Coquille 

  かけっこ

 

君が100メートル競走で一位をとったって

どんなにかけっこが早くても

お日さまを追い越すことはできないんだよ。

 

高い高いビルのエレベーターに乗って

屋上から下を見てごらん。

ちっぽけなアリさんがいっぱい

アリさんとアリさんがかけっこしたって

 

赤い小さな傘の中から

傘の上に落ちる雨だれを見つめて思ったよ。

この雨だれとあの雨だれとどっちが先に傘から落ちるかなって

雨がどんどん降ってきて

どっちの雨だれも傘から落ちちゃうんだ。

 

かけっこしたって、

お日さまはいつも君の前にあるんだ。

かけっこしなくったっていいんだよ。

 

 

   潮騒

 

他のみんなと同じでないからって

そんなに驚かないで

私は大丈夫だから

ひいては又かえす波のようなもの

その飛沫をいつまでもみつめていても

飽きなかったでしょう?

全ては潮騒に消えるのです。

 

あなたの言うとおりにしないからといって

そんなに心配しないで

私は大丈夫だから

波打ち際で砂山を作って

波の中に山が消えてしまっても

またもう一度、砂山を作ったでしょう?

全ては潮騒がみていてくれます。

 

忘れてください。

全ては潮騒が覚えていてくれます。

 

 

 

   白木蓮と

 

誰一人も愛さずには生きていけないと言うけれど

私たちは、愛されることを媚びてしまう。

愛している

愛していない

いつまで?

いつまでも

上手に人を愛すること

それは素直な自分を愛すること

 

河の向こうのものを

この宇宙の生きている何もかもを

死にゆくものを

白木蓮のごとく

愛することができたなら

 

乳白色の花弁を

見上げるものを

見下ろすものを

その下を俯くものを

白木蓮のごとく

愛することが出来たなら

 

 

   春の頬

 

春のほほは 

ほんのりとさくら色

ひらひら桜の下

恋人達の膝の上

春のほほがカーペットになります。

 

春のほほは

ぽっかりくもの色

たかいたかいお空の上

恋人達の頭を見下ろして

春のほほはロフトにあります。

 

春のほほは

かの娘の髪の色

そよそよの風に

きらきらなびいて

春のほほをクロゼットから出してみて

 

春のほほでビオラが

ほほえんで

春のほほで紋白蝶が

ひらひらと舞っています。

 

 

   Snow man

 

はじめは 小さな雪玉でした。

両掌にそっと隠れる雪玉でした。

ぎゅっ ぎゅっと

掌の中で強く握りました。

 

そして ふわふわの雪の上

真っ白な 生まれたての雪

コロコロ コロコロって

白い雪玉を膨らませました。

 

やさしいまんまるになるように

やわらかい雪をいっぱい身につけて

にこにこ にこにこ

二つの手が四つになりました。

 

今まで見たことがないぐらいに

大きくなるように 前へ前へ

よいしょ よいしょ

熱い気持ちでいっぱいだから

 

春になって

パンジーが咲いても

スズランが咲いても

涙なんか流していたら

Snowmanのにこにこ笑顔が

解けてしまうから

解けてしまわないように

ペタペタ ペタペタと

四つの掌でお日さまの形にします。

ずっと ずっと このまま

白い雪の上に二人のSnowman

赤いバケツの帽子をかぶった。

 

 

   明日の恋

 

昨日の朝みつけた

スイートピーの蕾が

幼い風に揺られています。

その隣の

去年のチューリップの蕾は

緑の蕾のまま花びらを開きません。

それでも

ありのままの私を伝えること

I am what I am.

あなたのさりげない一言で

せつなくなったこと

あなたがドアを開けてくれただけで

嬉しかったこと

愛おしいと思っていること

来週の雨を心配していたら

ヒマワリの種を植えることはできません。

 

 

   ビーカーとアルペジオと

 

君は気付いていたかな

理科室の隣の音楽室

水曜日の放課後

僕のアルペジオ

春に芽を出す花の名前のバンドだったんだ。

君の持つビーカーを思いながら

アルペジオは恋の秋を弾いていたんだよ。

僕はアルコールランプの上の試験官になりすます。

 

  孤独

 

夕食後に飲み込んだ消炎剤のお陰で

私の頭はぼんやりとしています。

 

それでもボーヴォワールを捲りながら

谷川の水のように

大きな石の上を流れる砂のように

遠い空の星のように

時が流れることを知らされていました。

 

3人で暮らしていた頃

私はとても孤独で深夜ラジオが友でした。

一人で暮らして

あの頃と同じ場所

堤防の左岸に菜の花が咲いていました。

一人で暮らして

一人で生きているのではないことを知りました。

私は孤独ではなくなりました。

 

あともう5年先には

3人で暮らすつもりでいます。

また、菜の花が私を見ています。

 

 

   5月の風

 

5月の風のように

萌葱色のものも

散り落ちた花びら達のことも

すべてが愛おしい

この地上の変わりゆく者達

信じてやまないでいることが

どんなに幸せなことか

 

5月の風が

新しい芽を揺らすように

父に

母に

ありがとうと言う日