【ベルギーの作曲家】

ヨーゼフ・リエランド Joseph Ryelandt
(1870-1965)
Joseph Ryelandt; Symphonic works  推薦者:佐藤晴雄さん
管弦楽と合唱のための交響曲第4番
Symfonie nr. 4, voor orkest en koor (1912-1913)
 1. Largo - Allegro
 2. Andante sostenuto
 3. Lent - Moderato, ma con moto
 4. Finale (Credo)

ソプラノと管弦楽のための「神秘的田園詩」
Idylle Mystique, voor sopraan en orkest (1900-1901)
 5. L'Appel
 6. La Recherche
 7. La Reconte

ファブリース・ボロン/フランダース交響楽団、ヘント=ノヴェセント合唱団
ミレイユ・カペル(ソプラノ)
Het Symfoniorkest van Vlaanderen
Koor Novecento - Gent
Fabrice Bollon, diection
Mireille Capelle, soprano

CD:Cypre/CYP 1616

 ヨーゼフ・リエランドは1870年にベルギーのフランダース地方の都市ブリュージュに生まれ、1965年にその都市で没した作曲家です。彼の活躍した時代のフランダースには、アウグスト・ドゥ・ブック、パウル・ギルソン、ロドヴィック・モルテルマンスという作曲家が活躍した時代でもありました。
 リエランドの音楽はロマン派の流れを汲むものですが、彼独自の個性にワグナー、フランク、フォーレ、そしてドビュッシーの影響を認める事が出来ます。
 交響曲4番は平易で親しみやすく、リエランドの音楽がロマン派をそのルーツにしている事が濃厚に感じられる作風となっています。ドイツロマン派とフランス印象派の影響が感じられます。一部に合唱が加わりますが、その雰囲気はフランクの交響詩「プシュケ」を思わせるような感じもします。とても美しい作品です。
 ソプラノ独唱が入る、「神秘的田園詩」は歌詞が付いてないのですが、タイトルがフランス語という事もあってか、とてもフランス的な味わいのある魅力的な作品です。

 ベルギーのシプレ・レーベルは以前は手に入り難かったのですが、最近、東京エムプラスが正式にディストリビューターになったので、今後は入手しやすくなると思います。是非、ご一聴の程を。
テオ・イザイ Théo Ysaÿe
(1865-1918)
テオ・イザイ室内楽作品集 推薦者:佐藤晴雄さん
ピアノ五重奏曲ロ短調 作品5
Piano Quintet B minor, op.5 (1913)
 1. Lent
 2. Assez lent
 3. Assez lent

夜想曲イ短調
 4. Nocturne in A minor

2台のピアノのための変奏曲
 5. Variations for two pianos

セザール・フランク・アンサンブル
ジャン=クロード・ヴァンデン・アイデン(ピアノ)
ダニエル・ブルメンタール(ピアノ)
Ensemble Cesar Franck = Volonique Bogaerts(violin), Tomiko Shida(violin),
Therese-Marie Gilissen(viola), Edmond Baert(violoncello)
Jean-Claud Vanden Eynden(Piano)
Daniel Blumenthal, piano

CD:Koch Schwann/310 083

 19世紀から20世紀に活躍した大ヴァイオリニストで作曲家のウジェーヌ・イザイに、テオという弟がいた事は余り知られていません。彼はピアニストとして兄ウジェーヌに同行し、ヨーロッパ各地に演奏旅行をした経験があります。しかしハードな演奏旅行を続けるには、彼の身体は兄ウジェーヌほど頑健でなく、その後はニースで教鞭を取る生活を送ったといわれます。音楽家として華々しい注目を浴びた兄の影に隠れた存在でしたが、彼の気質がむしろそういった傾向にあったのかも知れません。
 テオは、ベルギーはフランス語圏の都市リェージュに近いヴェルヴィエールに生まれ、そしてリェージュ音楽院で学びました。しかし彼の上達の具合は決して良く無かったそうですが、兄ウジェーヌは弟テオの可能性を信じ、弟をベルリンに送り学ばせたと言われます。その後パリに出てギョーム・ルクーと共に、フランクの最後の生徒となりました。

 ピアノ五重奏曲はフランクのピアノ五重奏曲のピアノ・パートを初演したテオにとって、馴染んだジャンルでもあります。師であるフランクの作品からの影響を濃厚に感じさせますが、師の作品と比べて何の遜色も無い見事な作品といえます。各々の楽器が重要な鍵を握りますが、支配する事無くピアノは手堅いサポートを果たし、夢想を拡がらせ、親しみやすく、よくわきまえた役割に終始します。
 第一楽章はリリカルなテーマが支配し、そしてそれがやがてラージ・スケールの展開部へと発展します。第二楽章はハ長調の瞑想的なピアノで始まり、それは弦楽器で奏でられる暗く、痛切な主題のプレリュードのように扱われます。第三楽章はゆっくりとしたテンポの提示部から明解なテンポの熱っぽく速いテンポに移り、クライマックスに達します。初演は1913年。作曲者自らがピアノ・パートを演奏しました。
 演奏時間で45分を超える大曲ですが、移りゆくムードとテンポに知らぬ間に、この音楽の創り出す世界に惹き込まれます。私は個人的にはフランクの作品よりも、このテオの作品に強く惹かれます。堪らない程美しい音楽です。

 演奏するセザール・フランク・アンサンブルは主にピアノ五重奏曲を演奏するために結成されたアンサンブルで、ベルギーを活動の拠点に置いている音楽家達で構成されています。第二ヴァイオリンを担当する志田とみ子さんはグリュミオーに師事して以来、ベルギーで活動する音楽家です。彼女はブリュッセルの歌劇場、モネ劇場の専属オーケストラに所属していました。現在はブリュッセル弦楽四重奏団のリーダーとして第二ヴァイオリンを弾いています。1999年11月には同カルテットを率いて来日し、東京と横浜でコンサートを開催しました。残念ながら私は聴くチャンスを逸しましたが…。

 ピアノ曲のノクターンは、フォーレの作品を思わせるような曲想です。非常に美しいアルペジオが印象的です。

 2台のピアノのための作品、ヴァリエーションはテオのフランク譲りの実験的なトーン・カラーが感じられます。シンプルな主題が6つの変奏に形を代え、微妙な変容が表れます。
ジャン・ロジステル Jean Rogister
(1879-1964)
Quatuors Nº 2 & 6 推薦者:佐藤晴雄さん
弦楽四重奏曲6番ハ短調
Quatuor nº 6 en ut mineur (1928)

弦楽四重奏曲2番ヘ短調
Quatuor nº 2 en fa mineur(1914)

ゴング四重奏団
QUATUOR GONG
Hanxiang Gong(1st vn), Yinlai Chen(2nd vn), Jean-Christoph Michallek(va), Martin Hesselbein(vc)

CD:Cypres/CYP 1620

 ロジステルは1879年にベルギーのフランス語圏の都市リェージュに生まれました。早くから音楽に才能を示したロジステルは、優れたヴィオラ奏者として知られるようになり、21歳でリェージュ音楽院でヴィオラの教授に就いたと言われてます。しかしこの事実を彼は自身のゴールと受け止めず、同時に和声法、対位法、作曲を学ぶ事になりました。演奏家としては弦楽四重奏団を組織したり、そしてヴィオラ奏者としてアメリカに渡り、ストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団との共演の記録もあるそうです。

 そして、作曲家としてのロジステルは8曲の弦楽四重奏曲のみならず、交響曲3作、交響詩3作、管弦楽組曲6作、協奏曲4作の他に、オペラや器楽曲、歌曲も残してるそうですが、未だ完全な形で紹介されてない模様です。なお同レーベルでは管弦楽作品を収録したCDが1枚リリースされてます。このCDで聴いて明らかなように、ロジステルの作風はフランクやダンディの流れを汲むもので、フランス的な香りとロマンティックなムードの漂う美しい音楽です。

 6番は1928年、作曲者がヴィオラ、そして夫人がチェロに加わり初演しました。古典的形式の4楽章からなり、第1楽章アレグロは2つの対照的なテーマが再現され、続く第2楽章アレグレットはスケルツォ。どこかユーモラスで皮肉な雰囲気を醸し出します。第3楽章レントは瞑想的。弱音器を装着したヴァイオリンがヴィオラとチェロのロングトーンに彩りを添えます。最終楽章は快活な出だしで始まります。そして中間部の平穏な世界の後、再び音楽はリズムと活力を取り戻して幕を閉じます。

 2番は1914年に完成。しかし初演は1922年。この時も作曲者がヴィオラを担当しました。第1楽章レント(ミステリオーソ)神秘性と悲劇性の漂う世界から一転して明るく軽やかなアレグロへ。第2楽章ラーゲットは悲歌。しかし深い絶望に落ちるのではなく、何処かに希望を感じさせる世界です。第3楽章スケルツォ。弱音器を装着し、4つの弦楽器が軽やかにリズミカルに歌い上げます。最終楽章アレグロは親しみやすさとノスタルジーが交錯し、ドヴォルザークを思わせる世界です。

 演奏してるゴング・カルテットはリェージュ・フィルハーモニーのメンバーからなります。この演奏は作品の魅力を十分に引き出した佳演といえるでしょう。メンバーに2人の中国系音楽家がいますが、彼らの紡ぎ出すラテン的な響きはロジステルの音楽に相応しいと思います。そういえば、リェージュ・フィルハーモニーは10年程前に、指揮者ピエール・バルトロメーが率いて来日した事があります。その時はマーラーの5番を演奏しましたが、この時、ゴング・カルテットの第一ヴァイオリン、ゴング氏がオケの第一ヴァイオリンの確か2列目に座っていたのを覚えています。
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