【オーストリアの作曲家】

ヨーゼフ・マルクス Josef Marx(1882-1964)
Violin Sonata 推薦者:Sunaken(砂川健一)さん
ヴァイオリン・ソナタ イ長調
Sonata in A Major(1913)

トビアス・リンボリ(Vn), ダニエル・ブルーメンタール(p)
Tobias Ringborg(vn), Daniel Blumenthal(p)

CD:PAVANE/ADW 7378(World Premiere)

 そこはかとなくロマンの立ち篭める名曲であります。解説によると「コルンゴルド、シュレーカー、そしてこのマルクス」を『ウィーン・ポストロマン派』と位置付けていますが、聴くと「なるほど」と納得してしまう作品です。シューベルトのピアノ・ソナタなどでも感じる「この美しい瞬間を永遠に味わっていたい…」という思いを十分に満喫させてくれます。
 とにかく長いです。シューベルトの「グレイト」の天国的な長さとほぼ同じ1時間弱の”モニュメンタル”なヴァイオリン・ソナタ。少なくとも私の記憶にある中では最長のヴァイオリン・ソナタです。

 ただし誤解があるといけないので書いておくと、決して「良く出来た」作品ではありません。なぜなら冗長さという弱点も感じられるからです。しかし私が共感したのは、そのメロディーの美しさもありますが、なんといいましょう、「そこに『音』がそっと置いてある。ひっそりと、厳かに、美しく」といった感慨だったのです。

 1楽章の演奏時間は20分以上かかり、ブルックナー的な息の長い旋律が特徴。序奏のピアノのモチーフは、木漏れ日を浴びながら木の葉を滑り降りる水滴のようでもあります。やがて緩やかなメロディーがヴァイオリンで奏でられる。ブラームスのような香気。ソナタの提示部にはいってからは、この息の長いメロディーと飛び跳ねるような第2主題が互いにあらわれては消えていく。展開部もシュ−ベルトの様に、劇的な高揚や展開はありません。そしてまた静寂へ…。

 第2楽章、スケルツォ。非常に明快なA-B-Aの形式。ブルックナーのちょっと野卑なスケルツォに良く似ています(ジプシー調?)。そして第3楽章。同じくマルクスの「ロマンティックコンチェルト(ピアノ協奏曲)」の第1楽章第2主題のような美しいメロディーがここでも溢れています。決して泣きわめきはしない悲しみの情感。それは祈りのよう。

 第4楽章、前楽章の重奏によって断ち切られる様な終わり方から引き継いで始りますが、音楽はおおらかな主題に転じます。まったくの解放感、そして温かさは格別!。この序奏のあと、音楽はフーガへと移行していきます。さらに冒頭主題がロンドの様に満ちあふれ、花開くのです。最後に第1楽章の「水滴のような」ピアノの開始モチーフを回想して、音楽は高みへと翔けのぼる!。もう言葉自体が「ロマンティック」になってしまいますね。
「延々と続く、天国的美しさ」
そんな音楽です。

 演奏についてもふれておきたいと思います。リンボリはまだ若いのか、表現の幅が今一つに感じますが、真面目にそして焦らず作品と対峙していて好感をもちました。ピアノのブルメンタールは文句なし。粒が揃っていて、まことに見事。

 尚、現在容易に入手可能と思われるディスクを紹介しておきます。

★弦楽四重奏曲全集
 「半音階的四重奏曲」「古典旋法による四重奏曲」
 「古風な旋法による四重奏曲」
 リリック四重奏団
 *ASV/CD DCA1073
 必聴のディスク。世紀末ウィーンを堪能することができる1枚。「半音階的」と題された四重奏曲は、今回紹介したソナタの冒頭モチーフがそのまま出てきます。マルクスの多様でありながらも筋の通った作風が俯瞰できます。

★ヴァイオリン・ソナタ「春のソナタ」
 プシホダ(Vn)
 *PodiumLegenda/POL-1005-2
 プシホダ録音集成の内の1枚に収録。一般的に有名なソナタはこちらのソナタらしい。これまた今回紹介したソナタの冒頭モチーフがヴァイオリンで奏でられます(調性も同じ)。プシホダの濃密なエネルギーにメロメロな1枚です。解説がドイツ語のみ・・・・。

★ロマンティック・ピアノ協奏曲
 マルク=アンドレ・アムラン(P)
 ヴァンスカ指揮BBCスコティッシュo.
 *Hyperion/CDA66990
 Hyperionの「ロマンティックピアノ協奏曲シリーズ」の第19巻。コルンゴルドの「左手の為の協奏曲」とのカップリング。時を同じくして活躍した2人の作曲家をカップリングしていて気が利いています。
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