【フィンランドの作曲家】

ジャン・シベリウス Jean Sibelius
(1865-1957

Four Legends 推薦者:Seanさん

つの伝説曲 作品22
Four Legends(Lemminkäinen Suite) Op.22

ペトリ・サカリ指揮アイスランド交響楽団
ダオ・コルベイソン(コールアングレ),リチャード・チャイコフスキー(チェロ)
Petri Sakari / Iceland Symphony Orchestra
Daô Kolbeinsson(Cor-Anglais), Richard Tchaikovsky(Cello)

<併録>
交響詩「フィンランディア」Op.26、カレリア組曲Op.11

CD:Naxos/8.554265

 シベリウスは、日本でもよく知られた作曲家ですが、彼の作品については「フィンランディア」、7つの交響曲、ヴァイオリン協奏曲などの一部しか、よく知られていないというのが実情です。彼の作品は初期のものと後期のものとでだいぶ作風が異なりますが、私は明快な旋律と派手なオーケストレーションを特徴とする初期の作品のほうが好みです。

 さて、このたびご紹介いたします「4つの伝説曲」は、別名「レンミンカイネン」組曲とも呼ばれ、シベリウスの生国フィンランドの国民的叙事詩である『カレワラ』に登場する主要な登場人物の1人、レンミンカイネンの花嫁探しの旅を音楽化したもので、「レンミンカイネンとサーリの乙女」、「トゥオネラの白鳥」、「トゥオネラのレンミンカイネン」、「レンミンカイネンの帰郷」の4つの曲からなります。CDによってはこの4曲が1つの交響詩であるかのようにジャケットが記述されていることもあります。第2曲「トゥオネラの白鳥」は、他の曲と比べると突出して有名です。

 私はこの曲に魅了されて『カレワラ』も読みましたが、これによるとレンミンカイネンは、まずはサーリと呼ばれる島へ赴き、そこにいるキュリッキという乙女をさらいますが、この後彼はキュリッキを捨ててしまいます。彼は北の国ポホヨラに美しい娘がいるということを知り、彼女をものにすべくポホヨラへ向かいます。そこで彼はポホヨラの女主人ロウヒから、ポホヨラの娘と結婚する条件としていくつかの試練を与えられ、これの1つであるトゥオネラの白鳥を射ることの遂行中に彼を憎む者によって毒蛇を投げつけられ命を落とします。その後レンミンカイネンはその死を知った母により蘇生され、彼女に諭されてしぶしぶ家に帰りました。「4つの伝説曲」で描かれているのはここまでですが、その後レンミンカイネンは、ヴァイナモイネン、イルマリネンと共に再びポホヨラに赴くこととなります。

 なお、ポホヨラの娘には、同じく『カレワラ』の主人公であるヴァイナモイネンとイルマリネンも求婚していますが、彼らも同様に試練を受け、ヴァイナモイネンはこれに失敗し、最終的にイルマリネンがポホヨラの娘と結婚します。ヴァイナモイネンの挑戦と失敗はシベリウスの交響詩「ポホヨラの娘」において描かれています。その後ポホヨラの娘は、『カレワラ』のいま1人の主人公であるクッレルヴォにより殺害されますが、このクッレルヴォの生涯を描いたのがシベリウスの最初期の作品である「クレルヴォ交響曲」です。

 私は有名な「トゥオネラの白鳥」よりも「トゥオネラのレンミンカイネン」のほうが好きです。この曲は、ポホヨラの娘に求婚したレンミンカイネンが白鳥を射ぬこうとして毒蛇に噛まれ、死んでから蘇るまでを描いています。トゥオネラというのは冥府のことで、トゥオニという神に支配され、三途の川やギリシア神話のステュクスのような黒い河が流れています。曲は不気味な雰囲気から始まります。大太鼓が、マグマが噴き出すかのようにゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…と連打されるのが印象的です。この重苦しい雰囲気は音量とともに増していき、これが最高点に達したところでトランペットが悲痛に泣き叫びます。この時点でレンミンカイネンが殺害されたものと私は思います。曲が一度静まり返った後、えもいわれぬ美しい旋律が弦、次いで木管に出ます。これはレンミンカイネンの母が、死んだ息子を助けにトゥオネラまでやって来て、バラバラにされた息子の死体をかき集めて魔法で蘇らせる場面を描いた子守歌だとされています。このもの哀しく、それでいてどこか懐かしい旋律は、私の最も好きな旋律の1つです。これを聴くと私はなぜか、夕暮れ時に神社にひとり取り残されて呆然と立ち尽くしているような情景を想像します。子守歌のあとは再びはじめの不気味な場面に戻ります。

 終曲「レンミンカイネンの帰郷」は「トゥオネラの白鳥」に次いで有名なようで、この2曲だけを収録したCDもいくつか存在します。この曲は目的を遂げられなかったレンミンカイネンが失意のうちに帰郷する場面とは考えられない、凱旋ムードとスピード感を持っています。スピード感に関しては、あるCDのライナーノーツに「トゥオネラの河を下って家に帰っている」と書かれていたのですが、まさか地下にあるトゥオネラの三途の川を下って家に帰れるとは思えません。『カレワラ』にはレンミンカイネンがどうやって帰郷したかは書かれていないのですが、『カレワラ』中の陸路における移動手段は、大抵馬に牽かせたソリです。これでしたら、この曲は雪原を疾走していくようなイメージになります。前半の抑制のきいた緊迫感や、後半にクラリネットが奏でる勇壮な旋律がとてもかっこよくて好きです。
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