C'est un grand bonheur pour moi.

   多幸症

 

あなたは 今幸せですか?

私は 今 風に吹かれて幸せです。

白い波が美しくて幸せです。

頬の髪がそよぎます。

胸の中からあふれ出しそうな想いがあります。

心の奥の芯の底からこみ上げてくるものがあります。

砂一粒の色も雲ひとかけらの色も

何一つ同じものはないのです。

偶然ではなく、全ては決められたもの。

 

同じ事を繰り返す毎日

何気なく過ごしてしまう毎日

通り過ぎていく幾万もの人

すれ違いざまに目が合う人、

地下鉄の連絡通路で肩がすれそうになって立ち止まる人。

その中に私がいます。

私は確かにここにいるのです。

陰で、指の間から落ちる砂で確かめる。

私の指の赤が

幸せだと言います。

桜色の貝殻に誓いを

 

 

     存在

 

「ありがとう」と僕が口にした時

僕は僕の中に君の存在の大きさを知った。

「ごめんなさい」が口癖だった僕の驚きを

君はまだ知らない。

僕の中の君のことを君に伝えたい

「ありがとう」と素直に言えた僕の喜びを

君の中の僕が嬉しいと感じたことを

 

「ありがとう」

手を振る君に手を振る。

「うん、じゃ」

と「さよなら」を言わない君が

搭乗口へのエスカレーターを上がっていく。

僕の中の君の存在は

たとえ君が見えなくなっても消せなくなった。

いつか白い息を吹きかけて

君の指がなぞった落書きに

「ありがとう」

 

 

 

   ペパーミントグリーンの風に抱かれて

 

川辺の道を自転車に乗って

君のことを考える。

どんなに沢山の贈り物よりも

君の唇から紡ぎ出される

たった一つの言葉を待っていた。

ミントグリーンの風は僕の風

風が僕を抱きしめる。

全ての風が僕を

優しく包む。

ペダルを踏み込む僕の足

ハンドルを握る僕の手

君を見つめる僕の瞳

僕の頬が君に触れるのを感じて

ペパーミントの香りが

僕をはなさない。

 

 

  

     セロファンに包まれたしあわせ

 

それは

セロファンに包まれている。

ステンドグラスから差し込む光を見上げて

未来を見る。

セロファンはもうすぐ剥がされる。

目に見える世界が変わる。

目に見えない世界が顕わになる。

 

人が生まれ変わるなんてこと

想像を越えることだった。

セロファンに包まれたしあわせ

掌の中にある。

私のためにだけ生きるのではなくなること

しあわせが言葉になり

形になり

空になる。

海になる。

 

     

 

   こうさぎのあしあと

 

音色が恋しくなった夜だった。

二階の窓の外から真新しい雪を見つける。

そこは まだ誰も歩いていない。

新しい雪だけが許されている。

まだ 誰も足跡をつけていない。

私はあの山の向こうへ行こうとしている。

それだけは分かっている。

道はわからない。

私が歩こうとする道

歩いてしまえば、

その足跡は来た道

月が足元を照らしてくれる。

月は私から離れることなく、

私の足跡 私の足元 私の1歩前を

導いていく。

私は跳ねていく。

 

 

 

   霙

 

夜行列車の窓ガラス一面に

さっきの雨だれが結晶へと変わる。

橙色の外灯色へと輝く。

列車の揺れを拒むことなく

下へ下へと固まっていく。

 

窓の向こうの雪

ネオン色に染まり

暗闇の中に流れていく。

白い雪の塊が

黒い世界の中に吸い込まれて行く。

瞳を閉じれば見えてくる物があるというのに

目に映る物は消えゆくものたちばかり。

 

 

 

   小さな者

 

私は小さな者

頭も小さいし、

その唇は美しい言葉を知らない。

 

小さな手にアルミ製のコップを持って並ぶ

瞳の大きな男の子

 

私は限りなく小さな者

小さな者にすぎない。

 

 

 

 

 

   小さな本をひとつ持って

 

小さな本をひとつ持って旅に出ようと思う。

5枚綴りの電車のチケットと

ボストンバッグに下着とタオル1枚詰め込んで

小さな本を手にして旅に出ようと思う。

 

夕闇の中に消えていく

街明かりを見よう。

白くかすんだ海を見よう。

とぎれとぎれの山々を見よう。

 

そして、小さな本を開こう。

あの人の未来の地を見てこよう。

今なら、見ることの出来る場所へ行こう。

私の知らないこっそりとあの人を見てこよう。

 

小さな本を読もう。

言葉がひとつ見つかるはず。

 

 

 

 

   ガンバらなきゃ

 

ガンバらなきゃ!

ガンバらなきゃ!

その小さな女の子は思いました。

お母さんに買ってもらったお気に入りの服を着て

一生懸命走りました。

とても素敵な笑顔をふりまいて

パタパタと足音をたてて走りました。

 

いつしかその服は女の子に似合わなくなりました。

女の子はその事に気付いてもまだ走るのです。

ガンバらなきゃ

そう言い聞かせて走るのです。

 

彼女の荒い息に気付いてあげて下さい。

走ることしか知らない彼女の白い息が

名のない花の種を芽吹かせます。

 

 

 

   証し

 

私が私であるための証しを私はいつも追い求めている。

たとえ、誰かに反対されたとしても、

たとえ、誰にも認められなかったとしても、

私は私であり続けなければならない。

だから、私は私であるという証しをどんな方法であろうと、

捜して、捜して、見つけられずにいられない。

私は他の誰でもなく、私でなくてはならないから。

 

時に、私の涙は私を証している。

また、私の微笑みも私を証している。

そのどちらもなくなれば私は私ではなくなる。

私が私である限り、涙も微笑みも

決して、私から消えることはない。

それは、今の私が私であるからである。

私はそれを確信している。

私の証しを確かに私は持っている。

 

 

 

   素直になってもいいですか?

 

素直に自分の気持ちを言葉にしてもいいですか?

傷つく人はいないでしょうか?

私はますます口下手になります。

何を話したらいいのか分からないのに受話器を取ります。

正反対の不安が交差します。

季節はずれの雹が降ります。

「現実」という名の雹です。

私の思うままを言葉にしてもいいですか?

強がりばかりを口にするこの唇を憐れんで下さい。

 

とてもとても優しい人達がいます。

私の周りに沢山います。

涙も微笑みも分かち合える人達、

だのに、時間と空間が暗闇の中で罪を犯すのです。

 

素直になってもいいですか?