馨さま
拝啓 近頃の朝の天気予報のおじさんは、開口一番日本の何処かの初霜だの初雪のことを言います。本当に朝
晩がめっきり寒くなりました。お身体の調子はいかがですか。風邪はもう治りましたか。足の具合はいかがでしょう
か。心配しています。でも、馨さんの事だから、微熱のある身体に鞭打って仕事をしているのでしょう。そう思うと、
風邪をひいてしまうと会社をすぐに休んでしまう私は、つくづく自己嫌悪に陥ってしまいます。私は、風邪をかれこれ
4週間ぐらい前からひいていました。ちゃんと、病院に行って注射を腕にしてもらって薬を沢山もらって、言われたと
おり食後にはその薬をばくばくと飲むのに、この風邪はどうもしつこくて、喉はいがいがするし鼻水はずるずるする
し、なかなか治りませんでした。でも、お陰様でもう大丈夫です。
この前電話で馨さんが風邪を早く治すようにと言ってくれてから、これは真面目にちゃんと早く治さなければいけ
ないと思って、お風呂上がりには洗い髪で頭や身体を冷やさないように髪はすぐに乾かすようにしできるだけ早く
寝るようにしました。心配してくれて、ありがとう。
最近、寒い朝の内に家を出て、とっぷり日の暮れた頃に帰宅するため、お日様にあたることがありませんでした
が、久しぶりに今日は自転車でのんびり出かけました。あんまりにもぽかぽか陽気で気持ちがよくて、風邪が治っ
てしまいました。いつも通りに起きて出かける用意をして、近所の銀行の用事を手早く済ませて、寒くないように薄
手のコートを引っかけて、携帯ラジオとガムをポケットに詰め込んで、10時半頃からゆっくりと出かけました。朝晩
は寒いけど、昼間はこんなにもまだ暖かだったのですね。段々と汗ばんできて、仕舞いにはコートが邪魔になっ
て、少し気取ってはいたスエードのショートブーツも後悔してしまいました。
お昼は、ローソンでパンとお茶を買って、花の咲いていない藤棚の下に自転車を止めて、大阪城公園のお濠をな
がめながら、遠足気分で食べました。谷4の事務所に出勤していた頃、毎朝近道に小さな公園を横切りますが、
公園を横切るのはいろんな人がいてなかなか面白いものです。管理職風の背広姿のおじさんが、鉄棒に上着を掛
けて体操を始めたり、物思いにふけっているおばさんがタバコをふかしていたり、ベンチに寝ている人、ジョギング
をする外国人、世の中には色々な人がいて、その人その人色々な人生があるのかなぁなどと、思ったりします。大
阪城公園でも、何もせず芝生に寝そべっているアベックをよく見かけます。そして、きっと公園にいる間その人達の
時計の針は、いつもより少しゆっくり動いているのかも知れません。馨さんは、忙しくて公園などは、足を踏み入れ
る事すらないのでしようね。いつか、お握りを持って鶴見緑地にでも自転車に二人乗りをして行きたい。
月末できっと超忙しいと思いますから、今日は電話をするのを止めます。馨さんの仕事がうまくいって、風邪も足
も治ることをお祈りしています。
敬 具
10.28
凛子
馨さま
拝啓 先日自転車で出かけていると、急なにわか雨に出会いました。朝はきれいな秋晴れでしたし、天気予報の
天気図も一目瞭然の晴マークでしたから、まさかの不意の雨に腹立たしく思っていましたら、風邪に吹かれて黄色
に色づいた街路樹の楓の葉が一枚、自転車の前篭に舞い降りました。もう、紅葉の頃、晩秋になっていたのです
ね。
お風邪の調子はいかがですか。熱は下がったのかしら?頭痛がしているのではないかしら?御飯は食べている
かしら?薬は飲んだのかしら?心配しています。一日も早く治して下さいね。
ところで11月3日は、ご存知の通り文化の日です。そこで、2日から大阪市立美術館で開かれている二科展に行
ってきました。一度この展覧会に行ってみたいと以前から思っていたのですが、やっと念願がかなって機会を得る
事ができました。この日もお天気が良かったので、スーパーに買い物に行ったりシーツをお洗濯したり家の用事を
済ませた後、おやつの手作りホットサンドイッチを持って、天王寺まで自転車でのんびりと出かけました。地図の上
では分かりませんでしたが、森ノ宮を過ぎて鶴橋の手前あたりから登り坂でした。その辺りまで来ると段々とくたび
れてきて、又帰りも自転車で帰るのかと思うとぞっとしました。天王寺まで大きな道の一本道なのですが、天王寺駅
の方へ行く道が少し分からなくて、迷子になったらどうしようと、人混みの中をコワゴワという気分で自転車をこぎな
がら、なんとか美術館までたどり着きました。
天王寺美術館は、天王寺公園の中にあります。まず、公園の入り口で150円を払って、美術館に入るとその
150円を払い戻してもらってから美術館の入場料を払います。絵画と写真と子供二科展とあったのですが、美術
館に着いた時もう4時になってしまっていたので、絵画だけを観ました。あの朝比奈マリアさんと雪村いずみさん母
子や工藤静香さんの絵もありましたが、その三人の絵だけを大々的に飾ってあった訳ではなかったので、改めて
名前を探すまで気が付きませんでした。ほとんどが、畳一枚から二枚程もある大きなものばかりでした。そして、人
物画、風景画もありましたが抽象画が半分を閉めていたのではないでしょうか。私は、想像力がないのか美的セン
スがないのか、抽象画は良く分かりません。抽象画は社会を風刺しているようなものもあり、安らぎを覚えると言う
よりは、正直なところ観ていてすっかり疲れてしまいました。名前は忘れましたが、何年か前世界文化大賞とやら
をおもらいになったスペインの巨匠のいつか新聞でみた黒の太い線の抽象画は、単純な中に美しさがありその裏
に全てが隠されているようで分かりやすかったような気がしました。キャンバスに巧みな技法でいろんな色が使わ
れて、画家の心の奥の多くの想いがぶつけられていて、しかも見上げるほど大きな絵は腕組をして眉間に皺を作
って観なければなりません。それよりも、ホットサンドを頬張りながら、公園で無邪気に走り回っている緑のシャツに
サスペンダー付きの黄色のズボンをはいた小さな男の子と、穏やかな夕焼けと、それに通天閣を変わりばんこに
眺める方が、ずっと気分が休まりました。帰り道は当たり前の事ですが、行きの登り坂をすいすい下って思ってい
たよりも、早く、楽に帰る事ができました。
後で気が付いたのですが、この日は四天王寺ワッソの日でした。どおりで天王寺で人が多いはずでした。谷町筋
を間違っても通らずに良かったと思いました。多分私の出かけた頃はパレードの終わった頃だったでしょうが、きっ
と人の多さに自転車で立ち往生るところでした。
紅葉した葉が木からみんな舞い落ちてしまい、これから、もっともっと寒くなります。きっともうすぐです。うちのコン
ピューターを置いているところは、倉庫の中でクーラーはありますが、暖房がありません。毎日着膨れをして仕事を
しています。馨さんも風邪を早く治して下さいね。心から一日も早い全快をお祈りしています。
敬 具
凛子
11. 4
馨さま
拝啓 木枯らしが吹いて時雨れてきて、とうとう冬がやってきました。今日の天気予報はおじさんもお姉さんも、開
口一番にこの冬一番の冷え込みだと言っています。お身体の調子は如何ですか。寒くなると、馨さんが風邪をこじ
らせるのではないかと心配です。もっともっと馨さんに会う事が出来て、一緒にいる事が出来たなら・・。
もうすぐ知り合って1年になります。周りの友達のように何処かに行ってでデートをしたり、一緒に映画を観たりし
た事なんてほとんど出来なかったけど、数少ない思い出だからこそ、大切でしっかりと記憶に残っています。初めて
出会ったときの事。初めての言葉。初めて電話したときの事、馨さん以外の人が電話にでたら、どう言って取り次
いでもらえばいいのかと思うと、電話する事を本当に迷いました。
ふにゃふにゃと迷いながらも、12月23日の初めてのデート。とても寒い日でした。ストーブがぽつりぽつりと置い
てあるだけの寒いカテドラルでのゴンチチのコンサートで、ミニスカートの私の膝にコートを掛けてくれた時、その後
のカフェレストランで、食べるのが遅い私を気遣ってくれた時、馨さんの優しさがとても身近に感じられました。翌日
のイブは、体調が悪いのに無理して私のわがままに付き合ってくれて南港までドライブをしてくれ、ちょっと恥ずかし
い表現の仕方をすれば、「恋」というウォータースライダーに乗って、急降下している気分でした。思い出というお惣
菜を品数にすれば周りの友達には負けるけど、その愛情のこもった味では、きっと誰にも負けないという自信があ
ります。もし、私のこの背中に羽が生えたなら、どんなに凍り付くような冷たい風が耳を突き刺しても、力強く羽ばた
いて馨さんの所へ今すぐ飛んで行きたい。
一日も早く会いたいから、ちゃんと元気でいて下さい。年末も押し迫ってくるともっともっと馨さんは、忙しくなるの
でしょうね。でも、馨さんにして欲しい事があります。「明日の朝はまた今日よりも寒くなる」という天気予報のおじさ
んの言葉を信じて、一番上の押入から炬燵布団を降ろして炬燵を作りました。馨さんが今年の夏にプレゼントして
くれたタオルケットをその押入にしまってほしいのです。来年の夏もそのタオルケットを大事に使いたいから、早くう
ちへ遊びに来て下さい。
いつか、ステージの上でスポットライトを浴びた馨さんを見てみたい。馨さんの夢と馨さんに膝枕をしてあげたいと
いう私の夢が、いつかきっとかなう事を祈っています。
凛子
11.23
馨さま
拝啓 大きなクリスマスツリーが話題になる今日この頃如何お過ごしでしょうか。今日は、ビッグニュースがあってノ
ートパソコンをベッドの下から引っ張り出しました。えーそれは、ドジな私が昨日階段で大の字になって転んだ事。
あ、いえそれは、内緒にしておきたかった事。そんな事ではなくて、夕刊に載っていた記事で馨さんにとってグッドニ
ュースを見つけて是非読んで欲しいと思い同封しました。 作詞をするだけで30万円ももらえるのですよ。あの有
名で音楽業界や芸能界で力のある秋山さんや後藤さんの目に止まれば、馨さんの将来のためにもとても良い事な
のではないかと私は単純に考えたのです。でも、締め切りが12月10日なので馨さんにとって忙しいときに、30万
円の為に作詞をする時間などないのかも知れないとも思ったのですが、とりあえず馨さんにこの事を知って欲しか
ったのです。私もチャレンジできるものならしてみたいけれど、とてもそんな自信はありません。実は、いつも詩でも
俳句でも作った後、「下手だな。あそこはあの言葉にするのではなかった。」と必ず後悔しているのです。
それから、馨さんにお願いがあります。クリスマスプレゼントとして是非、馨さんのデモテープが欲しいのです。そ
したら、今年一度も馨さんと雑誌に掲載されているようなおしゃれなレストランでの食事も、友達のように夏に海に
連れていってもらう事が出来なかった事も、クリスマスを一緒に過ごせない事も、もしかしたらもう今年は12月5日
にほんの少し会えるだけになっても我慢します。会って手渡してもらえなくても郵送でいいのです。改めて録音する
のではなく以前に私に聞かせてくれたテープを安物のテープにダビングをしてくれたらそれで嬉しいのです。もし、
許してくれるならそれはそれは毎日毎日、大切に通勤途中も肌身離さず、馨さんへの想いを胸に秘めて少しニヤ
ニヤしてウォークマンで同じ曲を繰り返し聞きます。だからお願いです。
でも、私は今日反省しています。教会学校の「こじか」という雑誌の小学校の先生の書かれた文章を読んで反省
しました。少しその文章を紹介すると、
「待つ」というのは、恐らく誰もが経験する事です。待つ時に、人はいろいろな気持ちになります。 期待と夢に胸
がふくらみ、うれしく、幸せで、何もかも前向きに考えられるような気持ち。あるいは、不安と恐怖にかられ、おびえ
てしまう気持ち。あるいは待つ事の長さにあきあきとしてしまい、いらいらとする気持ち。
そのように、色々な気持ちにかられながらも、必ず待つ事の終わる「とき」がやってきます。その「とき」が最高の
瞬間であるように、また、少しでも良い結果になるようにと、自分の最善を尽くそうと、人は考えます。
私は、それまでクリスマスの連休を馨さんと少しも過ごす事ができそうもないことを前向きに考える事が出来ませ
んでした。今年は馨さんとの思い出の数は少ないのかも知れませんが、私が馨さんに宛てたこの手紙を含むラブ
レターの数々が二人にとっての大事な思い出なのだと思います。きっと今度会えるときの喜びは、街で見かける年
がら年中べたべたしている恋人達よりもずっとずっと大きいと思います。
まだ雪が降るほどの寒さではないけれど、日に日に寒さが増してきています。あまり無理をし過ぎて、くれぐれも
お風邪を召されませんようにお祈りしています。
敬 具
11.28
凛子
馨さま
あけまして おめでとうございます。
この1年を振り返ってみると、去年はいつもの年より早く過ぎ去ってしまったように感じます。きっと、5月から経理
だけではなく、コンピューターのオペレーションもするようになって仕事が忙しくなったり、会社の経営状態が悪化し
て雇用の事等で会社の環境も慌ただしくなったりしたせいでしょう。馨さんにとっては、この1年いかがでしたでしょ
う。
私の仕事の事で馨さんに心配をおかけして申し訳ありません。黙っていれば良かったのかもしれませんが、でも
それは隠し事をする事のように思えたのです。馨さんには、私の良い事も悪い事も、嬉しい事も悲しい事も全てそ
のままで知っていて欲しいと思います。
ここの所お忙しいようでゆっくりお話しする時間がありませんが、私の仕事の事は大丈夫ですから、あまり無理を
しないでください。経費削減のために解雇された4人の中の一人が、転職先が決まって年末一杯で退職しました。
私を含む残りの3人は、今の会社で仕事をしながらしばらくは就職活動をします。仕事が見つかるまで今の会社で
仕事をさせてもらうつもりです。だから、自分の生活費は自分で何とかしますから、心配はいりません。毎週日曜日
新聞の生活欄の愛読している小さなエッセイに「覚悟を決めれば行動力が伴う」と、ありました。その通りだと思い
ます。
私が主に就職活動として利用しているのは、谷町6丁目にある福祉人材センターです。職安には、ワープロやパ
ソコンの出来る事務員の求人はあるのですが、どれも小さな会社ばかりです。会社の大きさにこだわるのは良くな
いことだと思いますが、今の会社の事を考えるとやはり気になります。又、ワープロやパソコンばかりしていると、
気がつくと機械とだけおしゃべりをして人間様とお話をすることが一日に一度も無いという事もあります。パソコンや
コンピュータは、分かり始めると面白いし楽しいのですが、私はもっと機械よりも人と関わりたいと思います。それで
福祉施設で働きたいと思い、福祉人材センターで仕事を探しています。やはり今の時代福祉に関心を持つ人は多
いようで、11月にセミナーに行ったときも定員オーバーしてしまう程、沢山の人が来ていました。人材センターもい
つ行っても、込み合っています。最初は、毎週日曜日の教会学校も楽しくなってきたところなので、日曜日が休み
の方がいいと思っていたのですが、施設に定休日は無いので、それは難しいようです。交代制勤務も少し通勤時
間が長くても我慢するつもりで、就職活動に励むつもりです。
ですから、ご安心ください。そして、咳をしていない鼻声でもない元気な声を又聞かせてください。この一年が馨さ
んにとって良い年になりますように。
元旦
凛子
追伸 : 昨年は仕事の面ではいい年では無かったかもしれませんが、馨さんのおかげで心の面では、とても良い
年でした。どうもありがとう。