Papillon
ころもがえ
部屋中の窓を全部開けて、
洋服ダンスを開いて
クリーニング屋さんから帰ってきた
スーツやコートを
しまい込んで
引き出しを開けて
毛玉を整えたセーター
をしまい込む
窓の外に顔をつきだして
すうっと息を吸い込む
プランターのムスカリに
ふうっと息を吹きかける
私の心引き出しに
カサカサして傷ついた想い出をしまい込む
髪をポニーテールに結んで
こころもかえ
シールドの中の雨
五月の最後の日
真夏を思わせるほどとても暑い日だった。
七時過ぎ電話のベルが鳴った。
耳を疑った。
受話器の向こうの言葉が飲み込めなかった。
隣の市の祭儀場へバイクを飛ばした。
ヘルメットのシールドの中で
小雨が降り始めてテールランプがにじむ
信号待ちのたびにシールドを上にあげて
雨を止めた
青にかわって走り出すと
また雨が降り出す
嗚咽とともに
国道をまっすぐまっすぐ走れば良かった。
シールドをさげて
雨を降らす
どうして?
回復に向かっていると?
後悔と想い出が交差する
シールドの中で、シールドの下で
雨が降り続ける
橙色の大きな月が
私のバイクを照らして離さない夜
紫陽花が雨を恋しがるように
6ヶ月前
私はたった一人で飛行機に乗って
遠い島にいるあなたに会いに行きました。
私の時計はあの時の旅行鞄の中で眠っています。
あなたの時計は二人で歩いた森の中
私の街では
紫陽花が色づき始めました。
梅雨の始まりが伝えられた頃には
雨が降り続いたのに
この1週間、雨が降らない日々が続いています。
紫陽花が雨を恋しがるように
広い空を見上げるのです。
こいのぼり
男の子か女の子か見分けがつかなかった頃
まぁちゃんちのこいのぼりがうらやましかった。
おおきくて
元気がよくて
楽しそうで
おとうさん、おかあさん、こどもたちと
5ひきもいて
五色の吹き流しがいつまでもゆれていて
水色の空がすずしそうで
あのこいのぼりのおびれにつかまってみたかった。
こいのぼりのなかに入ってみたかった。
こいのぼりになって泳ぐよ。
夢という名の広い空を
スイートピー
ほのかにピンク色に染まった
スイートピーの蕾
6月の雨にお辞儀しています。
生まれたてのやっちゃんのほっぺとおんなじ。
掌に氷をのせて
製氷器の中から四角い氷をひとつ
それを掌にのせて
冷たく痛い。
解けてゆく
掌を流れ落ちる滴のように
あしたが終わり
あさってが終わる。
おしっこがひとりでできたね。
お湯を怖がらずにひとりで頭を洗えたね。
そう、感動していたい。
手首から静脈をつたって白い腕を
解けた水が落ちていく
私の体温が氷を解かしていく
Let it be を唱えながら
確かに
まだ、生きたいと思う。
透けて見える氷の向こうを見る
目に見える不幸は不幸でないと思う。
私は掌を返して
氷のかけらを床に落とす。
つばめ
空はピーかん照り
学校帰り
淀川に架かる橋をバイクで渡る
前の車よりも空の青さを見てしまう
川のそばの公園にバイク停めて
草の上を歩いたよ
茶色の犬と男の子が昼寝してた。
背中に桜宮リバーシティ
その右にベルパークシティ
わかりやすいね。
まっすぐに空を飛ぶために
こんな日はカミングアウト。
あなたの空に飛びたい