拝啓 馨さま
モロゾフのチョコを馨さんに贈ってから3年、もうすぐ4年になります。お互いに良いことなんか何もなかったのかもしれません。悪いことばかり続いていたのでしょうね。昨日、馨さんは私に謝りに来たけれど、謝ることなんか何もないのです。馨さんが言うように私は、馨さんに会わない日々が長い間続いて、とても不安に思ったし、馨さんの事を疑いました。
でも、今はもうそんなことはどうでもいいのです。昨日、馨さんに逢って、私は馨さんのことを私なりに一生懸命愛したし、馨さんも馨さんなりに私のことを愛してくれていたのだと分かりました。お互いにそれがベストだと思っていたのだと思います。一緒に過ごす時間があまりにも少なすぎて、その事に気付くのも遅くなりました。理想とする愛し方が違っていたこと、今なら分かります。馨さんと出会って馨さんに恋をしたけれど、馨さんとの恋愛は私の理想とする恋愛とは全く違いました。それでもいいと思う時もありましたが、さざ波のように不安と疑問が押し寄せてきました。いっそのこと、恋に堰を作ってしまおうと思いました。
馨さんと私は、お互いの性格のいいところも悪いところも知っています。そして、私達は確かに愛し合っていたのだと思います。私のことを一生忘れないと言った馨さんの言葉は真実だと思います。でも、私にはどうしても解けない疑問があります。もし、私があの時、もっと貧しかったら、馨さんはあの後も私に逢ってくれていましたか?もし、もっと貧しかったら、あの夜から私は馨さんの彼女ではなくなっていたのではないのでしょうか。私も泣いていたけれど、馨さんも泣いていた。本当はプライドの高い馨さんの辛そうな顔は見たくなかった。きっと、馨さんと私が未来を共に歩こうとしても、この事はずっと二人の心のどこかにひっかかることでしょう。お互いに別の道を歩いた方がいいのです。馨さんは何も知らない新しい彼女を作った方がきっと幸せになれます。
馨さんの辛いとき、哀しいとき、私は馨さんのそばにいませんでした。それが馨さんの私への思いやりだったのでしょうが、2ヶ月以上もたったあとで、交通事故に遭ったとか、手術をしたと聞かされる事は馨さんが思っているよりも私には辛いことでした。
ごめんなさい。見送られるのは嫌いだと言われたのに、私は馨さんが走り去っていく後ろ姿を見つめていました。だから、馨さんが角を曲がる前に振り返ったことも知っています。今度逢った時には手を振れるようになります。お元気で。
凛子
11月11日