馨さま
拝啓 ほんにお暑うございます。お元気ですか。冷たい物の取り過ぎでお腹を壊したり、冷房のかけすぎで夏風邪
を引いていませんか。それから、お腹を出して寝て寝冷えをしていませんか。これはみんな、教会学校の終業式で
ムジカ神父さんが子供達に言われたことです。でも、私もそうですが大人になっても気を付けないと、我慢という言
葉をつい忘れて、汗をかけば好きなだけ冷たい物を飲み、くしゃみが出るまでクーラーを付けてしまいます。もうそ
ろそろセミの声も日に日に小さくなり、替わって秋の声が聞こえてくるでしょうから、それまでお互いに夏バテしない
ようにもう少しの我慢をしましょう。
そうそう、その教会学校のムジカ神父さんのことですが、今日のミサにいないなあ、あんな大きな神父さんは誰の
陰に隠れていても絶対に見つけられる筈なのにと思っていたら、昨日から宮津までバイクにまたがって海水浴に出
掛けたそうです。大きな荷物を積み込んだ小さなバイクに100キロ近い大きな大きな神父さんがまたがって颯爽と
出掛けたそうです。その73歳の神父さんの艶姿を見て60代の神父さんが「ああ若いなぁ」と思ったんですって。こ
の猛暑の真夏にバイクなんて暑くてたまらないだろうと思うけど、バイクって一度はまってしまうと幾つになろうとお
爺さんになっても止められない物なのでしょうか。イイなぁ。
昨日の電話、忙しい中どうもありがとう。多分月末で忙しいだろうと思っていたからまさか電話を貰えるとは思って
いなかったので、嬉しさがいつもの2倍増しでした。馨さんも私もお盆休みの前位まではずっと忙しそうですね。明
日からの1週間は特に私も忙しいでしょう。
手紙は2枚までという馨さんからのリクエストでしたので、ここらでプリントアウトすることにします。何時になるのか
分かりませんが、今度逢うときまでお元気で。
敬具
7.31
凛子
馨さま
拝啓 もう、この暑さにはうんざりです。馨さんは、夏と冬はどちらが好きですか。私は夏に生まれたけれど、暑い
夏は苦手です。冬の寒さの方がまだ我慢できます。空から優雅に舞い降りる雪が恋しくてたまらない今日この頃で
す。
今日は、クタクタです。プールで疲れてしまいました。4月からスイミングスクールに通い始めて、約2カ月でクロー
ルと背泳で25Mのプールを端から端まで泳ぐことが出来るようになりました。それで、同じ初心者コースの小母ち
ゃん2人と時々会話を交わすようになったのですが、その1人の小母ちゃんが次の中級者コースに6月から上が
り、中級者コースの情報を色々教えてくれました。その小母ちゃんが言うことには、「中級者コースはしんどいけど
泳ぎがいがあるし、平泳ぎも親切丁寧に教えてくれる。だから、あなたももう泳げるのだから(中級者コースに)来た
らいい。」との事でした。それでもう一人の小母ちゃんも誘われて中級者コースに上がってしまいました。でも、私は
まだ4月に始めたばかりだし、自分でクロールの息継ぎが下手だと思っていたので、もう少し基礎を身につけてか
らと思っていたのですが、先月から初心者コースの人数がドッと増えて20人位になってしまい、2コース使うので1
コース10人となり、10人が25Mを泳ぐには5分もの時間を要してしまい、1時間泳いでもまだ泳ぎ足りない不満が
残るようになりました。と、言うわけで私も中級者コースに上がってみることにしました。「若いから…」「今日は1週
目だし…」なんて言う言葉に乗せられてみたものの、行ってみれば「あら話が違うじゃないの。」状態。泳ぐ泳ぐ。し
かもクロールばっかり。最初にクロールで50Mの後、筒型の浮輪を股に2個はさんだ状態でクロールの手の練習
6往復。普通ならこれで足が浮くのでしょうが、既に疲れていた私は慣れない物を付けてバランスがおかしくなりま
るで溺れているような格好でした。次のアヒルの水掻きのようなプラスチックの下駄のような物を手に付けた時に
は、全くうまく水が掻けず、それを見かねたコーチが開口一番「初めて入会された方ですか?」と、言われてしまう
ぐらい下手くそだったのです。「はぁ、はぁ」と息を休ませる間もなく次々と泳いで最後に極めつけに背泳を4往復。
終わって小母ちゃんに「又頑張ろうね」と言われたけど、もう、フラフラ。結局、肩や腕の力がないからこんなにもし
んどいのだと思います。馨さん、勿論、途中、立ち止まったりもしたけれど、この1時間で私は何メートル泳いだと思
います?なんと725Mです。すごいでしょう。我ながらに良く頑張ったと思います。スイミングスクールのことだけで
2枚目に突入してしまいました。まあ、この1週間の短期間にいろんな事がありました。
ところで、馨さんはお盆休みは取るのですか。因みにこの夏は私は休まないことにしました。馨さんも夏バテしな
い程度に仕事を頑張って下さい。
敬具
8.6
凛子
馨さま
拝啓 毎日のんびり過ごしていると小さい秋を一つ又一つ見つけます。例えば、大阪城公園には、すっかり蝉がい
なくなりました。それから、夕涼みに自転車で出掛けると背中にうっすらと汗をかきますが、髪をなびかせる風に秋
の感じがします。夏の初めには、あんなにも暑くて暑くてたまらないと思っていたのに、その暑さにも今ではすっかり
慣れてきました。又、1度〜2度昨日より今日の方が気温が低くなっているのが、空や空気、それに肌に感じる日
差しで分かります。
そうやって自然で季節を感じるのは年をとった証拠だと言いますが、このようにして今年の夏が過ぎて行くことに
私の心は、どうしようもない程の焦燥感で一杯になってしまいました。こんなにちっぽけな身体をした私が、どんな
にお日様に向かって喚こうと泣こうと、地球は回ってしまうし月は輝いてばかりで、それが良く分かっているつもりな
のに。馬鹿な私です。ラジオから流れるラブソングは、どうしてこの季節になると、夏の恋の終わりの悲しい歌ばか
りなのでしょう。失恋の歌でなくても愛を切々と語る歌「With Out You」なんて、絶対に絶対に聴きたくありませ
ん。と、こうしてキーを叩いている間も流れてくるのは、美しいメロディのラブソングばかりです。今年の夏の終わり
と思うと、何でもないかのように夏が私のことを知らんぷりをして走り去っていってしまうようで、切なくて、寂しかっ
た。そして、我侭になってしまいました。ご免なさい。過ぎ去ってしまうのは、夏であり時であって、馨さんではない筈
なのに、今もこの時間も馨さんの心と時を共にしている筈なのに、一人でお相撲を取っていたようです。おかしな
人。常日頃、お互いに自由、個人の時間、個人の意志を尊重しなければいけない。それが、私の愛し方なのだと
思っていたのに、この1週間くらい、馨さんに逢いたくて逢いたくてどうしようもなくて、その思いを抑えきれなくて、馨
さんにそれを伝えることすら出来なくて、どうかなってしまいそうでした。
でも、もう大丈夫です。心の整理が出来ました。私は自分が忙しくなくなって少し時間のゆとりが出来て、仕事が
忙しくぐったり疲れたときのことを忘れてしまっていました。なんて自分勝手で我侭なんでしょう。反省しています。今
後は、もっともっと強くなります。もっともっと馨さんのことをお祈りしようかな。強くなる努力はするけれど、お願いが
あります。優しい馨さんが少しでも私のことを喜ばそうと思って言ってくれるのは、本当に嬉しいのですが、出来るこ
となら、いつ頃私に逢ってくれると、言わないで。せめて馨さんの声が聴きたいと思い1日目電話が繋がらず、2日
目忙しそうで、3日目もしかしたらと思いながら、日付が替わりました。どうか、いつでも、どんな時も「当分忙しくて
逢えない」と言って電話を切って下さい。その言葉をしっかりと信じます。私なら大丈夫です。今までの人もみんな
忙しそうでした。それは、本当は仕事が忙しいだけではないことを私は知っていたのに、待ち続けていました。だか
ら、私はきっと馨さんに仕事が忙しいと言われれば、何時間でも何日でも何カ月でも何年でも待ち続けるでしょう。
ただ、今までの人と違うのは、決して馨さんのことを疑わないこと、信じ続けることが出来ること。だから、お願いで
す。
だけど、ここで勘違いしないで欲しいのは、私は決して馨さんに逢いたいという気持ちが醒めてしまったり、諦め
たわけではありません。逢えるものなら逢いたい。叶うことなら、馨さんのずっと側にいたいと思います。その思い
は少しも変わりません。ただ、ぬか喜びをした後の寂しさに耐える自信がなくなっただけなのです。馨さんのことを
もっともっと身近に知ることが出来たなら、きっとぬか喜びの後の一人の部屋の静寂にも平気のへの字になること
が出来るでしょう。当分忙しいと思いますが、またその内お暇になったら、是非私に逢って下さい。残暑厳しい折、
ご自愛下さい。
敬具
8.16
凛子
馨さま
拝啓 今日の夕立の後の、S運輸の向こうに大きな虹がはっきりと出ていました。この目の前のS運輸の配送セン
ターがなかったら、もっときれいに虹の橋が見ることが出来たのですが、橋の真ん中ぐらいまでしか見ることが出来
なかったのが少し残念。それでも、七色がはっきりと識別できるほどの綺麗な虹でした。
ところで、この前の手紙に私が書いたこと怒ったりしていませんか。今、思い出してみると、馨さんが折角私に会
いに来てくれるかもしれないと言うのに、素直になれないなんて良くないと思うのです。馨さんに逢えることは嬉しい
のだから、嬉しいことは嬉しいと表現したいと思います。こうして手紙には自分の心をに正直に表すことが出来るの
に、はにかみ屋さんの私は電話ですら言葉に詰まるのに、ましてや馨んの顔を見てしまったら、それだけで胸が一
杯で無口になってしまいそうです。だけど、早く胸が一杯になりたい。
季節の変わり目です。馨さんが風邪を召されませんように。
敬具
8.20
凛子
馨さま
拝啓 馨さん、今、何処で何をしているのですか。毎晩、毎晩お店と馨さんの家の方と電話をかけていますが、コー
ル音ばかりで誰一人も受話器を取ってくれません。電話に出ることが出来ないような何か不都合なことがあるので
しょうか。何か悪いことが馨さんの身に起こっているのでしょうか。例えばひどい怪我をして入院してしまっていると
か、何か不幸があったとか。私は、どうしたらいいでしょう。私の方から馨さんに会いに行ったりしたら、馨さんにご
迷惑がかかってしまうのでしょうし、どうしたら、そのことを知ることが出来るでしょうか。心配です。馨さん、本当に
お元気ですか。ちゃんと足も腕もついていますか。夏バテの身体で無理をして居眠り運転でもして交通事故にあっ
てしまったのではないかとか、悪いことばかり考えてしまいます。
それとも、もしかしてこの前の私の手紙が馨さんにお気に召さなくて激怒してらっしゃるとか。だとしたら、ご免なさ
い。何でもします。どうか、許して下さい。馨さんに逢えない寂しさがそうさせたことだと思って、私を哀れんで下さ
い。
でも、もしかしたら、只単に超忙しくてずっと得意先回りをして帰りが遅いというだけなのでしょうか。それで、私に
会いに来るどころか、電話をする暇すらもないという、時間だけが理由でしょうか。鮭フレークの賞味期限の前に私
に会いに来てくれるということを信じてしまった私は、馨さんのことが心配で心配でどうしようもありません。お願い
ですから、お電話1本下さい。
敬具
8.25
凛子