Boite a malice   

 

サボテンの時計

 

心変わりをしました。

恋なんてしない

誰とも一緒に暮らすことなんてないと思っていました。

それは恋ではなくただの憧れ

片思いは実らぬ物と決まっていると

パソコンラックの上のサボテンのように

静寂が好きだったのに

窓を打つ雨さえも手を差しのべないと思っていた。

 

土曜日の夜

柔らかな月光

サボテンの時計は動いていた。

私が気付かなかっただけ

二つの時計が同じ時刻を刻んでいた。

これからもずっと

私のサボテンは時を刻む。

いつかの猫の背のように

私を撫でてくれる人

たったの一秒も違わない。

 

 

 

   反復

 

寄せては返すさざ波のように

繰り返し繰り返し

愛するのです。

照りつける夏の日差しにも

冬の嵐にも驚くことなく

また訳など何処にもなく

愛し続けるのです。

 

キラキラと輝く波を背中に

子供達の砂山を

時をかけて飲み込みます。

 

そして、私は海になる。

 

 

 

 

   ing

 

セピア色の裸の私を見て

泣かないで

 

アルバムを開いて

お腹を抱えて笑った

海での出来事を思い出して

泣かないで

 

離れて暮らす時間が長いから

いつから言葉を交わしていないかと

指折り数えて思い出して

泣かないで

 

どんなことがあっても

失ったものだと思わないで

いつまでもいつまでも

永遠に

変わらないものがあると信じて下さい。

 

 

 

   angel

 

はじめて

彼に抱かれた後

ドアを開けたら

夜が始まっていた。

樅の木の枝の白い雪が光り輝き

それはまるでクリスマスツリー

もしあの白い月に女神がいるのなら

どうか私をangelにしてください。

行く宛を見つけられずにいた私

彼は道を照らしてくれた。

月よ 月よ

私を彼のangelにしてください。

彼のことを見守っていたい。

angelに・・・

 

二人で歩く道を照らしていて下さい。

白く輝く道

 

 

 

   不安

 

信じる

信じない

信じる

信じない

暗闇の部屋の片隅で蹲っていても信じる。

天窓からのうっすら明かりを信じる。

それは太陽の光だから

私は信じる

疑わない。

「不安」

その言葉を思い浮かべただけで涙が溢れます。

 

 

 

   お嫁に行きます

 

私 お嫁に行きます。

あなたが生まれ育った遠い遠い町へ

鞄に愛をいっぱい詰め込んで

愛をこぼさぬように

あなたの笑顔を瞼に思い浮かべて

お嫁に行きます。

旅の道連れに

あなたの名前をつけた

1.5pの淡水魚を連れていきます。

 

私 お嫁に行きます。

ずっと片思いしていたあなたのところへ

涙を捨てて

幸せで胸いっぱいにして

あなたの胸に飛び込みます。

他の誰でもない

あなたのところへ

お嫁に行きます。

 

 

   木枯らしの吹くなかで

 

12月の

木枯らしの吹くなかで

木の葉が舞う陰に隠れて

白いポリ袋が子猫のように駆けていく。

それは鏡の中の私

自転車の間をぬけて

何処へ行くともなく

白いポリ袋が私の前から消えた。

確かな物など何もないと思っていた時代が

消えようとしていた。

幻など何処にもないと信じようとしていた。

 

 

   天国

 

「君は天国に行けないよ」という人がいる。

私の過去の罪を並べて、ひとつ、ふたつ

10まで数えて、

「天国には行けない」

と言う人がいる。

私は

「どうしても天国に行きたいのではない」と答える。

「自分が天国に行けるとは思ってない」

罪を突きつけられる前から

罪の深さを知っているからこそ

赦しを請う。

赦して欲しいと願う。

 

「それでも、お前は何も変わっていない」と言う人がいる。

そうかもしれない。

そして、私は又赦しを請う。

「天国に行くか、どうか、それは私の決めることではない」

と答える。

私はただ赦しを請うだけ。

それが罪だと

たとえ言われようとも。

私は自身、愚かなことを知っている。

愚かは罪だとも知っている。

私は罪人

掌に罪を握りしめ

その手を握ってもらいたいと請う。

 

天国に行けば得するからなんて思っていない。

天国は自分の為にあるものだと決めていない。

むしろ、不安定なもの。

私は天国にはいないかもしれない。

 

それでも、跪き

罪を赦して欲しいと願う。

 

 

 

   過去

 

沸々と音を立てる

茶色のやかんから上がる湯気を

何気なしにみつめる。

消えてはまた上がっていく湯気たち

飲み込んだ言葉たち

吐き出せなかった言葉たち

それらは私の中にあった。

台所で横たわった箒と赤いちりとり

私は窓を開ける。

「火の用心」の拍子木が通り過ぎていく。

帰り路を急ぐナナという名の猫

私の目にするもの

私の耳にするもの

新しくなるわたし

信じることを思い出した瞬間

私はわたしを信じる。