Mal d' amour
ひざまくら
「君と無人島に行きたい。」
僕の額に右手をあてて
前髪をくしゃくしゃってしたよ。
芝生の緑のにおい
ランディライオンよりも
五月の川面よりも
瞳の上の君がまぶしい。
春の恋
風に吹かれて優しく微笑みかける
窓辺の白いパンジーを見習って、
あなたのお傍で
そっと微笑みます。
毎日、ため息をつく暇もなく
他人のことばかり世話をやいている
あなたにたやかな時間を
ほんの少しでも
過ごしていただけるように
樅の木の若葉になって
そよ風を呼びます。
その木陰で、どうぞ、
ごゆっくり、のんびりと
自由な気持ちになっていただけたらと
葉祥明さんのイラストの中に二人だけ
いつまでも二人だけ
いつまでもいつまでも
君の頬があかね色
君の頬があかね色
それぞれ違う合格通知を手にした春
しばらく逢わなくなっていたふたり
卒業式が終われば
もう逢うこともなくなると思った。
その前にどうしても君に伝えたい。
君の頬があかね色
3年間通った校門の前の喫茶店
約束の時間に少し遅れて君
私服の君を見たのは初めてだった。
初めて飲むエスプレッソに
銀色スプーンの音がした。
君の頬が眩しくて
ことばにならない。
「また、明日ここで‥‥。」
こたえは、君の頬
「君の頬があかね色」
やさしいあなたへ
あなたはいつもやさしい
バイクに乗りはじめた時も
「危ないから止めなさい」なんて言わずに
「気いつけや」とだけ
真っ赤な口紅を塗ったこと
知っているはずなのに
何も言葉にしない
無口の向こうに見えてくる
言葉にならない言葉
あなたは私のショール
降りしきる雪の中
震えている私
後ろから私の肩へそっとかけられる
カシミアのショール
遠い空の彼方にいるようで
いつも傍らにいてくれる
あなたはいつもやさしい
天使の扉
わたしの部屋のドアは天使の扉
きっと、ドアの上に天使が
ふわふわ飛んでいると思うの
あの「フランダースの犬」のネロを
お空に連れていった天使たち
ふいにインターホンが鳴ったとき
きっと、天使があの人を連れてきてくれているわ
そしたら、わたしドアに走っていく
今度こそ、素直に
「逢いたかった」
「ずっとずっと逢いたかった」
「わたし、逢いに来てくれるのずっと待ってた。」
「淋しかった」
「逢えて嬉しい」
あの人の胸で、そう言うつもり
「恋」の水槽
そうっと、アルミのコインを水槽に落とす感じ
はらはらと
右へ左へと
ダンスしながら
水草にうなじをなでられ
少しどきりとしたかと思うと
淡い色の小石へ
まっすぐにすうっと
落ちていく
I'm fall in love.
日曜午後4時
日曜の午後4時
ベランダから
白い月を見上げる
あなたの空からもこの三日月がみえますか
あなたのことを静かに 想います。
今頃あなたの車はどこを走っているのでしょう
この季節に白い手
せめて爪だけでもと
左手の親指から
流行のネイルをひきます。
10本目 小指を塗り終わる頃
頬に暖かい雫
今日、あなたは私のことを想い出してくれたかしら
夕刊の来ない午後4時
覚えていたいことが多すぎて
心が破裂しそうです。
わたしの時計
あなたに初めて出会った頃
少しずつ
ゆっくりと
思い出が作られて
思い出の数、いくつになったかな
指で数えられるよ
いくつの春を迎えたか知っているよ
あなたに一番最後に逢ったのいつだったか
ちゃんと覚えている
「さよなら」の手紙を書いて3日後だった
首を横に振るわたし
「彼氏じゃなくてもいいから、
もう、友達よりもワンランク上でいさせて欲しい」と
うつむいてしまうわたし
「『もう、逢わない』なんて言わないで欲しい」と
顔をあげられないわたし
あれから秋がきて冬がきて春がきて
もうすぐ夏がやってくるよ
「さよなら」の手紙を書いた夏
いっぱいいっぱい泣いた夜達
結局、口にできなかったさよなら
わたしの時計が止まってる
須磨海岸
別れの手紙を書いたのは去年の9月のこと
その手紙があなたのもとに届いた日
遠い夏の想い出が
私の部屋の前に立っていた
忘れようとしていた潮の香り
忘れたいと思い続けていた波の音
よせては返す波のように、
私はやっぱりここに帰ってくる。
あの夏とは違う夏がもうすぐやってくる。
波のささやきが心地よい
引いたりもどったり
何度も何度も
永遠に繰り返す
それは決まり事。
心模様
今日の心
降水確率が高いので
あなたに電話するのをやめます。
精一杯の強がり
午後から
しとしと雨が降ってきました。
今日はあなたに逢わないことにします。
優しさに触れたら、きっと、
どしゃ降りになります。
私の心にだけ
集中豪雨
強くなるための強がり
あさ
何時に眠ったかな
少し頭を起こすと
ベランダの植物が風に揺れているのがわかる
暖かい寝息を確かめて口元がゆるむ
その賑やかさに踊らされた夜達
音楽、人の声、灯り、
一人を忘れさせてくれる
汗のにおいのする
分厚い肩に顔を埋めて
心に誓いを立てるのはこんな時なのだと
夢見る少女ではなくなったけど
許せる女になった。
寝返りを打たれると
毛布が首に巻き付いてきた。
目覚まし時計が鳴るまで
瞼を閉じていよう。
セカンドラブ
恋をしていた間、ずっと
不安だった。
怖がってばかり
18の夏のある夜、
その不安と後悔が
堰をきって瞳から流れ出した。
ペットボトル1本分の涙が流れたと思った。
泣きじゃくる私の肩を抱き寄せるから
シャツがそれをうつす。
別れ際、手を振らずに
うつむいたままドアを後ろにしたひと
恋は関数
方程式のわからない関数
Xの線が私
Yの線があなた
4月に出会って
急接近
P点で交わったとして
方程式がわからないんだから
その後のことはわからない。
無限にその点がひとつの線になるのか
それとも、平行線
P点を軸にYの線が放物線状になって曲がるのか
解けないのよ。この恋の関数は
私たちふたりは
一生かかってそれを解こうとするのよね。
Xの愛=Yの愛
Xの愛>Yの愛
Xの愛<Yの愛
どれも正解かもしれないし
誤りかもしれない。
どんな答えがでても
Yが幸せなら
Xが幸せならとお互いに思えたら、
それが幸せな答え
冬の恋
冬に始まった恋は
冬に始まった恋はいつまでも冬です。
雪解けがありません。
心が解け合いません。
語られない言葉がしんしんと積もっていきます。
きっと、季節が春になれば心が解け合うと待っていても
時は何も決めてくれません。
手鏡は嘘をついてくれません。
冬が長すぎて
「春よこい」の歌を忘れてしまいました。
新しい春の歌を歌えば、
深く積もった雪が解けていくような気がします。
清らかな雪解け水が
はるか遠い海を求めて流れる夢を見ます。
そっと さよなら
あの人が働く街にでかけました。
そっと さよならを言うために
歩道橋の上からあの人のお店を見下ろしました。
息を吹きかければあの人がいた朝、
バイト先までフルスピードで送ってくれた車の中の左手
今夜は走りに行っているから迎えに行けないと言われた電話
長い髪の彼女とあの人とわたしと3人
夕方の電車でうちに帰ります。
もう逢うこともない
歩道橋の下を走る車を見て
あの人のお店を見て
遠くの繁華街を見て
車を上から見て
あの人を探して
道行く人を見て
風を見て
あの人を探して
空を見て
そっと さよなら
私は砂時計
今日あなたの想い出をひとつ
台所の流しに捨てました。
こうして少しずつ 捨てていきます。
砂時計の砂が少しずつ落ちていくように
サラサラという音もたてずに
想い出が落ちていきます。
私の涙はあなたに恋した時から
砂時計の砂のように こぼれ続けました。
そして、最後の一粒が落ちたとき・・・・・・
ひまわり
私はひまわり
傷つくことにはもう慣れているはずなのに
どうしても伝えられない言葉。
どうしても聞くことの出来ない言葉。
「はじめ」にも「おわり」にも勇気が必要なこと
知っているはずなのに
私はひまわり
「あなたは私のこと、見つけてくれていますか?」
子守歌
ぐでんぐでんに酔っぱらったとき
どんな歌を口ずさみますか?
ついて出るのは、母の背中できいた歌
途切れ途切れになってしまった。
「ここは地の果てアルジェリア・・・」
何が嬉しくてあんな悲しい歌を背中の娘に聞かせたのか
昨日の夜の
男の腕の下の気づいてもらえぬ涙を思って