赤とんぼ

 

おじいちゃん

頭のてっぺんから下の方に

スーと風がふいたって

左手がグーをしたまま動かなくちゃった。

2年たって

私の3本の指を左手の中に入れて

ぎゅって握手したよ。

おじいちゃんの左の人差し指に

また 赤とんぼが止まりますように

 

 

   はつゆき

 

あわてんぼうのエンジェルが

いっとう たかい山の

すべり台から

はきわすれたパンツを

ちっちゃな手ににぎりしめたまま

おっこちちゃったのね。

 

 

   夏が冷たくて

 

この夏のざわめきが

僕には木枯らしのように冷たく吹き荒れるのです。

ページをめくる音しか聞こえない図書館でも

カサカサと茶色く枯れた葉が狂ったように回っているようです。

ネオンのきらめく街を通り過ぎる人は

みんな同じ目の色をしています。

 

一番、僕を知っている君に

一番に君に逢いたいです。

 

 

   黄昏行きエレベーター

 

ほおのふくらんだ幼子とその親

お揃いのピアスの若者

5Fで 3人

7Fで 2人

8Fで 1人

それから上へ

空っぽになったエレベーターの

動く階表示を見上げる。

 

10年前

制服姿の二人がいた

灰色やガラスの壁をしたビル達に

血が通うシーンを見るために

 

今、人が生きていることもの凄さと

  死んでいくことのもの凄さを

私は この瞳で見ている。

涙で潤ませてはいけない。

そしたら、

 

エレベーターの扉が開いて

目に見えるものの全てが

同じ色に見えることが嬉しくなる。

 

 

 

   月の精

 

あの時が沸点なら

今は何度かな

僕は囚われの身よりも

自由を選ぼうとしている

グラスの周りの塩の味を確かめて

レモンの溜め息をついて

まぶたを閉じて

 

それでも月の精が

僕を捕らえようとしている。

僕は旅人

留まるところを知らない。

 

 

 

   Love is a leaf

 

銀色並木に風速5メートル

時を数える間もなく

黄金色の涙が舞い散る。

踊ってばかりいることに

川面で気づいて

 

「あなたが想うままに」と祈り続けることの

楽しさと儚さと愚かさと・・・・

私は一枚きり

 

僕らは「みんなひとりぼっちなんだ」と歌ったなら

真夜中に白い夏椿の花を見上げたからさ。

 

「ありがとう」なんて言っちゃだめさ。

 

 

 

   5歳のわたしへ

 

思い通りにならないことがあると

わぁわぁ声をあげて泣いた。

泣きべそかいているあなたに

隣のおばちゃんは優しかったね。

 

ハンカチを落としたら

誰かが拾ってくれるのは当たり前だと思っていたから

「ありがとう」を知らなかったのよね。

 

人を好きになったり

  嫌いになったり

人に好かれたり

  嫌われたり

「ごめんなさい」も言うし

「ありがとう」も言うけど

嘘つきの私がいることをあなたが知ったら

あなたはやっぱり泣くのかな。

 

5歳のあなたは、

大粒の涙をいっぱいいっぱい流したら

大きな背中で眠っている

あなたが羨ましいです。

 

   

 

私は一枚の木の葉

 

真新しい風が私の髪をなびかせるから

はらりと細い枝からさようなら

 

水色のトゥシューズをはいて

ひらりと舞いながら

 

ムートンのコートを着たあなたを見つけて

ふわりとジャンプして

 

巡り合わせだと信じたあなたの掌に

へなりと・・・落ちて

 

もうあなたの

ほっとした笑顔を見ただけで

わたしは一枚の木の葉に生まれて良かったと思う。

 

 

 

   ゆるやかに流れるとき

 

空が見たくて

パジャマに何も羽織らずにベランダの窓を開ける。

頬に秋風をほのかに感じたら

瞳をおろして

いくつもいくつものベランダが並んだマンションを見て

白や黄色の明かりが幾つ灯っているか数えてみる。

こんな夜更けに

あの明かりの向こうの人は泣いているだろうか。

その涙を拭いてくれる人はいるだろうか。

グラスの中の氷が解けることと

この涙が頬を落ちることと

どちらがゆるやかか

 

こんな日にも

隣の白い大きな建物で赤ちゃんが産まれているはず

三つの季節もの間、優しく暖められて

今日その名前が初めて呼ばれる。

急いでいるようで

それでいて

ゆるやかでいるようで

みんな意味のあることで

私が今ここにいることさえも

 

 

   私の知らないこと

 

大切でない人なんていないつもりだけど

それを偽善だって言われても

やっぱり みんな大切

 

目に見えない蝋燭が燃え尽きてしまう。

私の掌の温もりは伝わったかな。

笑顔でなくてもいい。

そのままのあなたを受け入れたいと思うから。

大切な人の蝋燭はどこにありますか?

燃え尽きる前に

私の掌の温もりを伝えたいのです。

 

あの谷間の白い花はいつ咲きますか?

 

 

 

   盛岳に蹲って

 

熊笹に囲まれて

独り蹲る。

分かることは

斜面と太陽の眩しさ

そして迫り来る何か

 

わたしは

流離わない

蹲っている。

誰か呼ぶ声がするよ。

振り返ってみることを

誰も悪いとは言わないはず

熊笹で何も見えない。

私はその人を見つければ

泣き崩れるかも知れない。

 

それでも、熊笹の中から

導いてくれる声のもとに

自分の足で歩かなくては

私が生まれてからこれまでの

全てを赦してもらうために