馨さま 

拝啓 いつも横目で通り過ぎるお花屋さんの店先には、黄色や赤紫や白のまだ蕾の菊達が溢れています。何かお

花を買おうかとも思うけれど、それは馨さんが訪問してくれる日まで取っておこうと思いながらも、季節感のないバ

ラの花に見とれたりしています。

 そんなお花のことよりも、私は馨さんにこの前の電話でたった一言皮肉を口にしてしまったことを謝りたいと、あ

れからずっと思っていました。そして、あの後すぐにもう一度馨さんに電話をしたのに馨さんも「一杯気にしているか

ら気にするな。」なんて正直に答えるから、謝るつもりで折角電話をしたのに「ごめんなさい。」の一言を言いそびれ

てしまいました。もう。お陰で私も一杯気にしてしまいました。馨さんに思い通りに逢えないことは馨さんを責めるべ

きでは決してないのは、よくよく分かっていたつもりだったのに。偶然、馨さんに3カ月ぶりに逢うことが出来たの

に、たったの2〜3分しか逢うことができずず、もっともっと話をしたかったのにお互いの時間がそれを許してくれま

せんでした。それでここの所毎日のように馨さんに電話をしていたのに、数回のコール音とFAX音ばかりで繋がら

なかったという欲求不満がどっとあふれてしまっいました。とてもとても思いやりのある優しい心の持ち主の筈の私

があんな言葉言ってしまうなんて。あの時は私は私だけの一人称で馨さんに恋をしているような勘違いをしていまし

た。本当に本心からではなかったのです。だから、許して、そしてこの事は早く馨さんの記憶の中から消し去って下

さい。暫くは馨さんは仕事が忙しそうで私に構っている暇など無さそうですが、ほんの1分でも2分でも私の為の時

間を作ってくれる気持ちになっていただけたら、どんなに真夜中でも構いませんからお電話下さい。

  でも、又いつか馨さんと誰かのコンサートに行きたいと思います。ゴンチチは私が誘ったコンサートでしたが、も

し馨さんが私を誘うとしたらどんなアーティストのコンサートに連れて行ってくれますか。私は馨さんが一緒ならクラ

ッシックでもロックでもジャズにマイナーな元ふきのとうの細坪さんでも、静かなのからうるさいのから洋楽からお能

のような邦楽までなんでもOKです。決して馨さんがコートを貸してくれることを期待している訳でもないけど、どんな

に冷暖房の完備していない会場でも、平気。なんて、思いめぐらしているとなんだか、一人で幸せになってしまいま

す。そんなことぐらいで、こんなにもニヤニヤと幸せな気分になれるのですから、私は本当に幸福者です。でも、こ

んな空想ばかりではなく本当にそんな思い出を馨さんと作りたいと思います。早く、早く。

                                    敬具

                                  9.17

凛子 

追伸 :この前の手紙は雨の日の朝に慌ててポストに入れてしまい、もしかして封筒の表の文字が滲んでし

まったのではないかと気にしています。もう一つ、私の頼りない記憶によると、封筒の裏に自分の名前を書くのを

のを忘れてしまいまいました。どれもこれも合わせてご免なさい。

 

 

馨さま 

拝啓 すっかり秋らしくなった今日この頃、日が沈むと同時に風が冷たくなります。そんな時すぐに、馨さんは喉を

悪くしやすいのですから、暫く電話がないと心配です。もう、幾ら電話をしてもいつもコール音ばかりなのですから。

でも、私の方もここの所、レポートの締め切りに焦っていたり、仕事も忙しかったりで馨さんに手紙を書くことをさぼ

ってしまいご免なさい。こうしている今も実は、違うフロッピーにレポートが書きかけのまま保存して、別のフロッピー

を挿入してこの手紙を書いています。だから、今回も長い手紙を書くことが出来ません。馨さんは久しぶりの私から

の手紙に胸躍らせて封を切ったことでしょうけど、ご免なさい。

 いつもならレポートの課題のテキストを通勤の電車の中で読んだり課題について頭の中を整理したり出来るので

すが、仕事が忙しいために、電車の中で仕事のことが頭から離れずレポートの締め切りが又又近づいているという

のに、先程レポート用のフロッピーに保存したのは、レポートの課題だけなのです。つまり、ほとんど白紙状態。で

も、締め切りには、間に合わすことは出来ないでしょうが来週の土日には仕上げるつもりです。 次に馨さんに報

告することは、冷凍庫に入れてあったチョコレートを味見させてもらいました。だって、買ってからもうかれこれ9カ

月になります。冷凍しているとは言え、食べ物ですし、そんな古いものを大切な人に食べさせるわけにはいきませ

ん。去年も馨さんにチョコレートを渡してから、馨さんがお腹を壊すのではないかと心配でした。そう思って食べてみ

たのですが、美味しかったから冷凍しておけば大丈夫みたいです。あと残りの2個は、又容器に入れて冷凍してお

きました。もし、馨さんが今年のうちに会いに来てくれるのなら、そのままにして置くでしょうけど‥‥‥‥‥。 (怒

ってないよ)

 いつ電話をしても留守なくらい馨さんは忙しそうだけど、身体を壊さない程度に仕事も程々にして下さいね。で

は、電話をお待ちしています。

                                      敬具

                                10.23

  凛子

 

 

 

馨さま 

拝啓 つい先週は秋深まって急に肌寒くなったと思っていたら、今週はこの夏の猛暑の高気圧の影響とかで暑い1

週間でした。馨さんの風邪もすっかり全快されたのではないでしょうか。私はやっと今レポートを書き終わりました。

今ラジオから流れてくるのはスポーツニュースで巨人の選手のインタビューをやっています。そんな時間ですから

今回も短い手紙で我慢して下さい。

 この前馨さんから11月13日に逢えそうだと言われて、今から私はあれやこれやと思いめぐらせています。私が

梅田まで馨さんを迎えに行った方が、早く馨さんに逢えるから梅田で待ち合わせをしたらどうかとか、又、電車に乗

ることに慣れていない馨さんのために、どうせならM駅まで迎えに行ってしまおうかとも思っています。梅田に出ると

したら、映画を観る時間はないでしょうが、偶にはごく普通のカップルのようなデートもしてみたいし、新梅田シティ

に行って空中庭園ぐらいは観る時間があるかなぁとも思います。Sで逢うにしても、S駅まで馨さんを迎えにいきた

いと思います。馨さんを駅で待つ気分もきっと楽しそうです。

 それから、ラッキーなことにその前日の土曜日は第2土曜日で仕事も休みですから、土曜日のうちに大掃除も買

い物も洗濯も済ませて置くつもりです。これからの2週間はいつもよりもっと忙しくなりそうです。でもそれは、ぐった

り疲れるものではなくて楽しい忙しさです。当日の詳しいスケジュールが決まっていたら、今度電話で教えて下さ

い。では、馨さんに逢えることを本当にもうむっちゃ楽しみにしています。

                                      敬具

                                     10.30

  凛子

 

   追伸 : ゴディバのチョコレートはまだ冷凍庫の中です。

 

 

 

 

 

 

馨さま

  拝啓 セーターを着ているとポカポカして腕捲くりをしたくなるよう一日、インディアンサマーという言葉がぴったり

のお天気でした。今日は、文化の日。秋が真っ盛り。秋と言えば芸術の秋。ということで、天王寺の大阪市立美術

館まで二科展を観に行ってきました。去年の文化の日もこの二科展に行ったのをよく覚えています。毎年通うと絵

の感じ方も違ってくるようです。去年は初めて行って、絵を見て気分転換やリラックスどころか、一枚一枚の絵を穴

が開くほど見入って、展示室を出た後クタクタになってしまいましたが、今年は去年の教訓を生かして、観て楽な気

分になる絵や惹き付けられる絵だけを見入る事にしました。そして、今年は絵画の他に写真展や彫刻やデザイン

画、子供二科展も観ることが出来ました。

 全体的には、やはり去年と同じように抽象画は、黒っぽい色が多く使われていて、風刺画や想像画も暗い色が多

い感じがしました。絵の善し悪しは私には分からないので、単純に観ていて綺麗だと思える物、観ていて楽しい気

分になる物、もし部屋に飾ったとしても見飽きない物という私なりの基準で絵を見ています。又、ミーハーなので有

名人の人の絵を探したりします。でも、今年は増位山関の絵も工藤静香さんの絵も雪村いづみ親娘の絵も来てい

ませんでした。増位山関と工藤静香さんの絵は、売店に写真だけ販売されていました。朝比奈マリアさんの絵を少

し楽しみにしていたのに、残念。でも、写真展やデザイン画は、とても自由で美しくて微笑ましい感じがして、ホッと

させらました。夕日や木々、山、動物も裸婦もありのままの美しさに魅せられました。馨さんと一緒にいつか美術館

巡りをしたいな。

                               敬具

                          11.3

  凛子

 

 

馨さま 

拝啓 寒い日が2日も続いたと思えば、昨日、今日と暖かったりと、秋から冬の季節の変わり目のお天気は気まぐ

れ屋さんのようです。馨さんはあれから一度も電話をくれないけれど、それは馨さんが忙しい証拠なのだと勝手に

解釈しています。でも、もしかしてあの時風邪を引いていたのが長引いて拗らせて寝込んでいたりして。それとも、

チョコレートが当たっちゃってお腹を壊したとか。あのチョコレートは、私が出掛ける直前に冷凍庫から出したのだ

けど、馨さんがお口に入れる頃には多分チョコレートは汗をかいていたでしょう。お腹を壊すとまではいかなくても、

お口に合わなかったかな。だって約10カ月前のチョコレートなんですから。もう、来年からは馨さんにバレンタイン

のチョコレートを手渡そうなんて馬鹿なことはもうやめて、別の何か良い方法を見つけようと思います。

 逢いたいなんて贅沢を言わない変わりに、そろそろ電話の一本くらい欲しいと思います。私の方からも電話をす

るのだけど、ちっとも繋がらないのです。でも、今はついこの前逢えたばかりだから、その余韻がまだ残っていて少

しくらい馨さんから電話がなくても全然平気なのです。何もかも鮮明に覚えています。馨さんの顔は勿論の事、コー

トから靴下までの着ていた服、あの時のヘアスタイルとその香り、一言一句、仕草の一つ一つ、ほんの少しだけだ

けど触れた手の温もり、今直ぐに思い出すことが出来ます。今の私は幸福者過ぎて、きっと仕事でどんなことがあ

っても落ち込んだりする事はないでしょう。「恋は盲目」そのもの状態です。出会って、好きになって、恋をして、愛し

て、それはこんなにも楽しいことだったなんて事を25歳を目の前にして、初めて分かってきたみたいです。後ろが

見えないの。前しか見えないの。後ろを見たくないとかではなくて、前を見ていたいのです。今が一番大切みたい。

 だから、今直ぐ逢えないからと言って怒り狂う何てことはないけれど、全く逢わなくても平気なわけでもありませ

ん。子供っぽくて我ながらに恥ずかしいけど、例えば恐い夢を見て目が覚めたときには傍らにいて欲しい。そして、

「恐かったよう。」と、馨さんに抱きついたりしたい。現実は、空しくも寝返りでベッドから蹴り落としていた布団を抱き

しめていました。4日位前本当に恐い夢をみたのです。ドラキュラの館に何故か私がドラキュラ退治に行くという、も

うそれはハラハラドキドキの恐怖映画のヒロインになっていました。その館は以前にも2回くらい私の夢に登場した

ことがありました。そして、そこへ私は一人乗りの小さなオープンカーを運転していかなければなりませんでした。5

年振りの運転でもうそれだけでも恐くてドキドキ。キーを回してエンジンがなんとか掛かったのだけど、私は道を知

らなくて先生に教えて貰います。それが又実は私は方向音痴。ちゃんとたどり着けるかしらと又ハラハラ。結局私

は途中で寄り道をしてながらも、再度、館へ向かうところで明け方の寒さのお陰もあって目が覚めました。ドラキュ

ラとは対決していませんが、私にとっては暴れてお布団を蹴ってしまうくらい恐かったんです。私にとって馨さんの

存在が大きければ大きい程に、そんな時は急に寂しくなります。でも、1日もすれば忘れてしまう寂しさだけどね。

やっぱり手紙の最後の言葉は、早く逢いたい。

                                    敬具

                                 11.19

  凛子