Promenade   

お月さん

 

満ち足りた顔をして私を見下ろす

彼の空にも同じ顔を見せているのなら、

どうか、教えて

言葉にかえれば、シャボン玉のように

はじけて消えてなくなりそうで恐いのです。

どうしたら、彼はこの髪に触れてくれますか。

その手に触れようとしたら、握り返してくれるでしょうか。

 

満ち足りた顔をして私を見下ろして

この瞳の溢れ出る泉を彼に届けて

 

 

 

「しあわせですか?」

 

偽りの幸せの仮面をかぶった人が

歩道橋の上でアンケート用紙とボールペンを持って

道行く人に尋ねて回ります。

 

「しあわせですか?」と、

華やいだ街をウキウキして歩くことは、

ごく偶にしかないけれど、

好きな仕事をしているから

「しあわせです」と答えます。

 

愛する人達の笑顔があれば、

何もかも幸せです。

真冬に咲く椿のように

 

 

 

   誰にだって

 

誰にだって、

お日様は光を照らしてくれるよね?

 

誰にだって、

雨は涙を洗い流してくれるよね?

 

誰にだって、

お月様は影法師を作ってくれるよね?

 

誰にだって、

雪は過去を許してくれるよね?

 

誰にだって、

海は広くて深いよね?

 

誰にだって、

この空のように澄みきった心になりたいと思わせるよね?

 

誰にだって、

人を愛する資格はあるよね?

誰にでもね

 

 

 

   春恋し

 

ふきのとうが芽吹いたときのことを思い出して

春の風になりたいけれど、

あなたの住む町は北の果て

まだまだ雪だるまが笑っています。

 

それなら

つくしんぼうを見つけたときのことを思い出して

春の風になりたいけれど、

あなたの住む町は北の果て

まだまだ雪だるまが笑っています。

 

ベランダのチューリップの芽が7センチになりました。

 

 

   水仙

 

私はあなたが思うほど

いい女ではありません。

朝霧の似合う水仙のように

小さな女です。

 

私はあなたが思うほど

子供ではありません。

 

朝霧の似合う水仙のように

咲く場所を知っています。

 

私は水仙

真っ赤な椿にはなません。

 

 

   紺色の鞄

 

高校二年の2月

世の中にナイフを突き立てたような

ロックシンガーの歌が頭の中を駆けめぐっていた夕方

私は二階の勉強部屋の窓から

合成皮革のその鞄を投げ捨てた。

白い雪の中に落ちたと思った。

誰もが寝静まった深夜

光る雪に足跡を残す。

この紺色の鞄の中に何を詰め込んでいたのかな。

とっても重いと思った。

その夜は風邪をひくことにしようと思った。

 

それから一年過ぎて

空っぽの鞄を勉強机の下に片づけた。

傷のひとつが哀しかった。

紺色の鞄から何を抜き取ったのかな。

ノートも教科書も もうない。

紺色の鞄を持たない私がいる。

 

 

 

   あけぼの

 

ほのぼのとあけるからあけぼのなのね。

ないたからすがもうわらってる。

歩いている人、みつけた。

ひとりめ

ふたりめ

うさぎの目がわんわんの目になるよ。

 

 

 

 

   義理チョコ

 

世界中の街がかけっこしているというのに、

私のあなたへの恋はヨチヨチ歩き

「あのう・・・」

「あのう・・・」

「あのう・・・」

そう三度言って

急いで、言葉を考えて

唇から出てきたのは

全く違う仕事の話題。

 

 

 

 

  この道

 

私はこの道を歩いていきます。

もし、あなたが道に迷ったら、この道まで戻ってきて

二人で歩きましょう。

あなたが先を歩くのではなく、

私が後ろを歩くのでもなく、

二人で一緒に歩きましょう。

靄で前が見えにくい時は

手を繋いで歩きましょう。

この道は広い道

懐かしい道

本当の道

いつまでも続く道

菜の花が道端に咲く道

ずっと向こうで

口笛の聞こえる道

 

私はこの道を歩いていきます。