馨さま 

拝啓 馨さんはもう知っているでしょうか。うちのマンションの玄関口のツツジが只今満開です。花の命は短いもの

です。早くうちへ来ないとツツジの花が見れなくなってしまいますよ。

 昨日は忙しい時に電話をしてご免なさい。昨日の電話は、急用ではありませんでした。昨日プールからの帰りに

ちょっと缶ビールを買いに酒屋さんに行きました。酒屋さんを出ると、吹くとプーと音の出る風船を持った子供と擦

れ違いました。そう言えば夜店の出ている日だったことを思い出し、私もちょっとだけのつもりで近くの商店街へ行

ってみました。ベビーカステラ、フランクフルト、イカ焼き、ミルク煎餅、水飴、焼き鳥等の食べ物屋さんやくじ引き、

ボール当て、輪投げ、オタマジャクシ掬い、金魚掬い、緑亀、等の遊び物のお店が出ていました。私はプールに行

く前にご飯を済ませていた為、お腹は空いていませんでしたので食べ物屋さんはパスして、くじ引きとボール当てを

しました。くじ引きは200円でくじを引いてその番号の商品がもらえるという物です。私は熊のプーさんの可愛いお

弁当箱を狙ったつもりだったのに、結果はスヌーピーのボールペン1本でした。次にボール当てをしました。これは

吸盤の付いた軟式テニスのボールと同じくらいのボールを1M先の点数の書かれたボードにくっつけ、そのボール

のくっついた場所で150点以上獲得できれば商品がもらえ、全くダメでもおまけのような商品がもらえます。その獲

得点数が高得点であれば商品も良くなります。それが、ボールを強く投げると跳ね返ってしまいボードにくっつきま

せん。下からそうっと投げるとくっつきます。このコツを掴むのに私は、400円もお金を使わなければなりませんで

した。1回大人が300円なのですが、値切って子供と同じ200円にしてもらい、2回やりました。1回やって全くダメ

で、おまけをもらいもう帰ろうと思ったのですが、悔しさのあまり寝付きが悪くなりそうで、再度挑戦しました。それで

70点を2回出したのに最後のボールがくっついたのは、一番上の所の10点でした。でも、優しいお兄さんは点数

が足りなかったのに、私の欲しかったポルシェのプラモデルをくれました。早速組み立てました。ゼンマイを巻くと走

るという物です。

 今度、馨さんに私の愛車を見せてあげますね。

                                   敬具

                                5.22

  凛子

 

 

馨さま 

拝啓 この頃、日に日に蒸し暑くなって来ましたね。日中雨が降る日も増えてきて、来週にでも梅雨入りしそうな空

模様です。急な俄雨に濡れて風邪など引いていませんか。私の職場でも風邪が流行っています。周りに風邪引き

さんがいても、何とかは風邪を引かないと言うのは本当らしく、私の方は頗る元気です。

 所で、今夜お店に電話をしましたが、お留守でした。もうそろそろ月末でもあることだし、馨さんは仕事が終わる

のが遅いかもしれないと思い、ご自宅には電話しませんでした。馨さんが「暇になったら電話する」と言ってくれてか

ら、どのくらい経ったのでしょう。私もいつものことであるし、馨さんの仕事が忙しいのも理解しているつもりなので、

最初の1週間位は仕方のないことだと気に止めていませんでしたが、今は少し心配です。「馨さんに他に彼女がで

きたのではないか」とか、「私の事なんて忘れてしまったのではないか」という、心配はしていませんが、「こんなに

長い間逢わずにいて私の顔を忘れてしまうのではないか」という心配をしています。一番最近私が馨さんの顔を見

ることが出来たのは、何時だったでしょう。それも、その時は一言も言葉を交わすことなく、ちらっと馨さんの顔を見

ることが出来ただけでした。で、その前は去年の6月に馨さんが夜遅くに私の家に来てくれた時でした。その時はち

ゃんと馨さんの顔を見つめることもできたし、話もする事が出来ました。あれから、かれこれ1年経つのです。あの

頃の私と今の私で変わったところと言えば、何処でしょう。目や口鼻の数が増えるわけなく、ヘアスタイルもプロポ

ーションもほとんど変わっていません。でも、一つ年をとっただけ、素顔のシミそばかすが増えたかもしれません。

たとえ1年前の私と今の私が変わっていなかったとしても、1年前の私の顔を馨さんが忘れてしまっていれば、私と

偶然何処かで逢っても馨さんに気付いてもらえません。待ち合わせをして、私が分かってもらえなかったらあまりに

も辛すぎます。今度逢うときは、外でデートをするのではなく、私の家に来てくれるのでしょうから、私を見間違える

と言うことは無いと思います。でも、私はふとした時、仕事中や電車の中や帰宅途中などに馨さんとの数少ない思

い出を思い出しています。馨さんもそういう時があると思いますが、その私のことを思いだした時の私の顔はのっ

ぺらぼうではありませんか。馨さんは私の顔を本当に覚えていてくれるかしらととても不安です。この不安を1日も

早く解消して下さい。

 そうそう、それと馨さんにとっての朗報というよりも私自身の朗報なのですが、5月の初旬に健康診断がありその

結果が戻ってきました。それによると私の健康状態は全く異常無しでした。肝臓も血液も尿もレントゲンも正常の所

に印がついていました。久しぶりに嬉しく思いました。馨さんも身体あっての仕事なのですから、そんなに生き急が

ず、自分の身体を大切にして下さい。この前のように思いがけず病気になってしまうこともあります。きっと、絶対

に、保険証をちゃんと作って下さいね。いつも、元気な馨さんでいて欲しい。馨さんと一緒にしたい事とやりたい事、

行ってみたい所、過ごしたい時間がまだまだ沢山あります。その為には、元気が資本です。私は、どんな時も何時

までも馨さんを信じています。

                                  敬具

                                5.28

  凛子

 

 

 

馨さま 

拝啓 満開のピンクや紫や青の紫陽花がお花屋さんの店先に並んでいます。馨さんは、何色の紫陽花が好きで

すか。今日は、馨さんからの電話を心待ちに待っていましたが、もう諦めました。もうこれからは、馨さんからの電

話をあまり期待して待たない事にします。「今日あたり、馨さんから電話がそろそろかかってくるかな、まだかな、

忙しいのかな。」と、思いながら待っているのは平気ですが、「今日電話をくれると言ったから、今日は絶対。」と、

て待っているともうむっちゃ夜が長くて辛いから、「今日電話をくれると言っていたけど・・・。」と、少し期待度を下げ

て待つことにします。馨さんに渡したい物もあるから、早く会いに来て欲しいのに。

 それから、この前雑誌を読んでいて珍しい物を見つけたので、馨さんにもそれを見て欲しくて同封しました。そ

れは、私が毎月購読している雑誌で有名高級ブランドのパリコレや最新流行のファッションが満載のFIGARO

japon」というファッション雑誌です。そんな雑誌に私の田舎の近くの益田の事が載っていたことに、超マンモスび

っくりしました。あんな何もない辺鄙な所に空港が出来て、NHKのお昼の番組で特集をしていたのをたまたま前

の会社のお昼休みに見たことはありましたが、マニアックな旅行誌ならいざ知らず、まさかこんなトレンディな雑

誌に特集記事が載るとは夢にも思いませんでした。まあ、びっくりです。馨さんは津和野に行ったことがあります

か。多分一度行けばもう一度足を運びたいとは思わないでしょう。何故なら、津和野の事を小京都と言いますが、

その名の通り本当に小さな町で、メインストリートを1本外れるもうとそこは田圃や畑ばかりの田園風景です。益

田も然りで、余程日本史の得意な人で無い限り雪舟庭園の雪舟という庭師や柿本人磨呂という万葉のの歌人を

知っている人はいないでしょう。その庭も台風で大きな木の枝が折れたりして、本当の雪舟の庭では無くなってし

まっていますし、猫の額よりは大きいけど、後楽園の何十分の1の大きさのごく小さな庭です。私の田舎も寂れた

名所旧跡しかなく観光客もトイレ休憩ぐらいでしか立ち寄ることはありませんが、それはそれでそのままそっとして

置いて欲しいと思います。馨さんはどう思いますか。又今度ゆっくり馨さんの田舎のことも教えて下さい。

                                  敬具

                             6.1

  凛子

 

 

 

馨さま 

拝啓 今年はこのまま梅雨が来ずに、夏がやって来そうなお天気が毎日続いています。暑さに負けていませんか。

馨さん、24歳のお誕生日、本当におめでとう。今年の馨さんのお誕生日は、私にとっても忘れられない日になりま

した。今はどんな言葉を綴れば、この私の胸の想いを馨さんに伝えられるのか想像できません。短い表現ですが、

とても嬉しかった。

 只々悔やまれるのは、目を覆いたくなるほどに、部屋が散らかっていたことです。この事について、少々だらだら

と言い訳をさせて下さい。初めに、一日の私のスケジュールを述べさせて頂くと、まず朝6時過ぎに起床してお弁当

と簡単に朝御飯を作り、7時前に朝食を食べ、7時20分頃から歯磨きと洗顔をして、コーヒーを飲みながら化粧を

し7時55分頃焦りながらGパンを履いて慌てて鞄を持って飛び出し、駅まで全力疾走しています。元々低血圧で朝

は苦手の私は家を8時に出るのに、朝早くから目は開いていても頭が回転せず行動が鈍いため、6時に起きない

と間に合いません。そして、何分仕事が肉体労働なものですから、毎日帰宅するとバタンキュー状態なのです。馨

さんが家へ来てくれたのは、木曜日の深夜です。当たり前のことですが木曜日は水曜日の次の日です。水曜日は

仕事がかなりハードです。その疲れは、一晩寝たぐらいでは回復しません。そして、先週と今週は木曜日はまたい

つもの仕事とは別に仕事が増えていました。それで、木曜日が過ぎると「あと金曜日を乗り越えれば、土曜日の会

議だけで休みだわ」と、自分に言い聞かせて頑張ります。そして、最近は週末がやってきても何処へ出掛ける事も

なく、最低限の洗濯と買い物を済ませるとお昼寝をしてしまいます。そうやって苦手な片付けや掃除が後回しにな

り、必要に迫られてやっとその気になっても簡単に済ませてしまい、あういう状態になってしまうのです。

 でも、馨さんがお多福風邪にかかる前に土曜日に家に来てくれると言ってくれていた時には、大掃除をして白ワ

インを買って冷蔵庫に冷やしていました。それから、前日に何本かのバラと馨さんの好きな苺を買うつもりでした。

半年振りの馨さんとの再会を素敵な夜に演出しようと思っていました。それなのに、馨さんにあんな散らかった部屋

を見られてしまい、ルーズな私が悪いと分かっていてもショックです。時間とその気さえあれば、掃除をしたのに。

散らかっていた部屋が綺麗になることは、これでも気持ちの良い物だと思っているのです。

 それから、今度電話をくれた時に「あれは夢ではなかった」と言って下さい。今から思い出すと、私の望んでいた

こと全てが叶えられあまりにも幸せすぎて、私は馨さんに逢いたいばかりに夢を見ていたのではないか、寝ぼけて

幻覚を見たのではないかと思えてきました。馨さんにもう一度電話で言葉にして言ってもらわないと、何もかもが夢

のように思えます。  

                                敬具

                            6. 4

  凛子

 

 

 

 

 

馨さま 

拝啓 梅雨に入って、雨が降ったり止んだりの鬱陶しいお天気が続いています。

疲れの溜まりやすい季節ですが、お元気ですか。長野までの長距離運転の疲れは、もう回復しましたか。馨さんは

自分に厳しい人だから、疲れが取れても取れていなくても仕事をこなそうとするのでしょうから、馨さんの身体が少

し心配です。馨さんは、私に疲れた顔を見せたくないと言いますが、私は馨さんのオアシスになりたいと思います。

馨さんが眠いなら、意外(?)と肉付きの良い太股で膝枕の一つもしてあげたいし、肩や腰が凝っているならマッサ

ージもしてあげたいと思います。私は馨さんの疲れた顔を見たぐらいでは、馨さんのことを嫌いになることは絶対に

ありません。

 それよりも何よりも、馨さんが今月に又逢ってくれるとの事。もう、驚き桃ノ木山椒の木です。だって、きっと今度

逢えるのは、年末にうちの近くの馨さんの取引先でチラッとだけ馨さんを見ることが出来るまでオアヅケカナと思って

いました。本当に我が耳を疑ってしまいました。今でもドキドキしています。でも、お願いですから、今度は来る前に

必ず電話を1本下さい。大切な人をご招待するのですから、最高のおもてなしをしたいと思います。部屋の掃除を

今度は絶対にしておきます。ワインだって一緒に飲みたいし、苺はもう季節外れになりましたから、今なら美味しい

メロンをガラスの器に盛って、バラ一輪とテーブルへ並べます。私一人だったら、メロンもバラもそれ程美味しいと

も美しいとも思わないでしょうが、馨さんと二人なら、きっと幸せ。先日のように暗い部屋では、ワインもメロンも楽し

むことが出来ません。馨さんが電気の明るさが嫌なら、クリスマスに使った小さな水色の蝋燭を使うことにしましょ

う。だから、今度はもっとよく馨さんの顔を見せて下さい。私に逢う理由はバレンタインのチョコレートを渡すこと以

外に、電話でも言ったように鮭フレークの瓶の蓋を開けてもらうという重大な用事が、馨さんには課せられているの

です。なまものですから、急がなければ折角買ったのに食べられなくなってしまいます。それと、ついでにお布団の

整理もお願いしたいと思います。最近毎晩暑くて、ついに昨日から馨さんに去年もらったタオルケットを使うことにし

ました。それで冬布団と毛布と炬燵布団も洋服ダンスの前に山のように積み上げられています。毛布と冬布団は

最近まで使っていたため、シーツの洗濯等をしてから片付けたいと思っていますが、炬燵布団はカバーも洗濯して

天気のいい日に干して畳んでいるので、せめて炬燵布団だけでも上の押入に仕舞いたいと思います。お洗濯も早

くしてしまいたいのに、平日はずっと良いお天気だったのに週末に雨なんて、全く困っています。雨は子供の頃から

嫌いな方ではなく、大人になった今も傘をさして街を歩く事はやはり好きですが、洗濯が出来ない事と部屋の窓を

開けれないという現実だけを考えると、雨は困り者です。馨さんも雨の日は仕事の面で不都合なことが沢山あるで

しょう。早く梅雨が終わって、あまり蒸し暑くない過ごしやすい爽やかな夏が来るといいな。だけど、夏よりも、何より

も誰よりも、馨さん、早く来てね。

 

                                  敬具

                                6.18

  凛子