真夜中の水鏡




ある女性が、大学の飲み会で友人から水鏡のおまじないの話を聞いた。

真夜中に水桶に水を張り、口にカミソリをくわえてのぞき込むと、水鏡に将来の結婚相手の顔が浮かび上がるのだと言う。

深夜に帰宅後、彼女は酔いも手伝って、そのおまじないを試しにやってみることにした。洗面器に水を貼り、カミソリをくわえて覗いてみると……自分の顔以外は何も映らない。やっぱりあるはずないよね、と思ったその時、水桶に知らない誰かの顔が映った気がして、驚いて口にくわえたカミソリを洗面器に落としてしまった。

水鏡の波紋と共にその顔は消え去り、やはり気のせいだったかと彼女はそのままそのおまじないのことは忘れてしまった。

月日が経ち、その女性にも恋人ができた。彼女は彼のいつかどこかで見たような、深いまなざしが好きだったが、一つだけ不満があった。彼はいつもマスクをして、口元を見せてくれないのだ。

ある日、彼女はとうとう我慢ができなくなり、彼にマスクを外して欲しいと詰め寄った。

彼は嫌がったが、ようやく折れ、しぶしぶながらマスクを外すと……

その下にあった右頬にはまるでカミソリで裂いたような大きな傷跡がついていたのだった。

彼は傷ついた口で、にやりと笑って言った。

「君がつけた傷だよ。責任、取ってくれるよね?」

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この話を知って影山が最初に思ったのが、なんでカミソリ?でした。同じことを思った読者さんもいるかと思いましたので、作中で奇異太郎がそれっぽい理屈を言ってますが影山のこじつけオリジナル設定です。

奇異太郎の15人の嫁候補については深くは語りますまい。語られてないエピソードとか含めて数えたらそんくらいいました。いつか描けるといいですね、まだ見ぬヒロインたちの話を。