【ドイツの作曲家】

フリードリッヒ・ニーチェ Friedrich Nietsche
(1844-1900)
Hymnus an die Freundshaft 推薦者:ちゃおさん
序曲「友情への賛歌」/友情の聖殿における同志の祭列
Hymnus an die Freundshaft - Vorspiel/Festzug der Freunde zum Tempel der Freundshaft

ジョン・ベル・ヤング(ピアノ)
John Bell Young (piano)

※Newport Classic/NPD 85513

 ニーチェ。そう、あの19世紀を代表するドイツの哲学者である。超人思想を唱え、「神は死んだ」とのたまった御大である。もしかすると、最近の若い人はそんな人は知らないと言うかもしれない。ただ、クラシック愛好家ならばリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」の原作というべき著作を書いた人と言えば多少は親近感を持っていただけるのではないだろうか。

 その哲学者ニーチェが作曲家としての顔も持っていることは、あまり知られていない。ちなみに、ニーチェの生涯を辿るとある時期に異常にワーグナーに入れ込んでいたことがある。確か、ワーグナーの伝記映画でもニーチェがワーグナーを訪ねて語り合うシーンがあったと記憶している。そのせいか、ニーチェは幾つかの音楽に関する著作を残している。その辺りから、彼が音楽にも造詣が深かったことが伺える(しかし、後に両者は決裂してしまったが)。

 そして、思想家にしてはかなり詩的な文章を書いたニーチェのこと、作曲をしたとしても決して不思議ではあるまい。それにしても、「音楽社会学」を書いたマックス・ウェーバーといい、ベルクに弟子入りしていたアドルノといい、なぜかドイツ系の諸学者は音楽と関係が深いようだ。興味深いテーマである。

 彼の作品集はCDで何枚か出ている。哲学者の曲ということで何やら小難しい曲を想像するむきもあろうが杞憂に過ぎない。聴きやすくとても親しみ易い作品ばかりである。ピアノ曲などはリストやショパンの影響を感じさせる部分もあるが、とてもメランコリーで、ある意味ではツェムリンスキーなどの音楽世界に通じるものが感じられる。いずれも美しい曲であり、作曲家としてもニーチェが優れた才能の持ち主であることがわかる。

 ここで取り上げたいのはピアノ曲「友情への賛歌/友情の聖殿における同志の祭列」という長い題名を持つ曲である。上記のCDに収録されているピアノ独奏曲の中で一番長い15分以上の大曲である。1874年のニーチェ30歳の時の作品だが、彼の作品の中では珍しく勇壮で大仰である。その他の曲はほとんどが1分から長くても2分強であることを考えるとかなりの力作であり、その分聴き応えはある。全体にリストの影響が感じられ、「詩的で宗教的な調べ」のような、独特の静謐感に満ちた曲である。あるいは、ベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタに通じるものもあるかもしれない。半音階的なフレーズや対位法的なパッセージの処理なども見事で、なかなか独創的な曲である。他の曲ともども、とても哲学者の余芸では済まないものがある。

 ニーチェの作曲というと下手をするとゲテモノ扱いされかねないが、もっと知られても十分に値する曲たちであるように思えるので、よろしければ御一聴を頂きたい。ちなみに、上記のCDはピアノ曲及び連弾曲が収録されているがヴァイオリン曲や声楽曲なども収録されたCDも出ているので(Newport Classic NPD85535)、興味がおありであれば一緒に聴いてみてもよいのではなかろうか。
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