ドライバー




子供の頃、よく母親と銭湯へ通っていました。

ある日、湯船の横に階段があり、上がったところにドアが付いていることに気が付きました。

そのドアには鍵穴がついていて、中を覗くと薄暗い中、たくさんの機械が見えました。ボイラー室でしょうか。私は夢中になって覗いていました。すると、部屋の隅のほうに、誰かいることに気が付きました。けれど、良く見えません。違う角度から覗こうとすると、今度は部屋が真っ黒です。おかしいな?と目を離し身を引きました。

次の瞬間、鍵穴からマイナスドライバーの先端が飛び出し、ぐりぐりと狂ったように乱舞していました。

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古いミステリー小説などで、密室の中を鍵穴から覗く描写があったりしますが、現在は鍵穴から向こうを覗けるタイプの鍵はほとんどないでしょう。このドライバーの話には続きがあり、町を引っ越すことになった少年が引越しの前にもう一度銭湯に行き、こんどは自分で鍵穴に棒をつっこんでみます。数年後、少年は再びこの町へ戻るのですが、そこで片目のつぶれた男と再会する、と言うものです。この話では少年は怪我一つしないで無事なわけですが、ともあれ、無防備な状態を狙われるというのは恐ろしいものですね。