De Pachica

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


登場人物

 

町田  

マサ  

ヨシオ 

桃子  

山崎  

水沼  

 


 

舞台暗

 

(音)デパートの地下の賑わい。

   突然、フロアが揺れる音。落下していく陳列物。人々の悲鳴。逃げ惑う人々。

   地震のニュースを伝えるテレビ放送の声。

   やがて、フェードアウト。

 

明かり

 

---- 第一幕 -------

 

舞台下手にマサと桃子がいちゃついている、上手奥に山崎がラジオを分解して思考錯誤している。

中央奥で水沼さんを雑誌を読んでいる。

産地直送カニフェアの看板がだらしなくぶら下がっている。

 

マサ「カニがね」

桃子「え?」

マサ「カニですよ、カニ。(看板を指して)こいつ」

桃子「ああ、カニね・・・おいしそうよね」

マサ「うまいっすよねえ。とくにミソとこが」

桃子「あ・・・ミソはちょっとなあ・・」   

マサ「そうなんですか、さすが桃子さん!」

桃子「え」

マサ「ミソが苦手なんてかわいらしいじゃないですか。

   確かにミソばかり食う女はあまり見たくないですよねえ。なんかミソ臭そうで」

桃子「・・・そうかなあ、そういうの男とか女とかあまり関係ないでしょ」

マサ「ああ。いやあ、一本とられたなあ。男女平等とか、ファーストレディとかいうやつですね。さすが桃子さん、進んでるなあ」 

桃子「レディファーストでしょ、男女平等とは何の関係もないけど

・・・・・で、カニが何?」

マサ「ああ、そうそう、そのカニがね、何で横にしか歩けないか知ってます?」

桃子「え?横?ああ。うーん、突然言われてもなー」

マサ「教えてあげましょうか。

   カニが横にしか歩けないのは、前が見えないからなんですよ!」

桃子「え?へー、そうなんだ。マサさんて物知りなのね」

 

下手からヨシオがお茶を持って登場。

 

ヨシオ「マサ兄、お茶がはいりましたよ」

マサ 「遅えよ。ちゃんと桃子さんのも入れてきたんだろうな」

ヨシオ「入れてますよー。レディなんとかですよね」

マサ 「レディファーストだよ、そんなことも知らねえのか」

 

と、言いながら真っ先にヨシオの盆からお茶をとって飲む。

 

マサ 「ぬるっ。なんだこりゃ、ヨシオお前、こんなぬるいお茶があるか!」

ヨシオ「え!マサ兄が昨日熱すぎるって言ったから、今日はわざわざぬるめにしたんですよ」

マサ 「ばか、加減っていうものがあるだろうが。桃子さんのもこんなにぬるいんじゃないだろうな」

ヨシオ「桃子さんのは普通に熱くしてますよ」

桃子 「ええ、私のはおいしいわよ」

マサ 「全く、使えねえなお前は」

ヨシオ「お湯が沸かせるだけでも、ありがたいと思ってくださいよ。僕が昨日たまたまポットをみつけたから」

桃子 「ねえねえ、ヨシオさん。なんでカニは横にしか歩けないか知ってる?

ヨシオ「え?あー、それ、知ってますよ。カニは前が見えないからでしょ。

    この前テレビでやってましたよ」

マサ 「おい、ヨシオ!余計なこと言ってないで、何か昼飯になるもの探してこいよ」

ヨシオ「え、もうそんな時間ですか」

マサ 「そうだよ。もういい加減、おにぎりも飽きてきたんだよ」

ヨシオ「大丈夫ですよ。あっちのほうに惣菜がたくさん残ってましたから。やっぱデパートの地下はすごいですよ。食べ物がいくらでも見つかりますね」

桃子 「不幸中の幸いってやつね」

マサ 「さすが桃子さん。うまいこと言うなあ。

   (ヨシオに)早く行けよ」

ヨシオ「あ、はい」

 

ヨシオ下手へ去る。

 

マサ 「ヤマちゃん。ラジオはまだ直んねえのか?」

山崎 「(突然声をかけられておどろく)え?あーもう少しでいけそうですよ」

マサ 「おい、あんた、えーと、み、み、誰だっけ?」

桃子 「水沼さん」

マサ 「そう、水沼さん。あんたもヨシオと一緒に何かさがしにいったらどうだ」

 

水沼、マサのほうを見るが、すぐにまた目をそむける。

 

マサ 「ったく、何だよ。いいおっさんがいつまでもうずくまってよお。汗を流せ、汗を。

    ねえ、桃子さん」

桃子 「水沼さんも、まだショックなのよ。そのうち元気になるわよ」

山崎 「そうですよ。まあ、そっとしといてあげましょうよ」

マサ 「けっ」

 

町田が上手から汗を拭きながら帰ってくる

 

山崎 「お、町田君。どうよ、調子は」

町田 「まだ、全然ですね。思ったより、階段の崩れ方がひどくて」

桃子 「がんばるわねー」

町田 「山崎さんのほうは、どうですか?」

山崎 「やめてよ、山崎さんっていうの。

    ヤマちゃんでいいよ、ヤマちゃんで。もう2日も一緒にいるんだからさあ。」

町田 「すみません。どうも慣れなくて」

 

ヨシオ下手から、食べ物を持って帰ってくる。

 

ヨシオ「マサ兄、うまそうなの、いっぱい持ってきましたよ」

桃子 「わー、すごい。おいしそう」

ヨシオ「ほら、見て下さい。みっちゃんコロッケもありますよ」

マサ 「なんだ、そりゃ。」

桃子 「そっか、そういえば、このデパートだったわよね、みっちゃんコロッケって」

町田 「何なんですか?」

ヨシオ「最近有名なんですよ、みっちゃんコロッケって。

    この近くじゃここのデパートにしか置いてないんですよ」

マサ 「俺は、こっちの焼き鳥のほうがいいわ」

ヨシオ「まあ、みなさんも食べてくださいよ。まだ向こうにいろいろありましたよ」

町田 「じゃあ、僕も昼ごはんにするかな」

山崎 「ヨシオ君、毎日大活躍だねえ」

町田 「うちの食料調達部隊ですからね。ほんと助かるよ」

ヨシオ「町田さんも、がんばりますね。いい加減あきらめたらどうですか」

町田 「だって、ここでじっとしてても、仕方ないじゃないですか。なんとか脱出しないと」

ヨシオ「無理ですよ、あんなに崩れてたら。素直に外から救助がくるのを待ちましょうよ」

町田 「来ますかね?」

マサ 「日本の自衛隊をなめちゃいかんぞ」

桃子 「でも、あんなにひどい揺れだったでしょ。外はいったいどうなってるのかしら」

マサ 「ヤマちゃん、みなラジオが直るのを待ち望んでるぞ」

山崎 「いやー、まいったなー」

町田 「水沼さんは、どうですか。このあと瓦礫をどけるの手伝ってくれませんか?」

水沼 「(町田のほうをじっと見て)いや・・・私はいいよ」

マサ 「駄目だよ、そいつは、動く気がないんだから。まったく」

山崎 「まあまあ、マサさん、ぼちぼちいきましょうよ。まだ食べ物もあることですし。

    町田君も、あんまりがんばり過ぎないでさ」

町田 「・・・・はあ」

 

照明、フェードアウト。

 

そして何日か後

 

----- 第二幕 -------

 

下手でマサと桃子がいちゃついている。奥で水沼が寝転んでいる。

 

マサ 「じゃあ次、なんでザリガニは後ろ向きに進むか知ってます?」

桃子 「え、普通に前に歩いてるの見たことあるわよ」

マサ 「いや、そうじゃなくて、あいつらピュって後ろに逃げるでしょ、こう、ピュって」

桃子 「うーん。そんなことより、マサさん、なんでデパートの地下に化粧品売り場がないか知ってる?」

マサ 「は?化粧品?

    ああ、確かにそう言われりゃ、デパートの地下は食うものしかおいてねえなあ。

    うんうん。さすが桃子さん、いい問題だ」

桃子 「そう、問題なのよ」

マサ 「は?」

桃子 「化粧がおとせないのよ。クレンジングオイルが無いと。

    少し探してみたんだけど、

    やっぱり地下に化粧品はないみたいなの。お肌が荒れちゃう。」

マサ 「任せてください。ヨシオに探してくるように言っときますよ。

    そのクレーン車ゴーゴーってやつを」

桃子 「・・・・わざと言ってるでしょ」

 

   間

 

マサ 「そういや、ヨシオは何やってんでしょうねえ。」

桃子 「そういえば、今日は見てないわね、まだ寝てるのかしら・・・」

 

ヨシオ、上手から腹を抑えて登場

 

マサ 「お、噂をすれば夏の虫だ。ヨシオ!いつまで寝てんだ!」

ヨシオ「(マサをみて、苦笑いしながら)あ、え、いや、ちょっとトイレ行かせてください」

 

と、かけあしで下手に去る

 

マサ 「なんだ、あいつ?」

 

上手から山崎登場

 

山崎 「おはようございやっす」

マサ 「おお。ヤマちゃんもあいかわらず遅えな。」

山崎 「いやー朝はどうもねえ、私はバリバリの夜型ですから」

桃子 「でも、時計がないと、ここじゃ朝も夜もわかんないわよねえ」

マサ 「そう。自分の腹時計だけが頼り、ってね。ガハハハ。で、ヤマちゃん、ラジオはどうなんだよ」

山崎 「え、それがやっぱり、うんともすんともいわないですよ。やっぱりもう駄目なんじゃないですか?」

マサ 「そんなわけねえだろ、この間までちゃんと聞こえてたんだからよ!

    俺はあれで毎日、ラジオ英会話をきいてんだよ」

桃子 「すごい。英語話せるの」

マサ 「(自身たっぷり)イエッサー」

 

 

マサ 「ともかくよ、理系の大学でてんのお前さんだけなんだからよ。頼むぞ」

山崎 「・・・(敬礼の真似をして)イエッサー」

 

下手からヨシオ腹を押さえて登場

 

ヨシオ「何すか?自衛隊ごっこですか?」

マサ 「ヨシオ、何やってんだよ」

ヨシオ「朝からなんか腹の調子がおかしくて・・・」

マサ 「何だ、食当たりか。何日もなんとかコロッケばっか食ってるからだよ」

桃子 「そういえば、ここにあるものって、あんまり日持ちしそうに無いものばかりよね。」

山崎 「まあデパ地下ですから、基本的に惣菜とか生が多いですよね」

ヨシオ「賞味期限とか書いてないっすかね」

 

ヨシオ食べ物の置いてある場所(舞台上中央奥のほう)に確かめにいく。

 

マサ 「お前、そういうのちゃんと確かめとけよ」

ヨシオ「ああ、駄目ッすね。これも駄目。これは・・まあ漬物は持つか。

    あーみっちゃんコロッケなんて2日も過ぎちゃってる。

そりゃ、腹も痛くなるわ・・」

 

町田、上手から登場

 

町田 「どうしたんです?もう昼ごはんですか」

山崎 「いや、賞味期限がさあ」

町田 「え」

ヨシオ「もうほとんど駄目。あーなんで気づかなかったんだろ・・・

    あ痛たた・・ちょっとすみません、またトイレに」

 

ヨシオ、下手退場

 

山崎 「困っちゃうなあ。食べ物はしばらく心配ないと思ってたのに」

マサ 「またヨシオにさがしに行かせねえとな」

山崎 「もうヨシオ君、大体まわってたみたいですよ。

    半分くらいは崩れちゃってて、食べ物どころじゃないって。」

町田 「ほら、だから皆さん、そろそろ真剣に脱出することを考えましょうよ」

桃子 「脱出かあ。結構楽だったんだけどな・・ここの暮らし」

町田 「何言ってんですか、おかしいですよ。こんなところにずっといるのは」

 

ヨシオ戻ってくる

 

マサ 「おい、ヨシオ。もうちょっと持ちそうなものは無かったのか?」

ヨシオ「いやー、昨日も見てまわったんですけどねえ。行けるとこって、結構限られてて」

町田 「ほら、もうみんなでがんばるしかないですって」

マサ 「(いらつき気味に)頑張るにも、腹が減ってはなんとかだろう、町田さん」

町田 「そうですけど、ないものはないんだから」

マサ 「なんとかならんのか!」

水沼 「エスカレーターの下」

町田 「え」

 

 

皆、水沼を見る

 

水沼 「・・・エスカレーターの下の倉庫に缶詰がたくさんある。それで・・・しばらくは持つだろう」

山崎 「ええ!!ほんとですか、水沼さん」

マサ 「何でそんなこと知ってんだよ」

水沼 「・・・・・」

町田 「水沼さんも密かにさがしてたんですか?」

マサ 「お前、俺たちに抜け駆けして、そんなことしてたのか!」

 

 

水沼 「私は・・・・ここに・・・・店を出していたんだ」

町田 「え」

水沼 「だから、この場所のことは少し知ってる」

桃子 「お店って・・」

水沼 「・・・私の店だ」

山崎 「ひえー、経営者なんですか、水沼さんって」

桃子 「すごーい、このデパートにお店出せるのって、結構大きい会社じゃない」

マサ 「そうなのか」

水沼 「・・あなた達は気づいてないかもしれないが、ここで今まで食べてきたものの中にはうちの商品も結構あったよ」

ヨシオ「あ!じゃあ、みっちゃんコロッケって」

水沼 「水沼のみっちゃんだ」

桃子 「ああ」

マサ 「おい、みっちゃん!お前のとこの売り物で、ヨシオが腹をこわしたんだぞ!」

水沼 「(ちょっといらだって)おいおい、

ちゃんとパッケージに本日中にお召し上がりくださいねって書いてあったはずだ。

    そういうことはちゃんとしてるよ」

山崎 「まあまあ。で、缶詰っていうのは?」

水沼 「うちでお中元用に用意している缶詰が結構残っているはずだ」

マサ 「おい、ヨシオ」

ヨシオ「はい、ちょっと見てきます」

 

ヨシオ下手に退場

 

桃子 「そうか、水沼さんってすごい人なんだ」

マサ 「そんな大事なことを何で今まで黙ってたんだ」

水沼 「いや・・・わざわざ自分から言うことでもないだろ」

山崎 「口下手なんですよ、きっと」

 

(ヨシオの声)「ありましたー」

 

ヨシオ下手から戻ってくる

 

ヨシオ「結構たくさんありますよ。これでしばらく大丈夫なはずです」

マサ 「よっしゃ、これでまた安心して助けがくるのを待てるな。

    よかったですね、桃子さん。缶詰何があるか、一緒に見にいきましょう」

町田 「ちょっと待ってくださいよ!また、今までと同じよう何もしないで過ごすつもりですか。いい加減、みなさん手伝ってくださいよ!がんばって早く外に出ましょうよ!」

山崎 「まあまあ町田君、そう興奮しないで。あせることないじゃない」

町田 「あせりますよ。なんであせらないんですか。おかしいですよ。困るんですよ僕は!

    もう来週なんですよ、オーディションは」

 

桃子 「オーディション?」

町田 「・・・いや、役者の・・・」

桃子 「まあ、役者さんなの」

町田 「まだですけどね・・・チャンスなんですよ。次が」

桃子 「そっかー、それで早く外にでようとしているわけか」

町田 「ほかの皆さんだって、桃子さんだって、そうじゃないんですか?

    ずっとこんなところに閉じこめられてたら色々困るでしょう!」

桃子 「私は・・・・いいの、別に」

町田 「桃子さんが無事を心配して待ってる人とかいるんでしょ」

桃子 「待ってる人、か・・・。そうね、借金取りの人は首を長くしてまってるかもね」

町田 「え・・」

桃子 「私ね、外に出たって何もいいことがないの。いろんな人に頭下げて、

    また苦しい生活に戻るだけ。だったら、ずっとここにいるほうが楽」

マサ 「町田さん。人にはそれぞれ事情ってのがあんだよ」

町田 「・・・水沼さんは?経営者のあなたがこんなとこにいたら、会社のほうは大変なんじゃないんですか」

水沼 「・・・このデパートが勝負だったんだ。外に出たところで、もう」

 

 

ヨシオ「何か・・・みなさん、それぞれ事情があるんっすね」

桃子 「ごめんなさい。なんだか暗い雰囲気にしちゃって」

山崎 「いや。実は・・・私もね・・・」

町田 「えっ」

山崎 「・・・いや、止めましょう。もっと暗くなっちゃう。まあ、人それぞれ色々あるってことですね」

マサ 「そういうこった。さあ桃子さん、缶詰見にいきましょう。いくぞヨシオ」

ヨシオ「あ、はい」

 

マサ、桃子、ヨシオ、下手から退場

 

残された3人、しばらく無言

 

水沼 「わるかったね・・・町田さん」

町田 「え?」

水沼 「ようやく皆が外に出る気になるかもしれなかったのに。その機会をつぶしてしまったみたいだ」

町田 「いえ、仕方ないですよ」

水沼 「・・・私も・・・手伝うよ」

町田 「え」

水沼 「別に君のためじゃないが。店はなくなっても社員はまだいる。

    彼らの後始末をきちんとつけてやらんとな・・・。ようやく現実が見えてきた」

町田 「水沼さん」

水沼 「じゃあ、先に行ってるよ」

 

水沼、上手に退場

山崎、町田に近づいて

 

山崎 「よかったじゃない、町田君!」

町田 「ええ、うれしいです」

山崎 「いやーしかし危なかったよー」

町田 「何がです?」

山崎 「さっきはさあ、いきおいで、”実は私も”とか言っちゃったけどさあ。

    実は別に何も無いんだよねえ」

町田 「そうなんですか」

山崎 「まあ平凡な人生だからねえ。そんなドラマチックじゃないよ」

町田 「・・・・そんなもんですかねえ」

山崎 「まあぼちぼちいこうよ」

町田 「・・・・はあ」

 

照明、フェードアウト。

 

----- 第三幕 -------

 

舞台上、マサと桃子の二人、向き合って座っている。

マサが床に携帯電話を置いて、そのまわりにトランプを並べている

 

マサ「なんと、さっき桃子さんが選んだカードをこの携帯電話が当ててくれるんですよ。」

桃子「うそ」

マサ「じゃあ、今から言う番号にかけてみてください。090の」

桃子「ちょっとまってね」

 

桃子バッグから携帯を出す

 

桃子 「えーと、090の・・あ、ここ電波入ってないわよ。そっか、地下だから」

マサ 「あ・・・」

 

ヨシオ下手から登場

 

ヨシオ「おはようございます。あ、マサ兄、またそれやってるんですか」

マサ 「うるせえ」

ヨシオ「気をつけてくださいよ。桃子さん。そうやって自分の携帯に電話をかけさせて、

    桃子さんの電話番号をゲットしようって作戦ですよ」

桃子 「まあ、そうなの。もう、言ってくれたら、番号くらい普通に教えるのに」

マサ 「え、そうなんですか?」

桃子 「そんな、番号隠すような年でもないし、むしろバンバン教えちゃうわよ。必死なのよ必死」

マサ 「え?」

桃子 「うふふ、何でもないの。で、番号は?えーと、あ・・マサさん本名なんていうの?マサオ?それともマサシ?」

マサ 「・・・」

ヨシオ「駄目ですよ、桃子さん」

桃子 「え」

マサ 「いいんだよ!」

桃子 「え、何が?ねえ、なになに名前」

マサ 「・・・まさみ」

桃子 「まさみ!まあ、かわいい。マチャミって呼んでいい」

ヨシオ「ああ!」

 

マサ立ち上がって、去ろうとする

 

ヨシオ「あー、マサ兄待って。桃子さん、あんまり古傷にふれないでくださいよ」

桃子 「どういうこと?」

ヨシオ「兄貴は、小学生のころ、名前が女の子みたいってことで、

    からかわれた経験があるらしいんですよ。

    みんなからマチャミ、マチャミってあだ名つけられて」

桃子 「あら、マサミって、男のひとだってたくさんいるわよ」

ヨシオ「まあ、子供のやることですから。それ以来、自分の名前が嫌いなんですよ。

    マチャミなんて言葉がテレビから聞こえただけで、もう大変なんですから」

マサ 「いいんだ、ヨシオ。耐える」

桃子 「そうなの。かわいいのに」

 

 

ヨシオ「あーもう。元気出してくださいよ。ね。そうだ、桃子さん、写真みせてもらいました?」

桃子 「写真?」

ヨシオ「そう。マサ兄、見せてあげてくださいよ」

マサ 「え、そ、そうか」

 

内ポケットから写真をだす。

 

桃子 「何々?」

 

桃子写真をとる

 

桃子 「わあ、かわいい。誰?マサさんのお子さん?でも、なんか古いわね」

ヨシオ「マサ兄ですよ。子供のころの」

桃子 「え?え、えー!!(見比べて)これマサさん?え、だって全然ちがうじゃない」

ヨシオ「ほんと、何で、こんなになっちゃったんでしょうね」

マサ 「は」

ヨシオ「いえ」

桃子 「これがちょうど、マチャミって言われてた時の・・・」

マサ 「(マチャミという言葉に反応して)うー」

桃子 「(いそいで)あ、ごめんなさい」

 

マサ苦悶して場を離れる(上手がわに)

 

上手から山崎登場

マサに気づき

 

山崎 「おはようございやす」

マサ 「おお」

山崎 「また、寝坊しちゃっいました。(桃子とヨシオのやり取りに気づいて)何やってるんですか?」

マサ 「ああ、もういいから、あんたはラジオ。そうラジオだ、いったい何日かかってんだよ。いい加減頼むぞ!」

山崎 「え、いやー」

 

山崎、不可解そうにいつものポジション(そこには修理中のラジオ部品が転がっている)にいく

 

桃子 「自分の写真を持ち歩いてるの?」

ヨシオ「宝物なんですよ。自分の中で一番輝いてた時。くくく」

桃子 「まあ、確かに、これじゃからかわれても仕方ないわね。ほんとに女の子みたいにかわいい」

 

マサもどってきて

 

桃子 「あ、どうも。すっかり目の保養になっちゃった」

マサ 「また、見たくなったら、いつでもどうぞ」

桃子 「えっと、それで何だっけ」

マサ 「何がです?」

桃子 「何かしてたわよね」

マサ 「は?」

ヨシオ「もう、年なんだから」

 

桃子、ヨシオをにらむ

 

ヨシオ「あ、いや、桃子さんじゃなくて、ははは、桃子さんはまだお若いですよねえ」

マサ 「こら、失礼だぞ。ねえ、桃子さん」

桃子 「んー年は聞かないで。内緒。そのかわり携帯の番号ならバンバン教えてあげるから。バンバンね。でも年はだーめ」

マサ 「バンバン・・・」

ヨシオ「そう、携帯番号の話でしたね」

マサ 「おお、そういえばそうだ。まずは俺の番号から、いいですか桃子さん」

桃子 「(携帯を手にとって)あ、はいはい」

 

上手から突然山崎がたちあがる。

 

山崎 「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

こんなもんできるかーーー」

 

ラジオを床に叩きつける

 

マサ 「お前、俺のラジオに何やってんだ、こら!」

山崎 「(かなり切れ気味)わかんないっすよ。こんなの。

    もう、さっぱりだ。だいたい私なんかにできるわけない」

マサ 「はあ?何言ってんだよ。お前、理系の大学でたとか言ってただろうが。

    それくらい、わけないだろが!」

山崎 「はあ、理系?理系て言っても色々あるんですよ。そんなねえ、理系ならみんなが電気に詳しいとかおもってるでしょ、どうせ」

マサ 「(山崎の勢いに少しひるんで)何だよ。だいたいそんなもんじゃねえのか」

山崎 「ほらほら、もう。これだから。理系っていってもねえ私の専攻は地学ですよ。電気と何の関係もないの。

    つーか電気ができないから仕方なくそっちに行ったようなもんだ」

ヨシオ「そうなんですか」

山崎 「基本的にさあ、理系体質じゃないのよ。数学も物理も化学もよくわからんでさあ。

    でも、やっぱねえ、理系ってかっこいいじゃん。何か文系って女の子ぽいし」

マサ 「あーそれ女性差別」

山崎 「だから、大学は一番計算とか関係なさそうな地学にいったんだけど、

    結局そこでも、バンバン数学とかでて、ついていけなくてさあ。バンバン」

マサ 「バンバン・・・」

山崎 「そう、私なんてどうせ落ちこぼれなんですよ。

   (泣きながら)理系理系つっても、ラジオひとつ直せない

    落ちこぼれ理系なんですよ。もう、私に期待しないでください」

マサ 「(いらついて)けど、俺のラジオは弁償せーや!」

山崎 「わーーーーーーーーーーーーーー」

 

山崎、号泣しながら上手へ飛び出す。ちょうど戻ってきた、町田、水沼のすれ違う。

みな山崎の行ったほうを注目

 

桃子 「人にはそれぞれ色んな悩みがあるのね・・・」

   

照明フェードアウト

 

暗転のなか。   

   

(山崎の声)「もう嫌だ。ほんと何とかしよう」

(町田の声)「ちょっと、何なんですか、こんな夜中に」

 

照明ON

 

舞台上、山崎、町田、水沼。

 

山崎 「あいつだよ。あのマサとかいうやつ」

町田 「マサさんがどうしたんです」

山崎 「自分はなにもしないくせに、偉そうにしてさあ」

町田 「はあ」

山崎 「もういい加減がまんならなくなってきたよ。ねえ、みんなでちょっと協力してさあ、抵抗してみようよ」

町田 「抵抗って・・・別に僕は大して気になりませんよ。山崎さんがやったらいいじゃないですか」

山崎 「一人じゃ駄目なんだよお。我々、弱者っていうのはさあ、団結しないと」

水沼 「弱者・・・・」

町田 「それで、僕と水沼さんなんですか」

山崎 「だってさあ、ヨシオとかいうやつは、あいつの手下だし、桃子さんだって、なんだかあいつと仲良くやってるみたいじゃない。もう君たちしかいないんだよお」

町田 「そんなこと言われてもなあ。いったい何をするんですか」

山崎 「それを今から考えるんだよ。3人よればなんとかっていうだろう。例えば、こう

    やつの命令されても無視するとかさあ、逆に言い返してみるとかさあ」

町田 「だから、それくらいなら山崎さんでもできるじゃないですか」

山崎 「なんか私だと、どうもしまらないんだよ。なんていうか、迫力がないっていうか。

    もともと、いじめられッ子の体質だし、長いものには巻かれろ的な生き方をしてきたからさあ、慣れてなくって」

町田 「そんな感じですね」

山崎 「その点水沼さんなんて、寡黙でさあ、なんか一言きついこと言ったら、すごく迫力がありそうじゃない」

水沼 「私はそんな・・・人を傷つける発言はどうも・・・」

山崎 「大丈夫、やつはちょっとやそっとじゃ傷つきゃあしないって。それにさあ、町田君は、なんといっても役者じゃない。得意分野でしょう」

町田 「え・・・(照れて)まだ卵ですけど」

山崎 「卵も鶏もないよ。これがオーディションだと、思ってさあ。

   (声色をかえて)えーつぎは31番、町田さん、相手を黙らせる迫力ある一言、どうぞ」

町田 「え、え、あーー

   (少し考えて)

    こ、この、いかれポンチー」

水沼 「古いよ」

 

照明、フェードアウト

 

 

----- 第四幕 -------

 

舞台中央で桃子とマサが向かい合っている。真剣な表情

 

桃子 「やっぱり、私、あなたのことが好きになってしまったみたいなの」

マサ 「桃子さん」

桃子 「もうどうしようもなく好きなの、あなたのこと以外考えられない。

    お願い、ずっと私の側にいてください」

マサ 「桃子さん・・・こんな、俺でよければ、よろこんで」

桃子 「そうでしょう」

マサ 「え」

桃子 「普通そう言うわよねえ。でもその人はちがったのよ」

マサ 「ああ、その10も年上の男ですか」

桃子 「そう。君は僕みたいな男にはもったいない。僕といてもきっと君は不幸になるよ。

    もっと他にいい人がいるはずだ。って、そんなこというのよ。信じられない。

    そんなねえ、幸せかどうかなんて、こっちが決めるの。そんなのこっちは、一緒になったあとのメリットもデメリットも色々計算したうえでの結論なのよ。

    他にいい人がいるはずって、当たり前よ。その人よりいい人なんて回りにいくらでもいたわ。でも、向こうがその気がなくっちゃどうしようもないでしょ。僕みたいな男にはもったいないって、もったいないとおもうくらいなら、ラッキーとおもって素直につきあっておけばいいのよ。そうでしょ」

マサ 「はあ」

桃子 「結局はねえ・・・、その人にとっては単なる遊びだったのよ。

    さあ、こんなもんでいいかしら」

マサ 「わかりました。じゃ、次は俺の番ですね。そりゃ」

 

といって巨大サイコロを投げる

 

桃子 「わ、でたわよ。あ、マサさんも「恋の話」だわ」

マサ 「じゃあいきますか、恋の話略して」

二人 「こいばなー」

マサ 「パート2」

桃子 「え、何そのパート2って」

マサ 「いや、同じ目が連続ででたら、パート2っていうんですよ」

桃子 「え、何そのルール、そんなの誰が決めたの?」

マサ 「いや、誰がっていうか・・・」

 

山崎が上手から登場

 

マサ 「お、ヤマちゃん、今日も遅いねえ。もう機嫌はなおったか」

 

山崎、無視する

 

マサ 「おい。なんだよ。なんとかいえよ」

桃子 「まあまあ、まだ昨日の今日で気持ちが落ちついてないのよ」

マサ 「ちぇ、なんだよ」

 

上手から町田と水沼登場

 

マサ 「お、こちらのお二人さんは、朝っぱらから精がでるねえ。どうだ調子は」

町田 「順調ですよ、水沼さんが手伝ってくれるようになってからは進みも早いですし、

    もう、後少しで、  

   (山崎の視線に気づいて)あ・・・・  

    いや、何でもないです」

マサ 「え、後少しで、なんだって?」

町田 「いえ、いや、その・・・」

 

山崎の顔をうかがう、山崎、作戦どおりにやるよう、町田らをうながす仕草

 

 

町田 「マサ・・・さん・・・

    あの・・・・

    少しは自分でやったらどうですか・・・」

マサ 「え、なに?」

町田 「いや、ですから、マサさんも手伝って」

マサ 「俺はいいわ。最近足腰が弱ってんのよ。なんかとくに朝はだるくてよお」

町田 「あ、それならいい薬がありますよ、あ」

 

山崎にらむ

 

町田 「いや、あの、・・・・なんでもないです」

 

山崎、町田と水沼を自分のほうに呼ぶ

上手付近にあつまる3人

内緒話

 

山崎 「駄目じゃない、そんなんじゃ」

町田 「だって、突然無理ですよ」

山崎 「水沼さんも、がんばってよ」

水沼 「いや、私は最初から、そんなつもりは」

山崎 「まいったなあ、昨日あんなに作戦会議したのに」

 

マサ不信そうに

 

マサ 「なんだなんだ、こそこそと」

山崎 「え、いや、なんでもない、なんでも、ねえ、なんか町田君がいいたいことが

    あるみたいですよ」

町田 「ちょっと、なんですかそれ、自分だって」

山崎 「だから僕は駄目なんだって」

マサ 「おい、いったい何なんだよ!」

 

下手からヨシオ登場

ずいぶん疲労している。

 

ヨシオ「マサ兄、さすがにスッポンドリンクは見当たりませんねえ」

 

マサ 「遅せえよ。こんだけ時間がかかって、結局ねえのかまったく」

桃子 「スッポン・・・」

マサ 「あ・・・いや、ちがうんですよ。

    (いらついて)

おい、ヨシオ俺はスッポンなんて言ってねえぞ。スポーツドリンクって言ったんだ。何きいてるんだ、役にたたねえなあ。

   それより、ヤマちゃんよお。いったい」

ヨシオ「いい加減にしろよ」

マサ 「は」

 

みんな、ヨシオのほうを見る

 

マサ 「なんだ、ヨシオ、誰に言ってんだ」

ヨシオ「あんたにだよ、マサ兄。まったく、いつも下手にでてりゃ、調子にのりやがって。

    もう、あんたの我侭にはうんざりだ。」

マサ 「な」

ヨシオ「だいたいあんたさあ、いつも声はりあげてさあ、偉そうにしてるけど、ほんとは

    すごい怖がりだろ。昔からそうだよ。いつも回りの若い人間つかって、自分はひとっつも動きゃしねえし、だからって何か問題が起こっても責任もかぶりゃしねえだろ。

    肝心なときにはすぐ逃げるし。

    だから、みんなだんだんあんたから離れていったんだよ。みんな言ってたぜ、

    あんたは肝が小さいって。そりゃそれでも俺はあんたが好きだった

    から残ったよ。チンピラだったのを拾ってくれたのもあんただしさあ。

    でも、もう限界だよ。

    だいたい今回の地震のときもさあ、まわりにいた女や子供なんかも押しのけて、

    われ先に逃げ出しただろ。それで、結局階数まちがえて、地下まで逃げてきちゃってこのざまだ。ここにきてからも毎日毎日、偉そうに命令してるばかりでさあ。

    みんなうんざりしてるんだよお。

    もういい、もうあんたの命令はきかないよ。」

マサ 「ヨ、ヨシオ・・・・・」

 

山崎、町田、拍手

 

マサ 「おい、まてよ、ヨシオ。なんだよ、お前までそんなこと言うなよ・・・」

 

マサ、ヨシオに近づく。服からヒラリと写真が一枚おちる。それをひろう水沼。

水沼写真をみて

 

水沼「あ・・・・マチャミ・・・」

マサ「え」

マサ振り返る。マサと水沼顔を見合わせる。

二人相手を指差して

 

二人「あ!」

水沼「マチャミ!」

 

照明カットオフ

 

----- 第五幕 -------

 

舞台中央で桃子、鏡をみている

ヨシオ下手から登場

 

桃子 「あ、どう、マサさんは」

ヨシオ「まだ駄目ですねえ。あいかわらず誰とも話したくないって」

桃子 「そりゃ、ヨシオさんがあれだけいったらねえ。」

ヨシオ「だって、あの時はもう我慢の限界だったんですよ。桃子さんだっていい加減うんざりだったでしょ。」

桃子 「わたしはそんなことないわよ」

ヨシオ「まあ、桃子さんにはやさしかったですから。

    だけど、確かに言い過ぎましたかねえ。ああ見えて、結構打たれ弱いとこあるから」

桃子 「うーん、スネオに裏切られたジャイアンは、単なるブタゴリラね・・・」

ヨシオ「なんですか、それは。

    だけど、マサ兄がショックだったのはむしろもう一個のほうでしょう。

    まさか、水沼さんが、昔マサ兄をいじめてた同級生のひとりだったなんて」

桃子 「ほんと。人のめぐり合いって不思議よねえ」

 

上手から、山崎駆け込んでくる。

 

山崎「ちょっとちょっと、大変だよ」

ヨシオ「あら、ヤマさん、珍しく朝早いっすねえ」

桃子 「何でも、今日から山崎さんも、町田君たちの手伝いをするんですって」

ヨシオ「で、何が大変なんですか」

山崎 「まぶしいんだよ。朝日が」

ヨシオ「ははは、そりゃ、珍しく早くおきたから」

桃子 「まって、朝日って」

山崎 「見えたんですよ。外が」

桃子・ヨシオ「えー」

 

町田と水沼、上手から登場

 

桃子 「町田くん、外が見えたって」

町田 「ええ、まだ少しですけどね、瓦礫の隙間から」

ヨシオ「すごいじゃないですか」

町田 「でも、ほんとに狭い隙間なんですよ。外にでようと思ったらまだまだ

    どけなくちゃいけない瓦礫がいっぱいですよ」

山崎 「そうなの?」

町田 「とりあえず、希望はみえましたから。ここからが正念場ですね」

山崎 「はー、後何日かかるんだろうねえ。私なんか、今日朝から働いただけで

    もうくたくただよ」

 

一同ため息

 

桃子 「ちょっと待って、外が見えたってことは、そこから声を出せば、外の人に気づいてもらえるかも知れないってことよねえ。」

ヨシオ「あ、そうか」

町田 「外の人が気づいてくれたら、あとは放っておいても外の人が瓦礫をどけて、救助してくれますね」

ヨシオ「さすが桃子さん」

山崎 「だけど、ちょっと隙間があいてるだけだからねえ。周りに人がいるかもわからないし、相当大きな声でさけびつづけないと。結構大変じゃないかなあ」

ヨシオ「そういうのに適役な人がいるんですけどねえ。威勢のよさだけがとりえの」

 

一同、顔を見合わせて、下手の袖をうかがう

 

町田 「どうなんです。マサさんの様子は」

桃子 「誰にも会いたくないって」

山崎 「もう。肝心なときにさあ。

    やっぱり水沼さんが、あんなこというから」

水沼 「別に私は・・・・・、まさかあの男がマチャミだなんて思ってなかったから」

町田 「仕方が無い。僕たちでがんばりますか」

 

一同、うなずいて、作業にとりかかろうとする

 

水沼 「ちょっと、待ってくれないか。なんだか・・・・やっぱり私は責任を感じるよ。」

ヨシオ「マサ兄のことですか」

水沼 「ああ、このまま我々だけでがんばって脱出できたとしたとしても、

    あの男は、あのまんまだろ。偉そうで気に食わないやつだが、私の一言で

    傷ついたまま、ここを出るっていうのは、なんだか私のほうもすっきりしないよ」

町田 「謝ってきたらどうですか」

ヨシオ「あー駄目駄目。そういうの。プライドだけは高いから、まったくの逆効果ですよ。」

水沼 「どうすればいいんだ」

 

 

桃子 「町田君・・・あなた、役者をめざしてるのよねえ」

町田 「え」

山崎 「かなり大根ですけどねえ」

町田 「そんなことないですって!」

山崎 「昨日のあれじゃあ・・・芸能界はきびしいよお」

町田 「昨日のは、あれは、むずかしいんですよ、ああいうのは」

桃子 「じゃあ、汚名挽回してみる?私に考えがあるの」

町田 「え」

 

一同桃子のまわりにあつまる

 

照明フェードアウト

 

 

----- 第六幕 -------

 

上手で町田うずくまっている。山崎、水沼、桃子がそれを取り囲む

下手から、ヨシオにひっぱられてマサ

 

マサ 「なんだよ、無理やり!ひとりにしておいてくれよ!」

ヨシオ「いいから、来てくださいって。大変なんですよ」

 

桃子 「あ、マサさん。きてくれたのね。」

山崎 「ちょっと力を貸してくださいよ。町田君が大変なんだって」

マサ 「え、町田さんが、どうしたって?」

町田 「あー痛ててて、ちょっと足をすべらしちゃって」

山崎 「高いところから落ちて、足を痛めたみたいなんです」

桃子 「はやく、病院につれていって見てもらったほうがいいと思うの」

マサ 「病院たって・・・」

ヨシオ「実は、もう瓦礫の隙間から外が見えてるんですよ」

マサ 「なんだと」

山崎 「あとは、そこから叫んで外の人に気づいてもらえればいいんですけど、

    私も水沼さんもヨシオくんもさっきから助けをよんでるんだけど

    もうヘトヘトでさあ、一番元気な町田君もこうなっちゃって」

桃子 「だけど、早くしたほうが良いと思うの。町田君、さっきからどんどん痛みが増してるみたい」

町田 「そ、そうなんです。痛い、痛いよー。あとはマサさんだけが頼りなんです。

    お願いしますよ、あー痛たた」

マサ 「なんだよ、みんな揃いも揃って情けねーなあ。

    町田さん、足はそんなに痛むのかい」

町田 「え、あ、そりゃもう、痛むなんてもんじゃないですよ。

    なんていうんですか、その、あの、えー」

桃子 「(とっさに)大変、痛みがひどすぎて、うまく口がまわらなくなっている。

    えーと、何か本で読んだことあるわよ。骨折とかして、痛みがあまりにひどいと、

    うまくしゃべれなくなって、そのあとすぐに気を失っちゃうんですって」

町田 「え?」

町田とっさに気を失ったフリ

 

桃子 「あ、町田君!ちょっと、町田君、大変!ほんとに気を失っちゃった。

    これは一刻を争うわ。マサさん」

ヨシオ「マサ兄」

山崎 「マサさん」

水沼 「マチャ・・」

とっさに山崎、水沼の口をふさぐ

 

マサ 「わかったよ。しょうがねえなあ。おい、ヨシオその外が見えてるってところに案内しろ」

ヨシオ「はい」

マサ 「町田さん、すぐに助けをよんでやるからな。待ってろよ」

 

ヨシオ、マサをつれて上手袖へ退場。

 

桃子、水沼、山崎顔を見合わせて笑顔。

上手よりマサの叫び声

 

(マサの声)「おーい。きこえるかー。きこえてねえなんていわせねーぞ。

      ここに閉じ込められてんだよー。

      早く助けにこねえかー。

      このまま見殺しにしたらただじゃすまねえからなー。

      おい、きこえてんのか。おい。

      こっちはお前、6人もいるんだぞー。しかもただの6人じゃねえ。

      ひとりは社長さんだぞ。とってもうめーなあコロッケを作ってんだよお。

      助けねえとお前ら2度とおいしいコロッケ食べることできねえぞ。

      よし、しょうがねえ、助けてくれたやつにはみっちゃんコロッケ1年分プレゼントだ。

 

      それからなあ、あとは、そうだ未来の名役者もいるぞ。そいつが今

      足を怪我してて大変なんだよお。このまま足が治らなかったら、未来のアカデミー候補を失うことになるぜ。いいのか!一刻をあらそうんだよ。はやくしろ。

 

      あとなあ、かわいいお嬢さんもいるぞ。今助けたらなあ、携帯番号ききほうだいだ。バンバンだ。どうだいいだろう。だけど年はきいちゃいけねえぞ。わかってんだろうなあ。

 

      あとはなあ、地学博士もいるぞ!なんか計算はにがてみたいだけどなあ。

      それでも大学でてんだ。きっと何かすげーんだよ。

 

     あとはこの声のでけーおっちゃんと、その他の人だ」

 

(ヨシオの声)「ちょっと。「その他の人」ってなんですか。おーい、僕も助けてくださいよー」

(マサの声) 「え、なんだって、よく聞こえねえ。そうだ、6人だ、そうだよ。早くしろ」

 

ヨシオ走ってもどってくる

 

ヨシオ「外の人が気づいてくれました。すぐに救急に連絡してくれるって」

山崎 「やったー」

 

町田も目を開けて起き上がる

 

桃子 「大成功ね」

 

5人でガッツポーズ

マサがもどってくる。

 

マサ 「やれやれだぜ」

 

町田とっさにまた気を失ったフリ

 

マサ 「もう大丈夫だ。すぐに助けがくる」

山崎 「助かったー。さすがマサさん、頼りになりますねえ」

桃子 「ありがとう、マサさん」

 

水沼、ゆっくりとマサの前にきて

 

水沼 「ありがとう。助かったよ」

 

マサ目をそらして

 

マサ 「何、これくらい・・・・・朝飯前よ。おい、ヨシオ。お前はまだ声の出し方ってのがわかってない。こっちにこい、鍛えなおしてやる」

ヨシオ「あ、はい」

 

マサ、ヨシオをひきつれて下手に退場。

 

山崎 「ふー。やれやれですねえ。なんだか助かるってわかったら

   安心して眠くなってきちゃいました。ちょっと一眠りしてきます。」

 

山崎上手に退場

 

水沼 「出れると分かったんだ。私もちょっと今後のことを考えないと」

 

水沼上手に退場

 

桃子、まだ気をうしなっている町田をみて

 

桃子 「もういいわよ。町田君」

 

町田起き上がる

 

桃子 「まったく、君は本当に役者はあきらめたほうがいいかも知れない」

町田 「え」

桃子 「才能なし。君よりも演技がうまくて、成功しなかった役者さんをたくさん知ってるわ」

町田 「え・・・・桃子さん、あなた、いったい何者ですか」

桃子 「放送作家なの、知らない?結構有名なのよ」

町田 「そうなんですか。

    じゃあ、外に出たら借金取りが待ってるって言うのは?」

桃子 「作り話よ。

    ここでおこった出来事って結構面白かったじゃない。だから、この体験を元に

   お話を一本書いてみようかなあって。そのときに自分の役は、ああいう不幸な女性にしたら面白いんじゃないかと思ってさあ」

町田 「すごいなあ、ここで起こったことがそのままドラマになるんですか」

桃子 「まあ、さすがに脚色しないと、そのままじゃ使えないけどね」

町田 「それじゃあ撮影するときには、是非僕の役には僕をつかってください」

桃子 「だーめ。もっといい役者さんをつかうわ。

    うーん。でもまあ、今回のことで少し恩もあるしなあ。

    もし君が、なんの役でもいいっていうんなら、今書きかけのドラマのキャストに推薦してあげてもいいわよ。君にピッタリの役があるの。」

町田 「ほんとですか!何の役です?」

桃子 「死体役。さっきの演技も気絶してからは、なかなかよかったわよ」

町田 「僕はしゃべらないほうがいいってことですか。まあいいですよ。

    やらせてください。」

桃子 「わかった、じゃあ、あとでここに連絡ちょうだい。」

 

桃子、町田に名詞をわたす

 

町田 「あ、そうだ、いいこと思いつきました」

桃子 「何?」

町田 「ここで起こったことをもとにお話を書くって言ってましたよね。

    そのタイトルを思いついたんですよ」

桃子 「ほんと?もし良かったら採用してあげるわ」

町田 「僕たちが今いるのってデパートの地下じゃないですか。

    だから、タイトルはずばり、「デパ地下」ってのはどうです」

桃子 「はあ、ほんと、君、安易ねえ」

 

桃子笑う、町田もテレ笑い。

照明、フェードアウト

 

それとスライドして、ヘリコプターの音。

救助を伝えるアナウンサーの声。

やがてその音もフェイドアウト

 

終劇