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クロケットの極秘予言


 クロケットの極秘予言とは、アーサー・クロケット著、南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』(大陸書房,1991)に引用されたテクストを指す。四行詩群に便宜上つけた「極秘予言」は、邦訳のタイトルから転用したもので特に正式な名称が決まっているわけではない。1568年に印刷された十巻までの百詩篇を含んだ予言集完全版の後にも、1594年弟子と称されるジャン・エメ・ドゥ・シャヴィニーが導入した十一巻と十二巻の断片的な十三篇の四行詩が補遺として組み込まれた。これに基づきノストラダムスが全部で1200篇の予言詩を書いたと信じて、失われた詩篇を探究するといったテーマを説く五島勉のような研究家を生み出した。(『ノストラダムスの大予言X』祥伝社,1986,56頁)海外でも似たようなことを考える研究家がいるのである。

 極秘予言を取り上げている本の原題は Nostradamus' Untold Story: His Unpublished Prophecies, 1983, Inner Light Publications 『ノストラダムスの語られざる物語、印刷されなかった彼の予言群』という。同書は1991年の湾岸戦争時には、改訂版『ノストラダムスの出版されなかった予言群 湾岸戦争アップデイトを含む』Nostradamus' Unpublished Prophecies, Including Persian Gulf Updateとして出版された。2001年の米同時多発テロ発生直後には、さらなる改訂版『ノストラダムスの出版されなかった予言群 テロリズムがアメリカを攻撃す』Nostradamus' Unpublished Prophecies, Terrorists attack Americaとして出版されている。原書では邦訳と本の構成が異なっており、問題の「出版されなかった四行詩」の章は一番最後に置かれている。

 クロケットによると、極秘予言はノストラダムスの死んだ家の地下室から発見された文書で扉ページには『第12巻63番』とあり51頁から成っている。「これまでに発表されている最後の四行詩は『第十二巻六十二番』」という説明もされているが、実際にはシャヴィニーが引用した断片には百詩篇12巻62番の後には65番、69番、71番の三篇が知られており、基本的な事実に反している。クロケットは実際にその文書を手にしたかのように、はじめて発見された文書は51頁から成っており、そのうち無事だったのが21頁であるなどと述べている。しかし、仮に予言集初版のように百詩篇が1頁に5篇記載されたとすると、51頁の文書では255篇の四行詩があることになり、クロケットのいう12巻の63〜100 篇とまったく詩篇の数が合わない。こういった矛盾の多い粗雑な状況設定からも引用されたテクストは著しく信憑性に欠けている。

 日本で初めてこの本が紹介されたのは『ワンダーライフ』第11号,1990,小学館 で、寺島研次がクロケット本の1989年版を編訳し「ノストラダムスの暗黒大予言」にまとめた。五島勉が湾岸危機に便乗して書いた『ノストラダムスの大予言・中東編』(祥伝社,1990)でそれが紹介されると、今度はクロケット本の邦訳『ノストラダムスの極秘大予言』が出版された。その後、文庫本で『ノストラダムスの極秘大予言』(大陸文庫,1992)と『新発掘ノストラダムス最後の封印予言』(廣済堂文庫,1998)が再版された。原書を見てもフランス語の原文がなくクロケットの英訳が記されているだけで、四行詩の章番号も不明である。つまりクロケットの思惑で幾らでも詩篇をでっち上げることができるのである。それゆえ、このテクストをノストラダムスの真の作品とする根拠は乏しく、適当なノストラダムス語彙を繋ぎ合わせた習作と見なすのが妥当であろう。

 ここで使用したテクストは以下の2冊を参照している。
 1 Arthur Crockett (1991): Nostradamus' Unpublished Prophecies New Special Edition, Inner Light Publications
 2 Dolores Cannon (1992): Conversation with Nostradamus volume three, Ozark Mountain Publishers, pp.266-276
 便宜上四行詩に付けたナンバーは、クロケット本に掲載されている順序に従って付け加えた。上記1の本には何故かNo.4,11,24が載っていない。上記2の本では14篇引用されている。(No.1,3,4,5,6,7,8,10,13,15,18,19,20,24)そのうちNo.24は『ノストラダムスの極秘大予言』では引用されていないが、2の本に同じグループとして再録されているため取り上げておいた。当時の世界情勢(ベルリンの壁崩壊?)に合わせて作られたが明白なので後の版で削除されたのだろうか。

 「極秘予言」には本物の予言集テクストを適当に編集したものも見られ、No.21は百詩篇10-49に、No.22は百詩篇9-83にNo.23は百詩篇 10-74に内容が酷似している。ウィリアム・リリーの著作にある古典占星術による予言である、木星と土星の風の三角形での会合を念頭において作成された四行詩もある。No.6は、風のエレメントの移行の表象に一致している。「非常に優れた学識、判断および科学においての学識あるものが輩出される」。とくにその最初の合が水瓶座の場合(2020/21年がこれにあたる)は、優秀な学者、数学者、占星学者が生まれる。そして、こうした人が世界に大きな益をもたらす、という。(鏡リュウジ『占星綺想』81頁) 是非No.6の詩文と比較してほしい。リリーの占星術理論と内容がまったく同じであることに気付かれよう。贋作と思われる極秘予言はまともな研究家からは相手にされていないのが実情である。

  Centurie XII
Uncataloged quatrain
百詩篇第十二巻
極秘予言
1 In the millennium, two, the King’s Son, before the turn,
Is seen by all amid thunderclaps.
Angry, the rubble of war and pestilence, the sins,
The fish returns to power after a long sleep.
二つめの千年期(ミレニアム)、王の息子が世紀の変わり目に、
雷鳴のなか、万人の前に姿を現わす。
怒り、戦争と疫病の瓦礫、罪。
魚は長き眠りののち、力を取り戻す。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』13頁)
2 The red hats rejoice; Rome lays its palms,
Smoke rises from ashes as multitudes cry out
In anguish against the agony of conflict.
But the Man comes to end it for an eon of peace.
赤い帽子たちは喜び、ローマはシュロの葉を敷く。
煙が灰から立ちのぼるとき、無数の叫びが響く、
争いの断末魔への苦悶から。
だが、その人はそれを永遠の平和のために終わらせる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』14頁)
3 A new leader from the heavens brings the people 
Together as one, all factions die and are reborn.
Exalted clergy bends to a higher rule. Angels are
Seen in joy. The Red Man dissolves in a bottomless pit.
天空から来た新指導者が人々をひとつにし、
すべての党派は滅び、新たに生まれ変わる。
高位聖職者は喜んでより高き支配に従う。
天使の喜びの姿が見え、赤い男は底無しの穴で消滅する。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』15頁)
4 Comets without tails fill the sky, more silently.
Panic abounds. An offering rejected, a tailed comet
glides among the bees, dies, and heads of state
nonplussed. Signatures in the sand are ignored by all.
尾のない彗星群が天空に満ち、音もなく飛ぶ。
頻発するパニック。申し出がはねつけられ、尾のある彗星が、
ミツバチたちを従えて飛び、死に、国家元首たちは、
途方にくれる。砂のサインは誰からも顧みられない。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』17頁)
5 A salver flies, comes to rest in the New City.
Hate flourishes for the entity within. Battle lines
Drawn. Fears of disease mask truth while three
Leaders in secret, unite against a false threat.
盆(サルヴァー)が飛び、新しい都(ニューシテイ)へ休息にやってくる。
内部の存在に憎しみが燃えさかり、戦線が形造られる。
疫病の恐怖が真実を覆い隠すとき、
三人の指導者が偽の脅威にひそかに団結する。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』18頁)
6 Twenty plus two times six will see the lore of the heavens
Visit the planet in great elation. Disease, pestilence,
Famine die. Rome rejoices for souls saved. The learned
Smile in awe. Astrology confirmed. For science, a new beginning.
二十足す二掛ける六のとき、天空の知識が
意気揚々と惑星を訪れ、病気、疫病、飢餓が消滅する。
ローマは救われる魂に歓喜し、学者は畏怖して微笑む。
占星術は認められ、科学の新時代が始まる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』20頁)
7 A revolution without bloodshed, without strife.
Men in unhappy confusion strive for perfections
Beyond their ken. Failure. Then elation. The
Earth’s forces give way to a new power above the clouds.
流血と争いのない革命。
不運な混乱にある男たちが完成を目指す、
その知識の限界を超えて。失敗、ついで高揚。
地球の諸力は雲の上の新たな力に屈服する。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』21頁)
8 The bees sting amid thunderclaps and lightning bolts,
Confusion. Fear. Awe. The fish trembles,
Governments are strangely silent while the heavens
Flash ominous messages to the populace. East and West darken.
ミツバチたちが刺す、雷鳴と稲妻のなかを。
混乱、恐怖、畏怖。天が民衆に不吉な知らせを送るとき、
魚は震え、もろもろの政府は奇妙に押し黙る。
東と西は暗くなる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』22頁)
9 A new breed desends gratitude. Conflagration in the
heavens turns the Parisian lady to beam anew. A king
Orders a path through the forests and a servant busy
In argument with leaders fails. The West is receptive.
新しい種族が感謝のなかで降臨する。
天の大火はパリの貴婦人を新たに輝かせる。
王が森の小道を整え、召使は指導者たちとの議論に
忙殺されて失敗する。西は快く受け入れる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』24頁)
10 Again the ancient woman who toppled from on high
Appears to the multitude. The cult is reborn.
Dire warnings. A nation rebuffed. Three young
Ones appear to seal the omens seen in a mist.
高みから転落したいにしえの女が、
ふたたび群衆の前に現われ、崇拝がよみがえる。
恐ろしい警告。拒絶された国。三人の幼児が
霧のなかに現われた。前兆を封印するため出現する。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』26頁)
11 (この11番目の詩の英訳は、何故かクロケット本のアップデイト版には見られない。) 彗星が去り、魚はその片腹を見せて浮かぶ。
異教徒は喜び、罪は勝利し、サタンの業は成就する。
王の母は蒼白き頬に涙を流して眉をしかめ、
疫病は思うがままに全土を支配する。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』27頁)
12 Night becomes day, a great fright everywhere,
A warning fulfilled and a woman seeks vengeance.
Great rumblings in Sicily, Dijon, Rome. Dread.
Blood flows in the cites while a false god cringes.
夜が昼となり、随所に大いなる恐怖。
警告は的中し、女は復讐を求める。
シシリーとディジョンとローマの大鳴動。激しい不安。
邪神がへつらうとき、方々の都市で血が流される。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』30頁)
13 Threats of war abound; nations quake. The ancient
Woman, ubiquitous, pleads for peace. A populace awed;
The year 90 plus 3 sees upheavals while mighty warriors
Shake fists. Anoh searches the horizon in vain.
戦争の兆しが頻発し、各国は震撼する。
いにしえの女は至るところで平和を嘆願し、群衆は畏怖する。
九十足す三の年に動乱が起こり、強力な戦士たちが拳を振りまわす。
アノー(Anoh)は無為に水平線を探す。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』31頁)
14 Five punctures appear. The malady spreads.
Churches overflow with the devout, and blood trails
Are seen. Rome scoffs; the puzzle deepens.
Images weep and the King demands answers before his death.
五つの刺し傷が現われ、疫病は広がる。
教会は熱烈な信者であふれ、血の跡が見られる。
ローマはあざわらい、謎は深まる。
肖像はすすり泣き、王はその死の前に答えを求める。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』32頁)
15 Three women in black of a charitable order;
Shocked at first, receive a blessing from one like themselves.
A mystery told, three times, but no one can see the future
Save the three. And a pox to all who reveal the secrets.
慈愛の教団の三人の黒衣の女がまず衝撃を受け、
彼女たちに似た存在から祝福を受ける。
秘密は三たび語られるが、三人を除いては誰も未来を見られない。
秘密を明かす者はすべて痘瘡を患う。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』34頁)
16 Mars and the Sceptre will be conjoined,
Under Cancer shall be a calamitous war;
Later, a new ruler, Laus Masbu, will be anointed,
Who will reign in blood for 27 years.
軍神(マルス)と王笏が巨蟹宮のもとで結合し、
いたましい戦争が起こる。
のちに新支配者ラウス・マスブ(Laus Masbu)が戴冠し、
二十七年間流血の中で支配する。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』36頁)
17 Two decades plus 7 the great empire rules.
Famine, pestilence, blood, tears, war.
The Antichrist is joyous and the multitudes
Cry out for Xerxes. Oppression for all in a troubled world.
二十足す七年のあいだ、大いなる帝国が統治する。
飢餓、疫病、流血、涙、戦争。
反キリストは歓喜し、群衆はクセルクセスを求めて叫ぶ。
混乱する世界で、万人が圧制を受ける。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』37頁)
18 The abomination from the East makes his purpose.
The papacy falters. A strange conflict between
The devout and the pagans. A flock seemingly
Forsaken, yet divine plans for intercession arise.
東から来る忌わしき者が決意する。
法王制はつまずく。信仰篤き者と不信心者との奇妙な葛藤。
群れは見捨てられたかに見えるが、
とりなしの聖なる謀り事が現われる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』38頁)
19 ・・・・
Darkens descends. Eclipses great. North and South change.
War and nature unite against the peace. Heavenly holocausts
Rain blood on the rocks and our face is mutilated.
・・・・
闇が降りる。大いなる蝕。北と南が替わる。
戦争と自然は手を結んで、平和に敵する。
天の大虐殺(ホロコースト)が血を岩に雨と降らし、われらの顔が切り裂かれる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』39頁)
20 A new ruler anointed, rises from the 50th latitude;
Renews the once-great fish. Peace for a millennium.
Rome rebuilds and the divine hand at the ruler’s side
Departs. Earth in renewal, but the scars heal slowly.
戴冠した新しき支配者が緯度50度から現われ、
かつて偉大だった魚が蘇る。千年つづく平和。
ローマは再建され、支配者のかたわらの聖なる御手は去る。
大地は新生するが、傷のなおりは遅い。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』40頁)
21 Garden of the World, near Pacific shores,
In the pathway of Mountain Fault;
Shall plunge into a mighty tub. The populace sickened;
Forced to drink of poisonous sulphur-waters.
平和な(Pacific)岸辺近く、
フォールト(Fault)山の小径にある世界の庭が、
巨大な水桶に投げこまれる。大衆は気分を悪くする、
硫黄の毒水をむりやり飲ませられるせいで。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』41頁)
22 When the calm ends, the earth will so quake,
The Great Theater, filled, will lie in ruins;
Air, sky, earth dark and troubled,
And atheists will plead with God and the saints.
平安の終わるとき、大地震が激しく震え、 人の満ちた大いなる劇場は、廃墟と化す。 空気、空、大地は黒ずみ、混乱し、 無神論者は神と聖者たちに嘆願する。 (南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』42頁)
23 At the revolution of the great number seven,
It will happen, in the time of the games of the hecatomb,
Not far from the great age thousand
That the dead will rise from the tombs.
大いなる数七の革命において、それは起こる、
ヘカトゥームの競技のとき。
大いなる千の年から遠からずして、
死者が墓から起き上がる。
(南山宏訳『ノストラダムスの極秘大予言』43頁)
24 In the year eighty plus nine the vast East collapses.
Hunger. The germs do not thrive. The West in
sympathy brings about its own downfall. Bones
everywhere. The famine rages, but there is no echo in marbled halls.
(この四行詩は、クロケット本の邦訳にもアップデイト版にも見られないが、ドロレス・キャノンが引用したものを採録した。)
八十足す九の年に広大な東が崩壊する。
飢え。細菌は繁殖せず。西は同情して
自らの破綻を引き起こす。至る所に遺骨。
飢饉が猛威を振るうが、大理石の大広間ではなにも反響がない。
(M.Asakura訳)

このページの最終更新日は 2005/02/19 です。

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