「私は海を抱きしめていたい」(坂口安吾)

 

<引用>私はいつも神様の向こうへ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。ともかく私は地獄の門をめざして出掛ける時でも、神様の国へ行こうということを忘れたことのない甘ったるい人間だった。<引用終わり>

   書き出しの文章である。とても共感できた。人間誰しも、天国と地獄の間をうろうろしながら生きているのかもしれない。自分は間違ったことなどしたことがないとか、罪を犯したことがないなどと大声でいう人は、人格障害に違いない。

   私は海になりたい。この海とは女のことだと思う。惚れた男に「抱きしめていたい」と言われたい。時には優しい聖マリアのようにゆりかごを揺らし、また気まぐれに荒れて見せる。それでも、男にとって女は心和むもの。

   主人公の男は不幸せには見えない。むしろ、海にゆらゆらとしていることが出来るだけ、幸福に思える。

  人からはおかしな奴だと思われるかも知れないが、坂口安吾を読み進むうち、結婚願望が沸々と湧いてきた。結婚は孤独だとハイネは言った。淋しいときもあるだろう。冷たい心になるときもあるだろう。それでも、人を愛すること、愛する人が増える事の方が幸せなことのように思えてならない。

                                     98'8/25