、太陽の光なんてとどかないでしょ |
|
| 男 |
何言ってんの、(天井を指して)ちゃんと明かりがあるじゃない |
|
| 女 |
え、光合成って、太陽の光じゃなくても大丈夫なの!? |
|
| 男 |
え、ダメなの? |
|
| 女 |
知らない |
|
|
| しばし見つめ合う2人 |
|
| 男が立ち上がって壁のスイッチを押す。 |
|
| 部屋の照明が消える |
|
|
| 女 |
ちょっと |
|
|
| 女立ち上がって、明かりをつける |
|
|
| 男 |
何でつけるの |
|
| 女 |
何で消すのよ! |
|
| 男 |
もう、必要ないじゃない |
|
| 女 |
どうして |
|
| 男 |
僕は植物が光合成するのに必要かと思って、ずっと明かりをつけてたんだよ。 |
|
|
だけど、電気の光で光合成ができないんなら、つけとく意味ないでしょ |
|
|
| そう言って男、再び明かりを消す |
|
| 女すぐさまつける |
|
|
| 女 |
植物に必要じゃなくても、私たちには必要でしょ |
|
| 男 |
エネルギーの無駄使いはやめようよ。別に、僕たちは明かりがなくても死ぬわけじゃないんだし |
|
もっと地球全体のことを考えてさ |
|
| 女 |
さっきから何?緑だ地球だって |
|
| 男 |
僕はただ君のために |
|
| 女 |
何が私のため?私のためを思うなら、明かりを消さないでちょうだい。 |
|
|
耐えられるわけないでしょ。 |
|
|
こんな狭いところにあなたと2人でいるってだけでも苦痛なのに、 |
|
|
その上真っ暗になるなんて |
|
| 男 |
・・・・やっぱり、僕じゃダメなんだ。 |
|
| 女 |
・・・・今更きかないでよ。 |
|
|
| 男、落ち込んだ様子で天井にある入り口のハッチに手をかける |
|
|
| 女 |
ちょっと、何してんの |
|
| 男 |
出ていくよ |
|
| 女 |
はあ、何考えてんの。今出ていって無事でいられるわけないでしょ。 |
|
|
死ぬわよ、確実に。 |
|
| 男 |
それでも、君が僕とこれ以上いるのが苦痛っていうなら |
|
| 女 |
もう、ちょっと、何いってんのよ、 |
|
|
ほんとに・・・・あなたは・・・、 |
|
|
君のため、君のためって・・・・ |
|
|
本当に何も変わってないんだから! |
|
| 男 |
だって |
|
| 女 |
だから嫌なのよ。 |
|
|
あなたといるといつも自分を犠牲にして私の言うとおりにして、 |
|
|
まるで私一人がわがまま言ってるみたいじゃない。 |
|
|
それが、苦痛なのよ。何度も何度も言っているのに、どうしてそれをわかってくれないの! |
|
| 男 |
・・・・・ |
|
| 女 |
私、あなたと別れる時に言ったわよね。 |
|
|
あなたにももっとわがままを言ってほしかったって。 |
|
|
もっとエゴにならなきゃダメだって。 |
|
|
だけど、結局、今も何も変わってないじゃない! |
|
| 男 |
そんな・・・・僕は・・・あれから君が言うように努力したよ |
|
| 女 |
え |
|
| 男 |
地球のことについて、環境問題について、いっぱい勉強した。 |
|
|
オゾン層破壊、地球温暖化、エネルギー問題、課題は山積みだ。 |
|
|
だからほら、こうやって緑も大切にするようになった |
|
| 女 |
それは、エゴじゃなくてエコでしょ! |
|
| 男 |
違うの? |
|
| 女 |
大違いよ!! |
|
|
| 男、愕然として座り込む |
|
|
| 女 |
もう、何であなたは、そうなのよ・・・ |
|
| 男 |
・・・・・ |
|
| 女 |
自分のことは2の次で、いつも人の事ばかり気にして、 |
|
|
それで、今度は地球のことまで? |
|
|
馬鹿みたい・・・・ |
|
|
| 女も男の横に座り込む |
|
|
| 女 |
あの時だってそうよ。 |
|
|
つき合って最初の私の誕生日。 |
|
|
あなたは私に何がほしいって聞くから、私は何でもいいって答えたわ。 |
|
|
覚えてる? |
|
| 男 |
うん |
|
| 女 |
それで、あなたが買ってくれたのが、この核シェルターだった。 |
|
|
その時のあなたの全財産をはたいて買ってくれたわよね。 |
|
|
・・・いったいどういうつもりだったの |
|
| 男 |
それは・・・・その時の僕の貯金で買える、一番高価で役に立つものを |
|
|
考えた結果 |
|
| 女 |
そういうことを聞いてるんじゃないの! |
|
|
あなた分かる? |
|
|
つき合って一ヶ月しかたっていない彼氏から誕生日に核シェルターをプレゼントされた女の気持ちが! |
| 男 |
・・・・だって、君が何でもいいって |
|
| 女 |
それはそれよ |
|
| 男 |
それに、現にこうして役に立ってるし |
|
| 女 |
それも偶然よ! |
|
|
あなた、引くって言葉知ってる? |
|
| 男 |
え |
|
| 女 |
普通こんなものプレゼントされたらね、どんな女だって引くわよ |
|
| 男 |
何を引くの? |
|
| 女 |
はあ、もういいわ。 |
|
|
ともかくね、その時私は思ったの、この男、やばいって |
|
| 男 |
やばいのは地球だよ! |
|
| 女 |
まだそんなこと言ってるの! |
|
|
いい、あなたが今ここでいくら地球のことを考えたってね、上ではドンパチやってんの。 |
|
|
あなたがここでエネルギーを節約したって、今、この上ではその何万倍のエネルギーが |
|
|
一瞬のうちに使われているのよ。山は燃えて、人も動物も死んで、そうでしょ。 |
|
|
一体何の意味があるっていうの? |
|
| 男 |
・・・・・ |
|
| 女 |
この際だから、もう一度言うわよ。 |
|
|
あなた、もう少し自分のことを考えたほうがいい。 |
|
|
いくら他の人のことを思ってもね、ここを出たときには、もう外の世界には誰一人 |
|
|
生き残ってないかもしれないのよ。そんな人達のことを考えてどうするの。 |
|
|
私なんてね、言っちゃ悪いけど、自分のことばかり考えてるわ。 |
|
|
ほんと、外の世界の人間なんてみんな死んで、私たちだけ生き残ればなんてラッキー |
|
|
なんだろって、そんなことも平気を考えるような人間よ。 |
|
| 男、微笑む |
|
|
| 女 |
何よ、文句ある? |
|
| 男 |
・・・・よかった |
|
| 女 |
へ |
|
| 男 |
今、他の人間がみんないなくなって、僕と君だけ残ればいいって、そう言ってくれたよね。 |
|
| 女 |
あ、いや、そう言う意味じゃなくて、そうね |
|
|
それだと困るからやっぱり外の人達にも生き残ってもらわないと |
|
| 男 |
ほら、君も他人の無事を願ったじゃないか |
|
| 女 |
だからそれは、そう言う意味じゃなくて |
|
| 男 |
どうでもいいんだよ、理由なんて |
|
| 女 |
え |
|
| 男 |
僕だって、環境問題を考え始めたのも、もとはと言えば君に言われたからだし、 |
|
|
それに、それも聞き間違いだったわけだし、だから理由なんてないようなもんだ。 |
|
|
でも、それでもいいんだよ、多分 |
|
| 女 |
・・・・ |
|
| 男 |
勝手に他人のことを思ったり、地球のことを考えたりして、満足してる |
|
|
それって単なるわがままだよね。 |
|
|
結局、それも一つのエゴなんだよ。 |
|
| 女 |
・・・・ |
|
| 男 |
エコとエゴ。やっぱり、そんなに違わないのかもしれないね |
|
| 女 |
・・・何よ・・・わかったようなこと言って・・ |
|
|
| 女、ゆっくりと男の横に座り込む |
|
| しばらく無言 |
|
|
| 男 |
ねえ、もしも、もしもだよ。ここから出たときに本当に人類が絶滅してて |
|
|
僕と君しか残ってなかったらどうする? |
|
| 女 |
え・・・・そりゃ・・・ |
|
| 男 |
(じっと女を見つめる) |
|
| 女 |
何、期待してんのよ! |
|
| 男 |
(微笑んで)別に・・・ |
|
|
| 二人とも座り直す。無言。 |
|
|
| 女 |
ねえ、いつまで待てばいいの、私たち |
|
| 男 |
さあ |
|
|
| 間 |
|
| 女、上を見上げる |
|
|
| 女 |
静かね |
|
| 男 |
うん |
|
|
| 間 |
|
| 女、男の顔をうかがう |
|
|
| 女 |
ねえ、暑くない |
|
| 男 |
・・・別に |
|
| 女 |
汗、出てるわよ |
|
| 男 |
え |
|
| 女 |
暑くない? |
|
| 男 |
・・・・少し |
|
| 女 |
(微笑む)よかった |
|
|
| 照明、溶暗 |
|
|
| 終 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|